1-2 星族
オレたちは再び、星族に礼をすると客室へと向かう。門の中はどこの国も同じような構造なので、初めて来た国でも迷うことはない。客室だろうと思しき部屋の扉を開けると、何の装飾も無い石の壁に囲まれた部屋に、椅子とテーブルが並んでいた。オレとカシェルは部屋に入り、横に並んで座った。
星族は基本的に、星族以外の一般人とは関わらない。ただし、一部の王族とは面会し、結界の状態や周辺地域の情報を交換し、共有する。今日のところは王子と顔合わせ程度の面会だろう。
「王子様……どんな人なんだろうね」
「さぁな。どんなのだっていいよ……話すことは決まっているし」
オレはそう言いながらフードを外す。星族は深いフードを被っているので、表情が見えにくい。いちいち話す相手の表情を気にする必要がないから、余計なことを考えなくて済むのは良い。けれど、オレは単純に視界が狭くなり鬱陶しいので、他の星族の目につかないところでは、フードを外すのが習慣になっていた。
髪を手で整えていると、カシェルもフードを外して、頭を左右に軽く振った。ゆるく巻かれた長い髪が揺れる。
「王子様に、変な目で見られちゃうかも。星族なのに頭を隠してないなんて」
「そんなこと、いちいち気にしないだろ」
「そうかな……?」
カシェルはフードを浅く被り直すと、髪を隠すようにフードの陰へと落としこんだ。
しばらく待っていると扉が開き、星族に連れられて王子と思しき男が部屋へと入ってきた。きちんとした
「お初にお目にかかります。我々が、本日より面会させていただく結界役の星族となります」
「……了解した。私はこの国、ミストーリの第一王子でディーンという。よろしく頼む」
「ラスイルと申します。以後お見知りおきください」
オレとカシェルは、もう一度、深々と礼をした。王族とは揉めたくないので、それなりの態度を見せておかなければならない。頭を上げながら王子に目を移すと、オレとカシェルを見て僅かに微笑んだように見えた。だが、王族が星族に微笑みかけるなど、聞いたこともない。余程良いことでもあったのか……オレの気のせいだろうと思い、席に着く。王子はオレたちが座ったことを確認すると、話を始めた。
「最近は黒の魔物の目撃報告も減りつつある。貴君らのおかげだろう。感謝申し上げる」
「とんでもごさいません。我々は結界を守っているだけです。きっと、この国の兵が優秀なのでしょう」
王子に謙遜して受け答えをする。その"黒の魔物"なら、ついさっき見たばかりだが……そんな報告はしない方が賢明だろう。
「結界は、貴君らに任せることになってしまうが、何か異変があったら直ぐに呼び出してくれて構わない。星族とは良い関係を続けていきたいと思っている」
「承知しました。精進いたします」
「ありがとうございます。ディーン王子」
オレに続けて、カシェルが突然口を開いた。慌ててカシェルを見ると、王子の顔を見つめて笑顔を振り撒いている。全く……いつもそうだ。カシェルは深く考えない。王子の愛想笑いのような表情に反応したのだろう。当然のように王子は、カシェルの顔を見て驚いた表情をしている。
「
「カシェルといいます。よろしくお願いしますね、王子様」
カシェルはさらりと名乗り、にっこりと微笑んだ。王子は戸惑いながらも笑顔を返す。
「こちらこそ、よろしく頼む」
カシェルは、いつでもどこでも穏やかな空気を作り出す。
「ラスイル、がんばろうね?」
「ああ……うん……」
カシェルの所為で、オレは何も言えなくなる。どうしたら良いかわからずに目線を泳がせると、王子は少し驚いたような表情でオレを見ていた。
「な、何か……?」
「いや……」
王子は、何かを言いかけてやめるように視線を落とした。そのまま、さっと立ち上がると表情を戻す。面会の目的は果たしたと思ったのだろう。
「それでは、今日のところは国務があるので、私はそろそろ失礼する」
「有り難うございます。感謝致します」
オレとカシェルはその場に立つと、また深々と礼をした。
――――――――
それから、何人かの星族に挨拶をしてまわった。星族は基本的に感情が希薄だが、この国はその傾向が強いのかもしれない。誰もが無表情のままで、ただ生きているだけの人形みたいな奴らだった。
いつも隣で微笑んでいるカシェルは、星族としてはかなり変わっているのかもしれない。けれど……とても貴重な存在に思えた。
その分、気苦労は絶えないが。
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