罰に潜む影(4)


「はぁっ。はぁっ。術式を……構築。術式解放!」


 積み上げられた本が、宙に浮く。

 杖を使い、本棚へ誘導しキレイに収納した。


「ちょっと、翔太!あんた、整理すんの遅すぎ!魔術何回使ったの?」

「12回……けど、成功したのは、今のが初めて」

「はぁ!信じらんない!初歩中の初歩の魔術よ!誰だってこんなことできるわ!ほんと才能無さすぎ」


 大きくため息をつき呆れるルーナ。


「魔術の無い世界にいた人間に初めから出来っこねーだろ。それにこの世界に俺を連れてきたのはルーナなんだし。ほら、退屈そうにしてないでちょっとは手伝えよ」


 俺は、魔術を使ったせいか体力を消費し、体中から汗が吹き出していた。

 一方のルーナは、用具室に置いてある古い椅子に足を組み座っていた。

 そして、鼻歌を歌いながら退屈そうにして俺の様子を見ている。


 手伝おう、助けようという、善良な人間の心など、ルーナには微塵も無いようだ。


「手伝うわけないじゃない。一応、あんたをスカウトした責任があるから、監視してあげてんの。一緒に来てあげてるだけでも、ありがたく思いなさい」


 ルーナの女王様のような態度にイラつきながらも、俺は黙々と整理を続ける。


 そして、何とか用具室の4分の1程が片付いた。


「ようやく4分の1ぐらい片付いたわね。ほら、残りもさっさと終わらせなさい」


 疲れ切って床に倒れこんでいた俺を無理やり起こし、先へと進んでいく。


 少し奥へ進んだ時、奥から何やら音が聞こえるのが分かった。


 "キーン、キーン"


 何か金属の様なものが擦れる音。


「うわっ!!なになに!怖い怖い!」


 俺は、思わず声のトーンが高くなる。

 ソワソワしながら辺りをキョロキョロと見渡す。

 そんな俺の乙女のような姿を、白い目で俺を見るルーナ。


 さらに先へと進んでいくと、その金属音は徐々に大きくなっていく。


「何か変だわ。空気も殺気立っている。この奥に何かいるのかも……」

「ルーナ怖いこと言うなよ〜。俺、そういうのほんと苦手なんやから」

「オバケかもよ」


 怪談話をする時のように、ルーナは灯りを自分の顔に向け不吉な顔で俺の方を見る。


「ギャーーーッ!」


 俺は、恐怖のあまりルーナに抱きついてしまう。


「キモイ!!離せ!変態!」


 ルーナは、俺に一発強烈なビンタをお見舞いし、抱きついてきた俺を無理やり引き離す。


 その後もどんどん先を進んでいくルーナ。


 ビビりの俺は、ルーナの服の袖を掴みながら、ルーナのすぐ後ろをくっつくように付いて行った。

 女子にされて嬉しい胸キュンポイントを、男がするという異様な光景だ。


 "キーン、キーン"


 音が、間近に聞こえるのを感じ、ルーナは明かりを前方に向ける。


 その瞬間、音の正体が露わになり、絶句する俺とルーナ。


 そこには、目を瞑った双頭の獣が鎖で繋がれていた。


 どうやら眠っているようだ。


 人間が寝ている時に寝返りを打つように、その獣も体が動いていた。


「どっ、どうして…こんなところに上級の召喚魔獣がいるわけ……」


 ルーナの顔は、明らかに強張っていた。

 一方の俺は、目の前の状況に理解ができず、ただただ恐怖だけが心の底から湧き上がってくる。

 俺は、その場から離れようと、忍び足で後退していったのだが……。


 "キリーン"


 俺は、魔獣を繋いでいる鎖に右足が触れてしまう。

 小さな金属音が用具室内に響き渡る。


 すると、魔獣は、俺達の気配を感じたのか瞑っていた目をゆっくりと開けた。


 そして、獲物を狩るような鋭い目つきで、俺達を凝視する。


 その瞬間。


 魔銃に繋がれていた鎖が、一瞬にして霧のように消えていったのであった。

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