ようこそ、魔術塾へ(3)
「んーもうー翔太くん。ちゃんとリアクションとってよー」
ジャック塾長は腕を組み、不満気な表情をする。
「うっ、うわーー、すっ、すごいですねー。まさかルーナのパパさんだったんですねー。」
苦笑しつつ明らかな棒読みで、お望み通りリアクションをとる。
「うんうん、いいリアクション!じゃあ、そこに座って、翔太くんとルーナちゃん♡」
こんなリアクションでOK貰えるのかとジャック塾長の単純さに疑問を抱きつつ、俺は案内された通り席についた。
ジャック塾長は、にこやかな表情で俺達を見つめる。
すると、ルーナが俺の肩を軽くポンポンと叩いてきた。
「翔太、あんたも時期に慣れるわよ」
さすが娘とあって、その言葉には説得力が感じられる。
「ようこそ、魔術塾へ。ルーナちゃんからお話は聞いてると思うけど、翔太くんには、プロの魔術師になってもらいまーす!」
楽しそうに話すジャック塾長。
朝からテンションの高いジャック塾長。
恐らく、普段からこんな感じなのだろう。
この時ばかりはルーナが気の毒に思えた。
「あのー、塾長。3ヶ月でプロになんてなれるんですかね?」
「なれるなれる!だって、ルーナちゃんがスカウトしたんだから大丈夫だよ!あっ、でも、もし合格しなかったら……」
そう言うと、ジャック塾長はいきなり鬼の形相になり俺の顔を覗き込む。
「ルーナちゃんの顔に泥ぬったら、ただじゃおかねぇからな。このクソ甘ちゃん野郎」
いきなりのキャラ変に戸惑う俺。
ルーナが色々な表情、いや、キャラを俺に見せるのは、親譲りなのだろう。
「わっ、分かりました!せっ、全力で頑張りますんで、少し離れていただいても……」
顔をひきつらせながら俺はジャック塾長に答える。
チラッと横にいるルーナを見ると、退屈なのか毛先をクルクルと遊ばせていた。
俺を助けようとは一切しない。
「ごめんごめん。娘の事になるとついムキになってしまうもんでねー。あっ、それともう1個言い忘れてた」
斜め上の方を見てとぼけた顔をするジャック塾長。
思い出しているようで、その場に静けさがただよう。
息を呑む俺。
そして、思い出したかのようにハッとした表情をして、満面の笑みを浮かべ口を開いた。
「翔太くん。ルーナちゃんの旦那さんになってくれないかなー?」
時が止まる。
俺とルーナは、ゆっくりとお互いを見つめた後、すぐにジャック塾長の方へと振り向く。
「えーーーーーーーー!!!」
二人の叫び声が塾長室に響き渡る。
「ちょっとパパ!何で、こんな凡人のむっつり変態野郎が旦那さんなの!あり得ない!絶対無理だから!」
「ちょっ、ちょっと待ってくだい、塾長。いや、そんな事いきなり言われても無理ですよ!ただでさえ、プロの魔術師になるだけでも困惑してるんですから」
俺とルーナは、必死になってジャック塾長を責めたてる。
「だってだってー、ルーナちゃんにお似合いの人この世界にいないんだもーん。お互いムキになるとこも似てるし、お似合いだよね〜ほんとに。それに……」
しかし、ジャック塾長は、その後の言葉を言わずに立ち上がった。
さっきの明るい雰囲気とは違い、どこか物悲しい雰囲気を感じる。
何か遠く見るような目をして、窓から見えるラグーンの街並みを見つめる。
「まあ、翔太くん!これからルーナちゃんと仲良くしてね。じゃあ、僕は教会に用事があるからまたね〜」
にこやかな表情に戻るジャック塾長は、手を振りながら塾長室から出て行った。
塾長室に取り残された俺とルーナ。
2人の間には気まずい雰囲気が流れる。
こういう時、ドラマの世界なら男がフォローするのだが……。
あいにく俺にはそんな勇気も度量も無い。
使えもしないのに魔術に頼りたいと思う俺。
すると、ルーナが重い口を開いた。
「とっ、とりあえず、教室行くわよ」
顔を真っ赤にして足早に部屋を出るルーナ。
俺も急いでルーナの後を追っていった。
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