罰に潜む影(3)


「術式を構築。術式解放。さあ、扉よ開け」


 漆黒のローブに身を包んだ男が扉を開ける。


「ここが用具室ですか。噂通りやはり広いですね〜……クックックッ。ショータイムにはピッタリな空間。楽しみで仕方ありません。クックックッ」


 不気味な笑顔を浮かべ、用具室に入る男。

 そして、どんどん奥へと進んで行く。


「この辺りにしましょうかね〜」


 男は辺りを見渡し、その場の広さを確認する。


「術式を構築。術式解放。さあ、私のベイビーちゃん。出てきなさい。クックックッ」


 床に大きな魔法陣が現れ、何か得体の知れない大きなものが唸り声をあげて召喚される。


「さあさあ。楽しいショータイムの始まりですよ〜。見せていただきましょうか、君の実力をね。クックックッ」


 男は、霧のごとく姿を消していった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 用具室の前に到着した俺とルーナ。


「ちょっと離して!何で私まで用具室の整理しないといけないの!絶対嫌だから」

「まあまあ、そんな事言わずに。今度パフェおごってあげるからさー。手伝ってよ〜。ねねっ、お願い!」


 俺は、両手を合わせ、ルーナに頼み込む。


「まっ、まあ、パフェおごってくれるなら手伝ってあげてもいいけど」

「単純だな」

「何か言った!?」

「いえ、何も」

「ほら、とっとと終わらせるわよ。早く扉開けて」


 塾長から預かった鍵を、鍵穴に差し込み時計回りに回す。


 "ガチャ"


 扉の開く音が聞こえると、俺は扉の取っ手に手をかけ、ゆっくりと引いた。


 しかし、扉は開かない。


「何やってんのよ。そんな猿でも出来る事ができないわけ」

「いや、さすがに扉ぐらい開けれるつーの,けど、何で開かないんだ」


 今度は反時計回りに鍵穴を回して、扉を開けようとしたが、扉は開かない。

 次は、力まかせに扉を引っ張ったが、それでも扉はビクともしない。


「ちょっと貸して!」


 呆れた顔のルーナが、俺の持ってる鍵を取り上げると、鍵穴を時計回りに回して、扉の取ってに手をかけ、引っ張った。


 すると、なぜか扉は開いた。


「ふふーん、どうだ、わたしの実力」と言わんばかりの顔付きで俺を見下すルーナに、俺は少しイラっとした。


 それと同時に、なぜ俺にはこの扉が開けられなかったのかと疑問が浮かぶ。


 用具室に入ると、辺りが何も見えない真っ暗な空間であった。


「ここにランプのスイッチが……って、あれ?壊れちゃってる?」

「おいおい、マジかよ!」


 暗い所が大の苦手な俺にとっては、最悪のハプニングである。

 ビビって、体がブルブルと震える。


「何ビビってんの?ガキじゃあるまいし」


 バカにしたように嘲笑うルーナは、太ももにつけていたホルダーから杖を取り出した。


「術式を構築。術式解放。辺りを灯せ」


 すると、杖の先に灯りがともる。


「へぇ〜。ルーナも魔法使いなんだ!俺と一緒じゃん!」

「は?何言ってんの?前にも言ったけど、杖なんて誰でも使えるから。用具室の整理ぐらい杖で十分よ。あんたと一緒にしないでくれる?凡人さん」


 フンッと鼻で笑うルーナにさらにイライラするが、何の才能も無い凡人なのは事実なので何も言い返せない。


 明かりを頼りに俺達は広い用具室内を探索する。


「とりあえず、この辺から整理していきましょ。ほら、翔太も杖出して。魔術使った方が早く終わるし、魔術の練習にもなるでしょ」

「おっ、おう!」


 たまには、まともな事を言うルーナに少し驚く俺。


「なになに。教師だなぁー、ルーナはほんとすごいなーとか思ったりした?」


 俺の表情を見たルーナがまたドヤ顔をする。


 そんなルーナを無視して、俺は、ホルダーから、"例の杖"ではなく、トナカイの角をベースにした汎用性の杖を取り出した。

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