ラグーンでの出会い(2)

 

「俺は魔法の杖で、この肉の焼き加減を調整してるんだ。肉の種類、 肉の部位によって最高の焼き加減ってもんがあるからな。いやーこの杖にはほんと重宝してるぞー」


 ガデムはこげ茶色の杖をさすりながら自慢気に話を進める。

 一方の俺はまだ呆然としたままでガデムの話は耳に入ってこないでいた。


「何をボーっとしてんだ、兄ちゃん?俺の話を聞こえてたか?」


 俺の顔を覗き込むガデム。

 ガデムとの距離が近くなったのを感じ、俺は我に返った。


 ガデムに顔を覗き込まれるまで、俺はルーナとの会話を思い出していた。


 魔剣師やら魔銃師になりたいとか舞い上がり気味で語っていた自分。

 ルーナには否定されたものの、やはり心の片隅には魔剣や魔銃を扱える人間でありたいと期待もしていた。


「特別じゃないとできない」


 つまり、才能が無ければ到底扱えないという事。


 まさか街の人にまでそんな事を言われるとは思ってもいなかった。

 そして、その認識は街中の人全員が持っていることなんだと知らされた。


 自分には才能も能力も無い。

 そんなちっぽけな人間にはそんな小さな期待ですら叶えられないし、期待も持つ資格も無い。

 

 目の前から自分の持った小さな期待がポロポロと崩れ落ちていった事にショックが隠しきれないでいた。


「おいおい、大丈夫か?兄ちゃん」


 心配そうに見つめるガデム。

 だが、俺はガデムに自分の情けない顔を見られたくなくうつむいたままでいた。


「普通に生活したい人は、剣や銃みたいな武器装備がなくても、杖を使えば幸せに暮らせる。それに剣や銃を使いこなすには、元々のアビリティも必要になってくるからなー」


 ガデムは俺を励ますために言ったのかもしれないが、その言葉が、沈んだ心に追い打ちをかけてくる。


「おいおい、どうしちまったんだ、お前さん!お前さんもしや杖にあまり良い印章を持っていないのか?それは違うぞお前さん!俺は、杖も捨てたもんじゃないと思ってるぞ。汎用的な分大技を使えるようになると自分の努力が顕著に表れてくるんだぜ。他のどの魔剣師や魔銃師よりもやりがいあんじゃねーか。だから、その……何だ……へこむな!笑い飛ばせ!」


 表情が曇っている俺にはガデムは大きな笑い声をあげながら、優しく肩をポンポンと叩いてくれた。


 優しい漢だな。ガデムは。


 うつむいた顔をあげ、肩にのった大きなガデムの手をポンポンと軽く叩いた。

 ガデムはその手を俺の肩から離す。


「ガデム、ありがとうな!牛串うまかった。また来るよ!じゃあな!」


 俺はガデムに軽く手を振ってその場をから立ち去った。


 ガデムの励ましに少し気持ちは楽になったし、嬉しかった。

 だが、まだまだ気持ちの整理がついてない。


 地面を見つめながらしばらくトロトロと歩いていると何かの看板にぶつかって少し足元がよろめいた。

 ぶつかった看板に目をやると、マグカップの絵柄が描かれていた。

 目の前を見ると、木造造りで、茶色木目が心を落ち着かせてくれるカフェが目の前に見えた。


 ここでも入ってコーヒーでも飲んで、気持ちも落ち着かせようと思い俺は店のドアの取っ手に手をかけた。


 店に入り、辺りを見渡す。

 空いている席を見つけ座ると、店員にコーヒーを1杯頼んだ。


 そして、俺はスーツの裏ポケットからタバコを取り出した。

 普段はあまり吸わないのだが、何かに沈んでいる時や気持ちを落ち着かせたい時にタバコを吸ってしまう。

 

 俺は精神的に弱い人間だから。


 しかし、火をつけようとライターを探したがどこにも見当たらない。

 どうやら家に置いてきてしまったようだ。

 俺は火のついていないタバコを口にしたまま、うなだれていた。


 すると、俺の左隣から何か気配を感じた。


 恐る恐る視線を向けると、長い白い髭を蓄えた優しそうな老人が立っていたのだった。


 老人は、杖で小さな火を出して、

「お前さんには必要じゃろ?」

 と俺に声をかけてきたのだった。

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