少年?(3)


 杖を買いにお店に向かう、俺と少年。


 俺は、少年の姿を見ながら、少年が俺を助けたシーンを思い出していた。


 刑事ドラマでよくある人質に銃をむけるように、俺に杖を向けた男が言っていた。


 少年の事を"魔銃師"だと。


 俺は、せっかくの機会だし、今後の参考も兼ねて、少年に俺を助けた時の魔術について詳しく聞いてみることにした。


「なあ、さっき助けてくれた時のあの術式。あれってどうやってイメージして発動させたんだ?」

「あー、あれね。あれは、相手の脳に超音波を当てて、脳しんとうで気絶させるイメージを描いて術式を構築して解放させたんだ」


 さらりと答える少年。

 一方の俺は、初めて魔術の仕組みに触れられ、厨二心がくすぶられる。

 まるでマンガやアニメの世界に入っているような気分だ。


「うおー!それがさっきの魔術の仕組みか!スゲーな!」


 俺の興奮した様子に、少年はキョトンした目をして俺を見つめる。


「えっ?待って待って。相手を気絶させるなんて初歩中の初歩の魔術だよ。イメージはそれぞれ違うけど、術式の構築も簡単だから誰でも使ってるよ。それにこの魔術は、一般に使える護身用の魔術でもあるし。何で今さらそんなこと聞くの?」


 やばい。

 俺が別世界の人間だという事がバレてしまう。

 俺は、頭の中をこねくり回し、適当な理由を探し出す。


「いやー確認だよ確認。どんなイメージだったのかな〜って思ってさ」


 ありきたりな理由を、俺は頭をポリポリと掻きながら少年に言った。


「ふ〜ん。そっか。あっ!着いたよお店」


 少年は、一瞬不思議そうな顔をしたが、ちょうどタイミング良く、杖の店に着いたので、ニッコリ微笑んで店の方を指差した。

 少年の指差す方向には、黒を基調とした趣のある店が建っていた。


 何とか乗り切ったなと思うと共に、雰囲気のある杖屋に俺は目を奪われた。


 店に入ると、内装は、シックな外観とは違い、明るい茶色を基調とした、暖かな雰囲気が感じられる店内であった。


 興奮気味の俺は、所狭しとケースに入れられている杖に手を伸ばしていく。

 どんな杖が良いのか分からないが、とりあえず10本ほど杖を手にした。

 その後、自分の手にしっくりきた、トナカイの角をベースとした魔法の杖を購入した。

 ついでに杖などが収納できる、腰に備え付ける牛革製の頑丈そうなホルダーも買っておいた。

 そのホルダーは杖を2本収納できる仕様になっている。


 お目当ての物を購入した俺達は店を後にした。


 その後は少年が喉が渇いたと、だだをこね始めたので、ジュースバーに行ったり、俺の服がダサいと言い出して、服屋さんに行ったりと。

 とことん、少年のわがままに付き合わされた。


 そんなこんなで服屋から出て、腕時計を見ると、予定の時間よりも1時間以上過ぎていたのに気がつく。


「やばい!もう時間過ぎてる!嫌な予感しかしないがとにかく急がないと。君、急いで案内してくれないか、中央広場に」

「おっけー!じゃあ、今までの3倍の速さで走るからね!」


 少年はニヤリとして、俺の腕を引っ張ると物凄い勢いで走っていく。

 俺もつられて走るが、少年に振り回されたのと歳のおかげで両足は既に限界を迎えていた。


 何とか中央広場に到着したが、俺の足は歩く事もままならないほどブルブルと震えていた。


 しかし、少し先に立っている人物を見て、俺の足はさらに震えだす。


 俺の視線の先に見える1人の女。

 その女は両腕を組みながら、鋭い目つきで俺を睨みつけている。


 そう、ルーナである。


 ルーナは、完全にお怒りモードだと雰囲気で伝わってくる。

 俺が逆の立場でも、さすがに1時間以上も待たされれば、その状態になる。

 とにかく謝らなければと思い、俺の世界伝統の謝り方で謝る事にした。

 謝り方は慣れてないが、謝罪する行為に関しては、学生時代の居酒屋バイトで慣れているので、何の抵抗も感じていない。


 俺は、両手をギュっと握りしめ、拳で限界の両足に鞭をうち、俺はルーナの元へ走った。

 そして、勢い良くジャンプして、膝を地面につけ、両手を地面につけ、地面スレスレまで頭を下げた。


 そう、これが俺の世界伝統の謝り方。

 "ジャンピング土下座"だ!


 さすがにここまでしたら許してくれるだろう。


 そう思った俺の考えは甘かった。


 俺が頭をさげた瞬間、ルーナは右足を勢いよく振り上げると、そのまま俺の頭にかかと落としをかました。

 そして、そのままその足で俺の頭をグリグリと押し捻る。


 誠心誠意込めた謝罪なのにこの仕打ち。

 ドMの男ならご褒美なのだろうが、あいにく俺はその趣味はない。


 優しさの無いルーナの仕打ちに、ルーナの事をかわいいと思ってしまった数時間前の俺を殴り飛ばしたくなった。


 しかし、俺が起こした過ちだ。

 ここは耐えるしか無いと思い、歯を食いしばり、頭の激痛をこらえる。


「あんたさー、こんな美女を1時間以上も待たすなんて、どんな神経してんのよ!!!」


 かかとで俺の頭をグリグリとしながら、強い語気で言い放つルーナ。


 すると、俺のすぐ後ろで大きな笑い声が聞こえた。

 ちらりと見ると、少年がお腹を抱えながら大笑いしていた。


「うわはははっー!ほんと相変わらずだね。ルーナは」


 笑い混じりの声の方向に視線を向けるルーナ。

 そして、少年の姿を見て、ルーナは驚いたのか、上ずった声で少年に話しかけた。


「レイス……なんであんたがここにいるの?」


 ルーナと少年。


 果たして、二人は一体どんな関係なのだろうか。


 頭を抑えつけられたままの、俺の脳内には、一つの疑問符が浮かび上がっていたのであった。


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