ようこそ、魔術の世界へ(3)

 ”ゴクリ……”


 唾を飲み込む俺。

 思いのほか俺の顔は強張っているような気がした。


 俺を痴漢に仕立てあげることに何か深い理由でもあったのだろうか。


 俺自身にも緊張感が走る。


 ルーナはうつむいた顔を上げ、まっすぐに俺を見つめた。ルーナからもその緊張感が伝わってくる。


 ルーナは大きくため息をつく。


 俺ももう1度生唾を飲み込んだ。


 そして、ルーナが重い口を開く。


「ただのプチドッキリですよ」

「へえっ……?」


 ルーナの発言に拍子抜けする俺。

 思わず1オクターブ高い声で聞き直してしまう。


 目をキョトンさせ、呆気にとられた表情をした俺を見て、再びルーナが爆笑し始めた。


「何ですかさっきの強張った表情!ほんとおもしろいですね〜、翔太は」


 完全にルーナに馬鹿にされていると自覚した俺は、ルーナがかわいいと思った時の自分に反省をした。


 人はやはり外見よりも中身が大事という事だ。


 そんなルーナは俺の気持ちをえぐるように楽しそうに話を続ける。


「つまんない生活送ってる人が、痴漢に仕立てあげられたらどんなリアクションするか見たかったんですよ〜」


 ダメだ、こいつ。俺の事、完全になめてる。


 俺は開いていた手をグッと握りしめる。


「ふざけんなよ!どんだけ精神的にダメージくらったか!お前には分からないだろうな。周りに白い目で見られて、変態のレッテルを貼られてこれからの人生を生きていく惨めさ。想像するだけでやりきれねーよ」


 俺のイラついた発言には、動じていないのかルーナはニヤリとして俺の方を見つめていた。


「へぇー。変態のレッテルねー……でもさー、翔太、痴漢騒動の前から電車の中で、あたしのことチラチラ見てたよね?ねぇ?」


 ルーナに言われてハッと我に返り、数十分前の事を思い出す。


 確かに気づかれない程度にチラチラとルーナを見ていた。

 それがバレていたなんて……俺、相当あからさまにルーナの事見てたのか。


 俺は、また顔が真っ赤になる。


「顔あっかーい!カワイイ〜。翔太って、とんだむっつり変態さんなんだね」


 ルーナが上目遣いで小悪魔っぽい笑顔で俺に言う。


 何だよその笑顔……また惚れちまうだろうが。

 俺は、小悪魔なルーナに数秒間吸い込まれていく。


 ダメだ!このままだと、ルーナのペースに持ってかれたままだ!

 早く話を変えないと。


 俺は両頬を2回ほど叩いて、気を取り直した。


「んな事はもうでもいいんだよ!それよりも、そもそも魔術ってなんだ。マンガやアニメでは良く出でくるし、それなりに想像できるけど実際はどうなんだ?」


 すると、ルーナは「チェッ」と言ってふてくされた表情をした。


「あーあ、話変えたー。つまんないのー。もっと翔太で遊べると思ったのにー。まあ、いいや。せっかくだし、ラグーンの街を歩きながら話すね」


「どんだけ俺の事からかいたいんだよ」

 俺は、ルーナに聞こえない程度に小言を口ずさんだ。


 そして、ルーナに連れられて、ラグーンの街を散策しつつ、魔術の話に耳を傾けた。

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