ラグーンでの出会い
どこかの住宅街のような場所に着いた俺。
うつむいていたのでどうやって辿り着いたのかは分かっていない。
それに俺は、なかなかの方向音痴でもある。
「ふぅー。何とかあの場から逃げられたな。しっかしルーナのやつ。スカウトしたならちゃんと案内しろよなー。」
俺は立ち尽くしたまま、あたりの建造物を見つめていた。
「こんなとこでボーっとしてても意味無いし、とりあえずブラブラ歩いて時間潰すか」
俺は住宅らしき建造物の間の道を歩いていった。
少し歩くと、何やら賑わいをみせる広々としたストリートに辿り着いていた。どうやらここはラグーンのメインストリートらしい。屋台やレストラン、服屋に宿屋がズラーっと並んでいる。
うおー!なんかすげー!こういう所を見ると異世界来たーって感じだな!
活気に溢れた街並みに心が踊る。
メインストリートを歩いていると、さすが魔術の街だけあって、野菜を切るにも、料理を作るにも、アクセサリーを作るにも魔術らしき事を使っている様子が見受けられた。
おーほんとに魔術の街なんだな!異世界生活も楽しみになってきた!
腕を勢いよく前後に振り、上機嫌でメインストリートを観察する。
しかし、よく観察すると、どこの店にも共通点があることに気づいてしまった。
それはどの人も杖を使っているということだ。
魔剣や魔銃は使わないのか?
顎に手をのせて疑問に思いながら歩いていると、何やら香ばしい良い匂いが漂って来た。
無理矢理ラグーンに連れてこられ、おやつ程度のバニラアイスしか食べていなかったせいか、俺はこの美味そうな匂いを嗅いだ瞬間、腹の虫が騒ぎ出した。
俺は、自然と匂いの方向に足を進めていった。
すると、そこにはモクモクと白い煙の上がった屋台が目についた。
「いらっしゃい!兄ちゃん!」
店主らしきガタイのいいおじさんが俺に声をかけて来た。気前の良さそうな雰囲気でこれなら人見知りの俺でも喋れると思った。
「オッチャン!ここの店は何売ってんの?」
「俺の店は、グルムをやってんだ!どの肉もウメェ〜ぞ〜!」
店主の手元をみると、串に刺さったお肉がこんがりと焼かれていた。
この世界では串焼きのことをグルムと言うらしい。
グルメって言葉に似たメニュー。
正直、名前はダサいがうまそうだ。
「んじゃあ、オッチャンのおすすめの串、1本ちょうだい!」
「おうよ!んじゃ、このレアで焼いた牛串!味付けは塩コショウ!シンプル・イズ・ベストってやつよ!」
牛に塩コショウで焼いた牛串。
そこは異世界特有の食べ物ではないのかと少し残念に思いながら、焼かれた牛串を見つめる。
店主は焼きたての牛串を俺に手渡した。
そして、俺は一口食べた。
その瞬間、口の中からはジューシーな肉汁が溢れ、噛み応えもしっかりとした肉本来のうまみを感じられるものであった。
一言で言うとうまい!
思わず頬が緩む。あっという間に完食してしまった。
「オッチャン、本当に美味しいよ!ありがとう!」
「当たり前だろ!俺のグルムは世界一だからな!よし!そんなうまそうに食う兄ちゃんよ!今日はサービスしてやるよ!」
「えっ!いいんですか!ありがとう!」
空腹の俺は、店主からサービスでもらった牛串もペロリとたいらげた。
「いい食いっぷりだなー兄ちゃん!気に入ったぞ!俺の名前はガデムだ!よろしく頼むな!」
いかにもって感じの勇ましい名前だなと俺は感心する。
俺は、店主の名前を聞いた後、自分も自己紹介しないとと思いカバンから名刺入れを取り出した。
「佐藤 翔太と申します。よろしくお願い致します」
相手側に自分の名前を差し出して、俺はガデムに名刺を渡した。
すると、ガデムは物珍しそうに名刺を見つめて俺に語りかけた。
「サトウショータ?珍しい名前だな!しっかし、何だこの紙切れ?見たことねーぞ。それにお前の挨拶の仕方……あれは何だ?」
しまった!ここは異世界だった!
ついつい、自己紹介=名刺交換って体が勝手に動いてしまった……。
とにかく、何とかしてこの話は流さないと。
俺は、とっさに話をすり替える。
「いやいや、まあそんな事はいいじゃねえか!な!ガデム!それはそうと、どうしてみんな魔法の杖ばかり使ってるんだ?魔剣や魔銃は使わないのか?」
その言葉を聞いた瞬間、ガデムの目が点になり、俺の方を見つめていた。
「お前さんそんなことも知らないのかー!魔法の杖を使うのなんて当たり前だろ。なにせ、俺達は魔術が特別にできる人じゃないんだからな。汎用的なものが使いやすいに決まってるだろうが!」
ガデムの言葉に、俺は何も言えずただ呆然と立ち尽くした。
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