ようこそ、魔術の世界へ(5)

 

「行っちゃった……」


 俺は、暖かい日差しでほんのり溶けていたバニラアイスを頬ばりながら、走り去っていくルーナを見届けた。


「ふぅー。しかし、中央広場ってどこだよ。初めての場所なんだから分かるわけねーじゃん」


 近くにあったベンチに腰掛けてこれからどうしようか考える。3時間も異境の地で彷徨うのはあまりにもリスクが大きい。さらには人見知り気質の俺には誰かに尋ねることも精神的にきつい。


 大きくため息をついて空を見上げると、澄み切った青空が広がっていた。


「こんなに良い天気だし、このままボーっとしとくか。きっと、ルーナも見つけてくれるだろ。」


 俺は呑気に腕を天に掲げて背伸びをした時、左胸あたりに何か違和感を感じた。


 ん?胸ポケットに何か入ってる……


 俺は、恐る恐るシャツ胸ポケッとに手をつっこむ。

 手で触った感覚は何か紙のような材質であった。

 ゆっくりと取り出すと、そこには”Dear SHOTA”と書かれた手紙が出てきた。


「手紙?もしかしてルーナからなのか?」


 いつの間にポケットに忍ばせたのだろうと疑問に思いながら、手紙の封を開いた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翔太へ

 あなたがこの手紙を開けたときには

 私はもうあなたのそばにはいないでしょう


(何だこの遺書的なノリは……)


 私が仕事で戻らない間に、翔太は魔術師候補生としてこれから必要になってくる物を買い揃えてください。


 あっ!でも、新入社員でお金のない貧乏なあなたには、何もかもを買うことはできないと思うので、ある程度は私のお下がりをあげます。


 凡人の翔太にはお下がりで充分です。てへっ!


(おいおい。金はそんなにねーけど、コツコツ貯金してるっつーの!それに凡人とお下がりの関係性が全然わからん)


 ただ、魔術媒体の杖と魔術移動媒体は自分で見つけないといけません。自分に合うものは自分で見つけないといけないのが魔術師の基本だからです。ちなみに移動媒体は、乗り物的なノリです。車、バイク、ロードバイクなどなど。翔太の世界であるものを魔術によって操作する仕組みになっています。


 まあ、翔太には、車やバイクは到底無理なんで、汎用的な魔法の箒を買ってください。凡人には魔法の箒で充分です!


(免許持ってるから、車運転するぐらい余裕だっつーの!それにまた凡人出てきたよ……あいつどんだけ言いたいんだよ)


 ではでは、良いショッピングを!


PS:

 杖や箒は非常に高価なものなので、あなたの貯金では到底無理です。ラグーンの人達は、優しいのでそこらへんは理解してくれます。けど、お金を払わないのは、社会人としてというか人間としてどうかと……


 幼稚園児でもわかりますよね、これぐらいのこと!

 それも分からないなら、ママにちゃんと教えてもらいまちょうねー。


 ってことで、つけ払いで結構です。

 借金返済にこれから苦しんでください。


 それじゃあ、また後で。


 あっ!


PS2:

 翔太の財布のお金は、この世界でも使えるように換金しておきましたのでご安心ください。


 それでは、チラ見のど変態さん、またね〜!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なんだよこの手紙!最初は買い物しろって話だったのに、最後の方は完全に俺をバカにしてるだろ!PSは長いし、PS2とかつけたらどっかのゲーム機みたいになるじゃねーか!」


 いつの間にか大声でルーナの手紙の内容につっこんでしまっていた。


 辺りを見渡すと、道行く人たちがが痛々しい目で俺を見ていた。


 やばい。

 変な人がいるみたいに見られてしまっている。

 ここはとにかくどこかに移動しなければ。


 俺は、周囲に顔が見られないように、うつむきながら、足早にその場を立ち去っていった。

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