罰に潜む影(5)

 大きな唸り声をあげる双頭の魔獣。

 唸り声の影響で、室内が地揺れを起こす。


「ルーナ、こいつは一体何なだよ?」


 声を震わせながらルーナに問いかける。


「キマイラよ。召喚術で生み出された魔獣。こいつは相当レベルが高いわよ」

「マッ、マジか……これがあのファンタジーによく出てくるやつか……しかし、カッコイイな」


 恐怖を感じながらも、少し子供心がくすぶられる俺。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


 明らかに余裕が無いルーナ。その表情は、この緊迫した状況を物語っている。


 一方の俺は、ルーナの緊張感がダイレクトに伝わり、ますます恐怖心が増していく。

 両足はガクガクと震え、ただキマイラを呆然と見つめるしかできない。


 すると、キマイラは歯ぎしりを立てながら勢いよく飛びかかってきた。


 ルーナは、動けない俺を掴んで、慌ててキマイラの攻撃を避ける。


「やばい!襲ってきたぞ、どうすんのルーナ!」

「どうすんのって……とりあえず、杖出しなさい!」

「おい、また戦うのかよ。初心者には、無理だって!もうやだよー死ぬのなんか!」

「つべこべ言うな!凡人なりに何とか頑張んなさい!とりあえず、扉まで向かうわよ!キマイラは、あたしが対処するから」


 ルーナは、襲ってくるキマイラに杖を向けると、頭の中でイメージを膨らませていく。


 そして、イメージが固まった瞬間、ルーナは、魔術を唱えた。


「術式を構築!術式解放!ミュール!」


 すると、床から鋼鉄の壁が現れてくる。


「これで何とか食い止められるわ。さっ、早く行くわよ」


 俺は、震えた足に拳を入れて自らを鼓舞させると、ルーナと共に扉に向かって全速力で走った。


 しかし、キマイラは凄まじい力で壁を壊す。


「やべぇよ!どんだけ強いの、あいつ!やばいって!ほんとに!」

「さすが上級の魔獣ね」


 ルーナは、立て続けに魔術を発動させ、何十枚もの鋼鉄の壁を作り出す。


「これで、扉に着くことができそうね!早く走るよ」


 しかし、キマイラは次々に壁を壊していく。


 追いつかれないように必死に扉まで走り続ける俺とルーナ。

 ルーナは、壊されては何度も壁を精製し、足止めに成功した俺達は、遂に扉の前まで着く事ができた。


「はぁはぁ。翔太、早く開けなさい」


 俺は、息を切らしながら、ルーナに言われた通り扉に手をかける。

 だが、扉は開かない。

 全力の力を出して引っ張っても開く気配を見せない。


「ルーナ、扉開かないよ!やばいって!」

「もう、どんだけ力弱いのよ!術式を構築!術式解放!扉よ開け!」


 ルーナが魔術を発動させ、再び扉に手をかけたが、やはり開かない。


「そんな……まさか、魔術で扉が封印されてる……誰かにはめられたわ」

「嘘だろ!勘弁してくれよ〜。何でこんなに俺には運が無いんだよ。もうここで俺の人生おしまいかな……」

「寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ!とにかく、何か良い方法を考えないと」


 悲壮な顔つきの俺に、声を荒げながら必死に策を模索するルーナ。

 その表情は、今までに見た事のない真剣なものであった。


 だが、その瞬間。


 キマイラが、最後の壁を壊し、とうとう俺達の目の前に現れたのだった。

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