そうです。今日の私は意地悪なんです。
「あのねぇ……百合」
「何よ」
「貴女が、柊さんと仲良しなのは分かったわ。分かったけど……それで、貴女、ちゃんと告白はしたの? したのよね? 流石にもう幾らなんでも」
「……してないけど」
「はぁぁぁぁ……」
「そ、そんな溜め息つかなくてもいいじゃないっ!」
「百合、貴女、少し柊さんに甘え過ぎじゃない? 今まで、甘えて――きてたんだろうけど、そこから更に甘えまくって、頭がおかしくなってない? 大丈夫?」
「……千代、この前の学年順位は何位だったかしら?」
「それはそれ、これはこれ、よ」
ええ、私は学年17位でしたが……何か?
学年20位以下になったら塾やら家庭教師を付ける、と宣告されていることもあり、定期試験に関しては常に全力全開。本気も本気。
内心では初めて百合に勝てる! とほくそ笑んでいたのに。
ああ、それなのに……蓋を開けてみれば、音楽以外の全教科で、敗北or引き分け。 多分、音楽なかったら、百合は学年トップの可能性もあったんじゃないかしら? 何故か、歌うのだけは普通なのよね。いや、音痴なのではなく、凄く可愛いんだけど……必死過ぎて、駄目というか、何と言うか。
それにしてもこの子、最近、柊さんに甘えまくって、今回の試験、家でほとんど勉強してない筈(※本人曰く『今回の試験勉強? ほぼ授業だけだけど……どうして?』)なのに……どうして、あの点数なのっ!?
普通、色恋沙汰があったら成績が落ちて、親とか先生とかにたしなめられるのが鉄板展開の筈。それなのに……っ!
くっ……これが、八重垣百合と西連寺千代との埋めがたい差、だとでも言うのっ!? 可愛さ・綺麗さ・スタイルの良さ・勉強・運動・料理(この子、何気に上手なのだ)・裁縫(私が駄目過ぎる)……ど、どうしよう、勝てる要素が見当たらない。
あ、歌うのだけは勝ってる。うん、勝ってるわ。セーフ。ふぅ危ない危ない。
「……千代。今、凄く私を馬鹿にしたでしょう?」
「べっつにぃ~。学年五位の八重垣百合さんには敵いませんなぁ、と思っただけ~。けっ! 普通の人は授業だけで、あんな点数取れませんからねぇ~」
「べ、別に授業だけとは言ってないじゃない。私だって少しは勉強してるわよ」
「百合」
「な、何よ」
「親友の私に、話すことがまだあるんじゃないの?」
「……ないわ」
「本当に?」
「千代、私が貴女に嘘をつくように見える?」
「見える」
「酷いわね」
「特に柊さん関係――あ、なるほど、ね。百合」
「さ、そろそろ行くわよ。次は体育だったわよね?」
「次は、古典ですけどぉ?」
「……そうだったかしら」
少し恥ずかしそうに、一度立ち上がった百合がベンチに再度腰かける。
片手で、光り輝いている綺麗な髪を弄っている。
これ、やっぱり黒ね。
「百合、今ならまだ情状酌量の余地があるわよ?」
「何よそれ。私はただ柊に……あ」
「へぇ~ふ~ん、そっかぁぁ。百合は、柊さんに勉強を見てもらったんだぁ~。あれぇ~? 私は誘われなかったんだけどぉ~?」
「……違うの。偶々、そう偶々なの。夜に話してる時に、少し話が出て、それで」
「はいはい」
「うぅ……千代、少し今日は意地悪ね」
はい、そうです。今日の私は意地悪なんです。
だってねぇ……最近、幸せいっぱいでますます可愛く、そして、綺麗になっている百合に比べて私は……。
試験勉強で寝不足+ストレス+勉強から解放された事によるジャンクフード=その結果は。
……何ですか?
ええ、そうですよ、てきめんに太りましたけど、な・に・かっ!
百合だって、柊さんのお菓子を食べてるんだし、多少はその……ちらりと見る。 華奢な身体。思わず、お腹を触る。
「ひゃっ! ち、千代、なにしてっ」
「……ねぇ、百合」
「?」
「お肉が掴めないんだけど……」
「ああ、最近ちょっとだけ痩せたから」
「はぁっ!? 何で、どうして、普通は太るでしょっ! 幸せ太りって知らない? 知らないのっ!? 世の中は不公平だわっ!! 神様は、神様は何処にいったのっ!? 何? 可愛いから? 百合がとにかく可愛いからなのっ!?」
「千代も可愛いわよ? とっても」
「慰めはやめて。ふーんだっ! どうせ、私には柊さんみたいな人はいないもの。いいーもーん。……今日からダイエットする!」
「あら? 今度、柊が新作ケーキを御馳走したいって、言ってたけど、それじゃ千代はいらないのね。そう伝えて」
「いる!」
柊さんの新作ケーキ!
ああ、神様。さっきは罵ってごめんなさい。西連寺千代は悪い子です。まさか、こんなご褒美を用意してくれているなんて!
楽しみだわぁ。今度のケーキはなにかしら?
――はて、私は何か忘れているような。
「千代、今度こそ行くわよ。遅れちゃうわ」
「あ、うん」
百合が立ち上がり、歩き始める。
こうして見ると、やっぱり綺麗よね、この子
黒髪が光でキラキラ輝いて、魅力を更に増している。
こんな子に迫られたら、幾らあの柊さんでも――はっ!
「百合」
「どうしたの? ほら、行かないと間に合わないわ」
「……柊さんへの告白は何時するの?」
「…………」
そんな目で見ても無駄よ。こんな面白――こほん。親友の一大事を放っておく程、私は薄情じゃないんだからねっ!
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