ラグーンでの出会い(3)

 

 老人は俺のタバコに火をつけた。

 そして、目の前の空いている席に座り店員を呼ぶと、俺と同じコーヒーを頼んだ。


 向かい合う俺と老人。

 しかし、人見知りの俺にはこの状況かなり厳しいものがある。


 お互いにコーヒーが届くと、俺と老人はコーヒーに口をつけた。


 しかし、離す会話もなく無言が続く。


 老人は、ただコーヒーをすすりながらずっと俺の方を見ている。


 気まずい空気が二人の間を流れる。


 とにかく早く飲んでこの店を出ようと、俺はなるべく早くコーヒーを飲もうと思ったが、猫舌が邪魔をしてなかなか進まない。


 仕方なく俺は、コーヒーが冷めるまで窓を見つめ、極力老人の方を見ないようにした。


 すると、しばらく俺を観察した老人が、おもむろに口を開いた。


「君は、どうやらこの世界の住人ではないな」


 気づかれた!!


 俺は老人の方をすぐに向くと、目を大きく見開いて老人を見つめた。


「えっ!何で気づいたんですか!」

「雰囲気で分かるんじゃよ。君は、老人をなめるでないぞ」


 そして、なぜか老人に叱られた。


「うっ……すんません」


 訳が分からずとりあえず軽く頭を下げて謝っておく。

 そんな俺の様子を見た老人は、大きな笑い声をあげた。


「ハッハッハー!なかなかおもしろいな、君のリアクションは!」


 俺は頭を掻きながら、苦笑いを浮かべた。

 老人はすぐに大きな笑い声をやめると、すぐさま優しく微笑んで俺に語りかけてきた。


「君はどうやら何かに悩んでいるようじゃな?」

「分かるんですか!!」

「分かるとも!ワシはそういうのを見抜くのが得意でなー。ほれ、ワシが聞いてやろう」


 老人の言葉に気持ちが和らいだ。

 誰かに話せば気持ちも楽になるかもしれない。


「あのー何の才能もない凡人が、魔剣師や魔銃師になれないのですか?普通の人には、杖を使うという選択肢しか無いのですか?」


 声を震わせながら、老人に思いの丈をぶつけた。


 老人はまっすぐ俺を見つめながら、話に耳を傾けていた。そして、一息ついた後、老人は口を開いた。


「この世界は、普通の人が杖を使うのが当たり前になっておる。だから、君には魔剣師や魔銃師になるのは無理かもしれん」


 また、同じだ。

 結局みんな答えは同じなんだ。

 才能のある者だけが許される魔剣師や魔銃師に、何の取り柄もない俺には無謀な事だと。


「じゃがな……」


 老人は話を続けた。


「君には魔法使いの才能があるとワシは思うの〜。ワシの長年の勘というやつじゃ。そうじゃ、そんな君にワシからこやつを授けよう」


 老人は、薄いベージュ麻布に包まれた細長いものをテーブルの上に置いた。

 麻の布を開けると、そこには持ち手に何やらドラゴンのような紋章が刻まれた、真っ白な魔法の杖であった。


「ワシが長年大切にしていた魔法の杖じゃ。君がつかってくれんかのう?」


 老人は俺に優ししか微笑みかける。


 俺はその杖の白くて美しい姿に目を奪われる。


「こんな大切なものいただいてもいいんですか?」

「いいんじゃよ。もうワシも老いぼれじゃ。誰かに託したかったんじゃよ。ワシも君ぐらいの歳の頃に、夢や憧れを抱いて悩んでいた事を思い出しての〜。ワシの宝を君なら大切にしてくれると思ったんじゃよ」


 俺は、麻布で白い杖をきれいに包み直した。


「あっ……ありがとうございます!」


 俺は勢いよく老人に頭を下げた。


 俺は、嬉しかった。

 杖を貰えただけではない。

 誰かにこのやりきれない気持ちを共感してもらえた事に。


 すると、老人は咳払いを1つすると真剣な面持ちで俺に語り始めた。


「しかし、この杖にはある条件があってのー。大事な時、大切な人を守る時にしか使用してはならないのじゃよ。それにこやつは、血の契約を交わさない限り魔術を発動できないんじゃ」

「血の契約?どういうことですか?」


 聞きなれない言葉に俺は思わず首を傾げる。


「まあ、いずれ分かることじゃよ……。それに普通の魔法の杖も買うんじゃぞ。普段は、普通の杖しか使ってはならんからな」


 その言葉を残して老人は目の前の席から立ち去っていった。


 謎が深まる俺。

 血の契約を結ぶ杖。

 一体どういう事なのだろうか。


 そして、冷めたコーヒーをすすりながら物思いにふけっていた。


 コーヒーを飲み終えお会計をするために店員の元へと向かった。


「コーヒーお2つで1000フェリスでございます」


 店員が優しく微笑みながら伝票を見せた。


 どうやらこの世界では、フェリスが通貨の単位らしい。


 この世界の事を1つ学習したなと思っていると、ふと疑問が頭をよぎった。


「あのーすいません、俺コーヒー1つしか頼んでないのですが……」

「目の前に座られていたお連れ様の分も合わせてでございます」


 店員の言葉に俺はハッと目を見開いた。


 クッソ!

 あの老人にしてやられた!


 俺は、財布から1000フェリスを投げやりに店員に手渡し、カフェを後にした。

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