百合と一緒はとてもとても楽しい。ただ、若干実害もあるのだ。

「百ー合っ!」

「きゃっ。千代ぉ?」

「ごめんごめん。おはよ」

「もう。……おはよう」


 少しだけ怒った表情。こんな顔まで綺麗なんて反則よね、ほんと。

 ふふふ……何時もなら百合の顔を愛でるところだけど、今日のは違うわ。

 ああ、顔が緩むのを抑えきれない。いけない。百合は鋭いから油断してると、昨日覗いていたのがバレちゃう。

 クールよ、千代。クールになるの。そう、私はクールな女、西連寺千代。


「……千代、悪い顔してるわよ? 何を企んでいるの?」

「べ、別に何も企んでなんかいにゃい」

「……ふーん。まぁいいわ。ほら、行くわよ。朝礼に遅れるわ」


 こ、この子、鋭い!

 でも、大丈夫。だって、私には昨日、わざわざ出向いて服選びを手伝ったっいう、大義名分がある。一言、そう一言聞くだけだ。


『昨日はどうだった?』


 その時の反応を思い描くだけで……午前中の授業は戦えるわっ! 

 あ、百合に数学の宿題見せてもらわなきゃ。今日、きっとあたるのよね。

 取りあえず――決戦は、昼休みっ!


※※※


 午前中の激闘(うぅ……数学、わかんないよぉ……人生で、あんな方程式を使うことなんてないと思う……)を終え、ようやくお昼。

 今日は暖かいから、と中庭のベンチに陣取り、お弁当を広がる。

 私のは普通。とっても、普通。特に描写する必要性もない。お母さん、何時もありがとう。

 百合のをちらり。今日も凝ってるわねぇ。そのサンドイッチ、専門店のにしか見えないんだけど。え? しかも、スープ付きなの?


「……千代、何?」

「いや、毎日、凝ってるなぁ、って。百合が作ってるの?」

「まさか」

「え? それじゃ……あ~。そっか、そっか。愛しの旦那様か」

「……ノーコメント」

「百合、顔が赤いわよ。あーあ、いいなぁ。百合は愛されてて。私もそんな彼氏がほしいなぁ」

「べ、別に、か、彼氏じゃないもの……まだ」

「ふ~ん」

「千代、今は食事中なんだからね」

「はーい」


 は~楽しいっ。なんて楽しいんだろう。

 百合はあんまり隙らしい隙を見せてくれなかったけど、この話題については、隙だらけ。と言うより、ノーガード。もしくは、防御力0。

 嗚呼、私は、どうして今までこんな面白い――こほん。親友の一大事を聞いてこなかったのかしら。

 過去の私、もっと頑張ってっ! 目の前でお澄まし顔をしてる美人は、柊さん(昨日は驚いた。今度、サイン貰わないと。昔から大ファンなのだ)の前だと、とっっても可愛く、愛らしい女の子なんだから。


「……ねぇ、私の顔に何かついてるの? さっきからニヤニヤして」

「大丈夫。何時も通り――何時もより可愛いから、百合は」

「千代、朝から変よ?」

「何処がぁ? 御馳走様でしたっ! 百合、飲み物は?」

「私は、持ってるから」

「そ。私、買ってくるね。さっき、混んでて買えなかったから」

「ええ」


 スキップしながら、自販機へ。

 さて、今日は――ん?

 後ろから、中等部の女子達。知らない顔の子達だ。何だろう?


「さ、西連寺先輩」

「そうだけど、貴女達は?」

「あ、私達はそのですね……御二人のファン、と言いますか……憧れてますっ! よろしければ、一緒にお茶を」

「んーごめんね。私はいいんだけど、あの子――百合はあれで人見知りをするから。それに、気を遣ってお二人なんて言わなくても大丈夫よ」

「え? そ、そんな事」

「そうよ、千代はとっても可愛いのに。あと、人見知りするのは私じゃなくて、貴女でしょう? 人を貶めないの。貴女達も、私達は単なる女子高生。まぁ千代は可愛いけれど、私は極々普通よ。お茶をしてもそこまで楽しくはないと思うわ。ごめんなさいね」


 何時の間に。こういうところを含めてスペックが違い過ぎると思うんだけど。

 それと、今の表情! ほら、中等部の子達がますます、憧れの表情になってるわよ?

 しかも、普通って……普通の定義についての議論が必要ね。あと、私は別に可愛くないし。

 百合と一緒なのはとてもとても楽しい。けど、若干実害もあるのだ。


「千代、行きましょう。それと、何度でも言うけど貴女は可愛いわ」

「百合、全然信じられないんだけど……」

「なら――いいえ、何でもないわ」


 一年生達に手を振る。

 大丈夫。百合は何だかんだ優しいから、きっと時間を取ってくれると思うわ。諦めないでっ。

 ……それにしても、さっき百合は何をいいかけたんだろう?

 ベンチに戻り、お礼を言う。


「ごめん、ありがとう。助かったわ」

「困ってしまうわね、ああいうの。慕われるのは良いのだけど……私に憧れないで、千代だけを愛でとけばいいのに」

「いやいやいや。どう考えても百合だからねっ!?」

「……止めましょう。この話題は不毛だわ」

「結論は一つだと思うけど」

「はいはい」


 そう言いながら、百合は小さなポット(白猫が描かれている。可愛い)から、ミルクティーをカップに注ぐ。

 あ~いい香り。

 ゆっくりとそれを飲む姿も絵になるわねぇ。ほんと、綺麗だと思う。

 まぁ、今、私が聞くべきことは


「ねぇ」

「何かしら?」

「そのポット、どうしたの?」

「……別に」

「ふ~ん」


 これは追及しなきゃっ! 

 ほんとっ、百合と一緒にいるのは楽しくて仕方ないわ。 

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