ようこそ、魔術塾へ(5)


 中庭に着くと、無表情のセバスが腕を組み俺の到着を待っていた。


「遅いぞ。お前、おじけづいたのか?」


 不敵な笑みを浮かべるセバス。一方の俺は、強張った顔を無理やり笑顔にしてリアクションをとる。魔術戦と聞いて、初めての経験の俺には戸惑いと恐怖しか湧いてこない。


「じゃあ、僕が審判するね!ルールは簡単!どちらかが倒れたら負けってことで!僕、審判するのとか初めてだなー」


 ワクワクしている様子のレイス。


 あーあ。入塾早々この仕打ち。あれか、新人イジメってやつか。もう勘弁してくれよ。


 俺は、とうとう笑顔を保てなくなり、強張る顔を隠すようにうつむいた。そんな事は気にもかけずレイスが進行を始める。


「んじゃ、始めるよ。それぞれの魔術媒体を出して、構えて!」


 2メートルほど先を見るとセバスが魔剣を鞘から抜いていた。見よう見まねで俺も、腰につけたホルダーから杖を取り出す。


「出たよ!セバスの魔剣!」

「なにあれ?杖?勝負する気あんの?」

「勝負は目に見えてんな」


 クラスの奴らが口々に話し始める。


 おいおい待てよ、あいつ、魔剣師なのかよ!

 これじゃ勝負にならねーじゃん。

 最初から分かってたけど、負け確だな。


 勝ち目のない戦いに挑む虚しさを俺はひしひしと感じていた。


 両者の様子を見るレイス。

 そして、レイスが右腕を天に向ける。


「セ・パルティ!!」


 天に向けた右腕を勢いよく振り下ろすレイス。

 どうやら魔術戦のスタートの合図らしい。

 そして、合図とともにセバスは詠唱を始める。


「術式を構築……術式解放!バレーノ!」


 セバスは魔剣を軽く振りかざした。振りかざした魔剣から稲妻が放たれ俺の方へと向かってくる。

 身の危険感じてとっさに避ける俺。


「フッ。外したか。まあ、いい」


 続けざまに稲妻を放つセバス。

 そんな俺は、ただただ稲妻から逃げ続ける。

 まるで鬼ごっこのようだ。


「何逃げてんの、翔太!戦いなさいよ!」


 傍観者の生徒達にまぎれていルーナがヤジを飛ばす。


 どうやって戦うんだよ、こんなの。


 そう思っていると逃げ惑う俺の視線の先にレイスが見えて、昨日の事を思い出す。


 そう、レイスが俺を助けた時の気絶の魔術だ。


 あれなら俺でもできるかもしれない。


 セバスの方に杖を向ける。走りながら杖を構えているため、セバスをなかなか捉えられない。焦点が合うタイミングをうかがう。


 そして、反撃のチャンスは訪れた。


「今だ!術式を構築!術式解放!気絶しろーー!」


 するとセバスの攻撃の手が止まる……


 よし!成功したか!?


 息を呑む俺。


 しかし、その期待はすぐに裏切られた。


「んー、おかしいな。さっきからクラシック音楽が頭の中で流れてるだよなー。お前、俺の事なめてんだろ?」


 嘲笑しながら俺を見つめるセバス。


 嘘だろ!全然効いてねーじゃーん!

 このままだと感電死して、マンガのように真っ黒に焦がされる。

 この歳で死ぬのかよ……いや、まだ生きていたい!


 俺は、ホルダーに入れていたもう1つの杖に手を伸ばす。


 カフェで老人から譲り受けた白い杖だ。


 しかし、その杖に手をかけた瞬間、誰かが俺に語りかけてきた。


「今は、その杖を使う時じゃない」


 透きとおった声が俺の脳内に伝わる。

 俺はキョロキョロと辺りを見渡す。

 しかし、周りの様子は何も変わっていない。どうやら俺にしか聞こえていないようだ。


 俺は、白い杖に手をかけたまま立ち尽くす。


「何、ボーッとしてんだ!勝負してる時に、半端な事する野郎が俺は一番嫌いなんだよぉ!これで終わりだ!バレーノ!!!」


 呆然としている俺にセバスの稲妻が襲いかかる。


 気づいた時には既に遅く、一瞬の激痛と共に俺は意識を失っていった。

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