新卒社員が異世界で魔術師候補生に選ばれた件
坂昇
プロローグ:新卒社員の1日
”チリリリリリリリリリ”
大音量のアラームの音で目が覚める。
眠気眼のまま枕元にあるスマートフォンのアラームを消し、重い体を起き上がらせベッドから降りる。
そして、四方八方にはねたボサボサの髪を手でとかしながら、黄緑色のカーテン開ける。
すると、窓からはきれいな朝日の光が差し込み、寝起きの重い体を包み込んでいった。
晴天に恵まれた気持ちの良い朝。
キッチンに向かい自分で朝食の準備をする。
トースト、ヨーグルト、ホットコーヒー。いつも通りの朝食だ。
朝食をたいらげ、テキパキと身支度を済ませる。
玄関の鏡で髭の剃り残しをチェックし、まだ汚れの少ない黒の革靴を履き、家を出て駅へと向かった。
改札を抜けホームに着くとスーツ姿のサラリーマンや通学の学生で印ごとに列をなしていた。
1つの列に仲間入りして、スマホを片手にし、イヤホンを装着してお気に入りの曲を聴きながら電車を待つ。
電車が着くと、車内の席は全て埋まっていて、ちらほらとつり革を掴んで立っている人もいた。
降りる人を優先してから車内に入る。
右手でつり革を掴み、電車に揺られる。
途中の駅で降り、今度は朝の通勤通学で満員となっている地下鉄に乗り換え、会社へと向かった。
会社に着き、いつも通り任された仕事をこなす。
いつも通り定時に上がり、次は帰宅ラッシュの満員電車に揺られ自宅へと帰る。
部屋着に着替えると、帰り道で買った安い弁当を食べ、少し休憩してから風呂に入った。
風呂といっても、沸かすのは面倒なのでいつもシャワーで済ませている。
風呂から上がり、タオルで一通り髪や体を拭き、上下グレー色のスウェットに着替えると、半乾きの髪の毛のままベットに入り、アラームを設定して眠りにつく。
休日以外は毎日、この生活の繰り返し。
何不自由のない生活だ。
佐藤 翔太
人の目をパッと引くような名前ではない名前こそ、俺の名前だ。
今年の3月に四年制大学を卒業し、4月から1年目のサラリーマンとなった。いわゆる新卒の社会人というやつだ。
大学はそこそこのレベルの理系大学に進学し、会社も世界で有数の大企業ではないが、世間的にはそこそこ知名度のある会社に就職をした。
経歴も世間でいう新卒社員と何ら変わらない。
学生時代もそれなりに楽しんでいた。友人と飲みに行ったり、旅行に行ったり……。だが、それは一時的な楽しみで永続的なものではない。
恋愛も人並みにはしてきた。だがいつも長続きはしていない。
もちろん夢も昔から抱いていた。
「こんな人物になりたい!」
「有名人になってみたい!」とか。
しかし、そんな後先の見えない将来の姿に悩み、結局何も行動を起こさないまま時間だけが過ぎ今に至る。
中途半端で、結局夢も希望も捨て、安定した人生を送っている自分に心のどこかでモヤモヤとしたやりきれない感情が芽生え続けていた。
しかし、そんな毎日があの瞬間、あの出会いで変わっていったのだった。
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