罰に潜む影(6)
目の前のキマイラは、鋭い牙を光らせて、俺達に襲い掛かってくる。
「術式解放!我が身にスピードを与えよ!」
ルーナは、俺の腕を掴むと、自らの足元に杖を向け瞬時に魔術を発動させる。
足元に青白く光った術式が現れた瞬間、ルーナは、一歩足を前に進めた。
その瞬間、凄まじいスピードで体が動き出す。まるで瞬間移動しているかのようだ。
ルーナの魔術のおかげで、何とかキマイラの猛威から逃れることができた。
その後も、俺達は、スピードを維持したまま、キマイラから距離を取っていく。
「どうすんだよ、ルーナこのままだと2人とも死んじゃうよ!」
「弱気になってんじゃないわよ!それでも、あんた男なの!ほんとっ呆れる」
「ごめん……」
ただ、謝ることしかできない俺。
男なのに女に助けられてる俺は何と情けないんだろうかと心の中で嘆く。
だが、無力な俺にはルーナを頼るしか方法はなかった。
「もー、うじうじすんな!とにかく、もう選択肢は一つしかないわね」
「選択肢って……まさかあいつを倒すとか言わないよな……」
嫌な予感はプンプン漂っているが、恐る恐る聞いてみると、ルーナは何の迷いも無いかのようにコクリと首を縦に振る。
「おい、ちょっと待てよ。あんな化け物倒すなんて無茶だろ」
「やってみなきゃ分かんないでしょ」
ルーナは、追いかけてくるキマイラと杖を交互に見つめる。
「確か、キマイラは火属性の魔獣。水属性の魔術なら効果はあるはずだわ。あー、もう、何でこんな時に魔銃忘れたんだろ」
「ルーナって魔銃師なのか。ってことはレイスと一緒か」
さすがは幼馴染。
魔術媒体も一緒とは。
感心すると同時に、俺は自分の杖を見つめて、ため息をつく。
俺には、杖しか使う事が出来ないのか……。
「今、そんなこと話してる場合じゃないでしょ!状況考えなさいよ、バカ!ほら、来るわよ」
ルーナは、呆然と杖を眺める俺の肩を思いっきり引っ叩き、前を指差す。
すると、双頭のキマイラは、二つの口を開くと、猛火を俺達に向けて放ってきた。
すかさず、ルーナが猛火に向けて杖を向ける。
「術式を構築!術式解放!ピスト・アクエリア!」
ルーナの杖から水の波動が放たれ、猛火とぶつかる。
そして、ぶつかった衝撃波が俺達を直撃し、勢いよく吹き飛ばされる。
「やっぱり杖だと力が弱いわ。大丈夫?」
「何とか……生きてるよ……」
床に両手をつき何とか起き上がる俺とルーナ。
しかし、キマイラは、お構いなしにこちらに向かってくる。
ルーナは慌てて辺りを見渡し何かを探していた。
「あった!翔太、これに乗るわよ!」
俺は、ルーナの声の先に視線を向ける。
そこには、箒を手に取りまたがるルーナの姿が見えた。
なるほど!その手があったか!
俺は、ルーナの機転の早さに感心しつつ、ルーナの後ろにまたがる。
「ちょっ、何してんのよバカ!箒もう一本あるじゃない」
「だって、箒の乗り方知らねぇんだもん。てか、前見ろよ!キマイラまた飛びかかってくんぞ!」
「ほんとっ使えないわ、あんた!しっかり掴まってなさいよ」
ルーナは、勢いよく飛び出し、キマイラからの強襲を間一髪のところでかわす。
「うわー!マジで飛ぶんだ、箒って」
「感動してる場合じゃないでしょ!ほら、下見なさいよ!また追いかけてきてるんだから」
「まあ、飛んでるんだし、大丈夫だろ!」
「あんた、キマイラなめてんでしょ」
ルーナが俺に呆れた口調で言ったその瞬間!
キマイラが、後ろ足を蹴り上げ、飛んでいる俺達に飛びかかってくる。
キマイラの鋭い爪が箒の先をかすめる。
驚きのあまり、乙女のような悲鳴をあげると同時にルーナに抱きつく俺。
「ごめん。ほんとごめん。なめてました。許して」
「分かればいいのよ……っていうか、あんたどこ触ってんのよ!」
ルーナは顔を真っ赤にして声を荒げる。
俺は、訳がわからず、おもむろに斜め下に視線をやると、俺の両手は、完全にルーナの胸を鷲掴みにしていた。
「ルーナ」
「ちょっ、何よ」
「クレアより小さいんだな」
「うっさい!バカ!てか、あんたやっぱりクレアの胸触ったのね!」
「いや、だから、あれはハプニングだって言っただろ」
「けど、触ったのは事実でしょ!てか、あんたいつまで掴んでのよ!離しなさいよ!」
箒を大きく横に振り、胸を掴んだ俺の両手を離そうとする。
「落ち着け!離すから暴れんな」
俺はルーナの胸から両手を離した。
だが、その瞬間。
俺は、バランスを崩し、箒から真っ逆様に落ちていった。
どうやら胸を掴んでいる事で、バランスを保てていたようだ。
落ちている俺にキマイラが鋭い牙を光らせ襲いかかってくる。
やばい。俺、とうとう死んだな……。
目を瞑り自らの覚悟を決める。
「翔太、危ない!」
全速力でルーナが落ちていく俺を追いかける。
何とかルーナは、俺に追いつきピックアップした。
だが、ピックアップしたと同時に、俺達はキマイラの凄まじい強さの突進をまともにくらってしまったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます