罰に潜む影(8)
まずい!早くルーナを助けないと!
俺は赤く光り輝いた杖をキマイラに向ける。
俺に魔術が使えるのか?……いや、今はそんな事考えてる場合じゃねぇ!
そして、目を瞑りイメージをする。
キマイラをルーナから遠ざけるイメージ。
キマイラを吹き飛ばすイメージ。
すると、脳内に術式が描き出される。
元の世界には無い文字が羅列されている。
だが、今の俺はその術名を理解することができた。
これなら……。
スッと目を開き、杖を強く握りしめる。
「術式を……構築。術式解放!風よ!あいつを吹き飛ばせ!ヴェント!」
杖から強烈な風が放たれ、キマイラの双頭に直撃する。
吹き飛ばされたキマイラは、勢いよく壁に叩きつけられ、床に倒れこむ。
壁が砕けていく音が用具室内に響き、衝撃が用具室の空気を床を津波のように揺らす。
すぐさま、俺は、気を失ったルーナの元へと駆け寄った。
「ルーナ、しっかりしろよ!大丈夫か!」
俺は、ルーナの口元に耳を当て、呼吸を確かめる。
ルーナは、息をしていた。
俺は、少しホッとした。
だが、目を覚ます気配は一切無い。
俺を助けるために……俺をかばって……。
俺は、横たわるルーナをお姫様抱っこして、近くにあったソファにそっと寝かせた。
「ルーナ、俺がお前を守るから」
ルーナの額にそっとキスをする。
あれ?待てよ?
俺、今、ルーナに……おい!なにやってんだよ!
イケメンでもないやつがイケメン行動って完全にさぶい奴じゃねえか。
我に帰り、ルーナにした行動を恥じる俺。
こんなことをしたのは魔術が成功して良い気になったからだと心に言い聞かせる。
いや、間違いなくそうだと思いたい。
そんな事しょーもない事を考えているうちに、キマイラはゆっくりと起きあがり、大きな唸り声をあげた。
さっきの魔術により、多少のダメージは与えられたものの、キマイラの体力はまだ有り余っているようであった。
「チッ!まだピンピンしてやがる」
俺とキマイラ。睨み合う視線がぶつかる。
すると、キマイラは、追いかけてきた時よりも数倍速いスピードでこちらに突進しってくる。
ここで戦ったら、ルーナを巻き込んでしまう……何か方法は無いのかよ!
目前に迫るキマイラ。もう時間は残されていない。
俺は、辺りを見渡し、使えるものがないか探すが見つからない。
「クッソ!」
俺は、床を蹴り上げた。
"カランカラン"
その時、何かが俺の足にあたる。
前方を見ると、そこには先程乗っていた箒。
この手があった!
俺は、使い方も分からないまま、箒を拾いあげ、またがった。
もう標的は、ルーナじゃなく俺に切り替わっている。
この場を俺が離れれば、ルーナを巻き込まなくて済むはずだ。
俺は、杖をフサフサした箒の穂先へと向ける。
「術式を構築!術式解放!スピードを与えよ!」
すると、箒は急発進し、どんどん加速し、飛んでいく。
それにひきつけられて、キマイラが後を追ってくる。
よし!成功した!
俺は、キマイラが追いかける姿を見つめ、少しホッとした。
だが、この安堵もすぐに打ち消されるのであった。
「危ない!」
俺に訴えかけている声が聞こえる。
その声質は、紛れもなく夢に現れた女性の声であった。
「その声……おい!どこにいるんだよ!」
だが、彼女の姿は見当たらない。
ただ、「危ない!」と俺に訴えかけるばかりだ。
「何が危ないんだよ!早く教えてくれ」
そう言って前方を見ると、用具室の壁がすぐ目の前まで迫っていた。
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