ようこそ、魔術の世界へ(4)
魔術。
それは常人には扱うことのできない力。
魔術を操るためには、まず脳内に魔術のイメージを持たないといけない。
つまり、発動する魔術をイメージし、術式を構築する。
そして、術式構築後、「術式解放」の後、術式を詠唱することにより、魔術が発動される。
これは、大規模な魔術になればなるほど、術式構築が難しくなる。
魔術を操るためには、魔術媒体と呼ばれるものが必要とされている。
この世界には、3つの魔術媒体が存在し、用いる魔術媒体によって魔術師は3つに分類される。
魔剣を媒体にし、魔術を操る魔剣師。
魔銃を媒体にし、魔術を操る魔銃師。
杖を媒体にし、魔術を操る魔法使い。
そして、魔術には様々な属性が存在し、属性もまた自分が構築するイメージで付与することが可能になる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ってな感じが魔術の説明ふぉ。あー疲れた。てか、これ美味しい!」
ルーナは、少し蛍光がかった黄色の爽やかな香りのする柑橘系アイスを頬ばりながら魔術について話をしてくれた。
時たま、アイスを食べて頭が痛くなったのか、頭をスリスリとさすっていた。
そんな俺は、魔術の話に心がときめていた。
子どもの頃に、スーパー戦隊や仮面ライダーを見て感じたあのワクワク感だ。
思わずニヤニヤとしてしまう。
「ちょっと翔太、何ニヤニヤしてんの。それに目もギラついてるし。キモっ。あっアイス食べないなら私貰うから」
ルーナが冷たい目を俺に向けながら、右手に持っていた俺のバニラアイスをかっさらう。
「だってよ!こんな空想みたいな事が今現実になってるんだぜ!子供の頃、魔術とか魔法とか使えたらなーとか思ってたんだよねー!それが今、俺にできるって事なんだろ!?やばいよ!テンション上がるー!」
凄まじい熱量で、ルーナに喋っていた。
しかも、結構な早口で。
「もうわかった。わかったから、一回黙って。ほら、バニラアイス1口食べて、熱冷まして」
ルーナは完全に俺の熱量に引いている様子で、俺の口元にアイスを向けた。
「俺、何が良いかな?剣操ってみたいなー、ヒーローみたいだし。いや、銃もクールでカッコいいよな〜。うわー、二択で悩むな〜」
アイスには目もくれず、魔術師の自分の姿を妄想していた。
完全に舞い上がっている。
そんな浮かれ気分の俺にルーナは、冷静かつ端的に言い放った。
「えっ!翔太は魔法使い確定だよ?」
ルーナの発言に俺はキョトンとして、ルーナの方を見た。
なぜかルーナも俺の方を見てキョトンとしている。
「待てよ!何でもう決まってるんだ?俺に選ぶ権利ぐらいあるだろ?」
「んーそうだねー。さっき説明してなかったけど、魔剣師は近接型だから、運動神経と筋力がないとダメだし、魔銃師は中長距離の攻撃の場合もあるから、視力が必要なんだよね〜」
「おいおい、そんなの今から努力すれば充分使いこなせるようになるだろ!」
そう言い放った時、ルーナはいきなり俺の胸ぐらを掴みキリッと睨みつけた。
「あんたみたいな、やる前から諦めてきた中途半端者が言うセリフじゃないよ。魔術をなめないで」
ルーナはじっと俺を見つめる。
声を張り上げてはいないものの、ルーナが怒っているのは、俺の体中に伝わってくる。
「……ごめん、調子乗りすぎた」
ルーナの雰囲気に圧倒された俺は、ただ謝る事しかできなかった。
「分かればよろしい。そんなに甘いもんじゃないのよ、魔術師の世界は。それに魔法使いだって、魔術師の1つ。それだったら魔法使いでトップ目指してみない?それから魔剣とか魔銃を扱ってみるのも良いんじゃない?翔太がつまらない人間から変わっていくのを私は見たいからさ!だから応援してるよ」
ルーナは満面の笑みで俺に言うと、肩をポンポンと叩き、励ました。
ルーナの表情の変化にはとことん驚かされるものの、どこかで嬉しさを感じた。
もう社会人にもなり、誰かに応援されるなんて無かったから感じてしまったのだろう。
一筋の涙が俺の頬を伝う。
「えっ!ちょっと!何泣いてんの?キモいよ、翔太!もしかしてアイス取られたから?」
ルーナは慌ててバニラアイスを差し出した。
「いやいや、そうじゃないけど……何かありがどうな」
俺の言葉に理解できていないのか首を傾げるルーナ。
そして、ふと何かを思い出したかのように近くのお店にあった時計にルーナは目をやった。
「うそっ!もうこんな時間!じゃあ、あたし仕事戻るから、3時間後にラグーンの中央広場集合ね!」
ルーナは、俺に軽く手を振りながらそのまま走り去って行った。
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