18. 光
硝子の砕けるような音が耳を劈くと、眩しすぎる閃光に包まれて、反射的に腕で光を遮った。
どうなったんだ……ルーセス王子は?
酷い耳鳴りがして、周囲の音は何も聞こえない。時が止まってしまったように身動きも取れず、周囲の強い光だけを感じる。
結界は消えたのか……?
『ラスイル……』
なにかが、オレに話しかけてくる。強過ぎる光を腕で避けながら目を細め、少しだけ目蓋を開く。
光。そこにあるのは光だ。
「なんだ……?」
黄金色の光のなかに、何かの気配を感じる。明らかに人ではないその
『……私の声が聞こえますか』
姿形こそ無いものの、その光が微笑みながらオレに語りかけているのがわかる。閃光の如く強い眼差しをこちらに向けたまま、ゆっくりとオレに歩み寄ってくる。
『星族は人々を支配しているのではありません。結界の中で生きる人々に、希望の光を届けているのです』
「希望の……光?」
オレは目を閉じたまま、静かに深呼吸をしながら、その者と視線を合わせないように顔を背けた。
『だから結界のなかで生きる人々は皆、希望を抱いて明日を生きているのです』
星族が、希望を届けるだって……?
「でも結界は、ルーセス王子の力を利用しているのでは……」
『利用しているのではありません。あるべき場所に、分け与えているのです。ひとりで抱えるには大き過ぎる強い光を、分け合い、支え合うために星族は生まれました。遠い昔に、光の魔法使い自身が、そうすることを選んだのです』
疑いの余地を与えない真っ直ぐな眼差しが、オレの疑念を払拭するように語りかけてくる。だが、この光が話すことは、水の精霊に聞いた話とは違う。憶測に過ぎなかったとはいえ、カシェルと話していたこととも違う。それに……希望を届ける……だって?
光に支配されないように自分を保ちながら、慎重に言葉を選ぶ。
「光の魔法使いが……ということは、過去にルーセス王子が星族を作り出したということなのか? 星の意思ではなかったのか……?」
『私の話が、信じられないですか?』
光が、俯きながら少し弱弱しく話したのがわかる。何も見えていないというのに、その仕草に、妙な罪悪感を憶える。
『結界を消してはいけません。希望の光を届けるのが困難になるのです。希望の光である、結界を消してはいけないのです』
オレをじっと見つめるその光は、希望に満ちているのかもしれない。正しく、美しいのかもしれない。でも……今のオレには、眩しすぎる。
「それならば……なぜ星族自身が希望を持つことは無いのか……星族は、その瞳に希望の光を宿すことはない。オレもカシェルも他の奴らも、星族は誰もが希望の光を持っていない。それなのに、それなのに夢と希望を与える存在なんて、そんな話、信じられるわけがない!」
微笑むのが上手なカシェルでさえ、その翠色の瞳には輝きが無い。オレのくすんだ灰色の目だって、同じだ。そんなオレたちが、希望の光であるわけがない……!
『そんな哀しい目をしないで……』
まるで涙でも零しているかのように、キラキラと光が眩しく瞬いた。
『光の中では希望の光を見ることはできないのです。闇の中で輝いているから、希望の光なのです』
光が近づいてきて、そっとオレを抱きしめるような感覚がする。見えないものに優しく抱きしめられている、その妙な感覚が、とても気持ち悪い。
『ルーンに言われたことを鵜呑みにしてはいけません。すべての真実を、ルーンは知り得ないのです』
「ルーン……水の精霊のことか?」
『わたしがあなたを助けます。わたしがあなたを守ります。わたしが、あなたの希望を……守ります』
オレの、願い……?
『だから、わたしを呼んでください』
突如、光が小さくなり周囲が闇に消えていく。
『わたしの名はリヒト。わたしは光の精霊、リヒト……』
はっとして、消えゆく光に手を伸ばした。
「リヒト……光の精霊……!」
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