ようこそ、魔術の世界へ
閉じていた目を開くと、目の前に広がっていた光景に絶句した。
デザインが凝っている古き良き洋風の建物があたり一面に建ち並び、目の前には赤いレンガで覆われていて、真ん中には3人の天使の像が立っている噴水があった。
まるでテレビで見たヨーロッパの都市の風景のようであった。
「ここどこなんだ……?ヨーロッパのどこかの国にでも飛ばされたのか?いや、そんなお伽話みたいなことあるわけが……」
パニックに陥った俺は、辺りの景色をただ呆然と見ながら、独り言を呟き、立ち尽くしていた。
するといきなり誰かが俺の目の前に現れたのを感じ、俺はとっさに視線を目の前の存在に切り替えた。
そこには、先程の彼女が立っていた。
そして、彼女は両腕を広げてはちきれんばかりの笑顔で俺に言い放つ。
「ようこそ!魔術都市、ラグーンへ!」
魔術……都市?ラグーン……?
俺は、彼女の言っている事の意味がさっぱり分からず、脳内に無数のハテナが点在していく。
俺の理解に苦しんだような難しい表情を見た彼女は、怪訝な表情をして俺との距離をグッと縮めてきた。
「ちょっと!何よそのリアクション!もっと感動しなさいよ」
「リアクションなんて取れるわけないだろ。何だよラグーンって……聞いたことないぞ」
「あっ!そうだったわね!この世界はあんたの世界とは全くの別世界だから聞いたことがなくて当然よ」
「別世界?」
彼女の発言に思わず首を傾げてしまう俺。
「なにー?まだ信じてないわけ。そういうはっきりしない男は嫌われるわよ」
「うっせー!まあ、とりあえず別世界に来たってことは信じる事にして……あんたは一体誰なんだ?」
「わたし?私は、ルーナ!新米の魔術教師よ。よろしくね!」
愛らしい笑顔を俺に向けて自己紹介をするルーナ。
その笑顔に俺の瞳は釘付けになる。
こんな状況でもタイプの女の子の笑顔を見ると、不覚にもかわいいと思い、見入ってしまう。
俺は、自分の顔が少し熱くなっているのを感じた。
きっと頬もほんのり赤もなっているだろう。
一方のルーナは、そんな俺の様子には目もくれず続けて俺に語り始めた。
「翔太、あなたは選ばれたのです!魔術師候補生に!」
「魔術師候補生?」
俺は両手を組みながら再び首を傾げる。
「そう!今年から、別世界から魔術師候補生を選ぶ制度ができたの。翔太はその第1号ってわけ。しかし、新米教師が候補生をスカウトするとか、ほんと酷い話だよね〜」
はぁーと大きくため息をついて疲れた表情を見せるルーナ。
さっき見せた愛らしい表情はもうどこかに消えていた。
俺は、魔術師候補生云々というよりも、ルーナのキャラの変化に驚いていた。
痴漢呼ばわりした時は、大人っぽくてかつ高圧的でクールな女性の印象であったが、この世界に来た途端、笑顔が可愛く、感情が分かりやすい女の子といった印象に変わっていた。
そんな一面も良いなと俺は、ルーナのギャップに思わずにやける。
状況が理解できてないのに、またこんな感情が湧き上がってくる。
男という生き物は本当に単細胞であると改めて思ってしまう。
「何にやけてるんですか?」
ルーナが不思議そうな表情で俺の顔を覗き込んでくる。
俺は、ハッと我に返り、ルーナの話を進める。
「魔術師候補生……?何で別世界からの魔術師候補生の第1号が俺なんだ?」
俺は魔術師候補生に自分が選ばれた事に疑問を抱きつつも、その理由に少しばかり期待をしていた。
俺には魔術師としてのセンスがあるとか
生まれながらにして高い魔力を秘めているとか
あなたに運命を感じたとか
そんなカッコイイ理由があるのではないかと期待に胸が高鳴っていると、ルーナはいきなり真顔になり俺に告げる。
「あなたは、何の取り柄もない平凡な人だからです」
「えっ……」
何かの聞き間違いかもしれないと思い、人差し指を立たせて、もう一度言ってもらうようにせがんだ。
俺の要求にめんどくさそうな表情をするルーナ。
「だーかーら、あんたがただの平凡な人だからですよーー!」
ルーナは、口元に両手を当て、ラッパのような形にすふと、さっきよりも数倍大きな声で言い放った。
耳をそばたせた俺は、ルーナの言葉がはっきりと聞こえた。
そしてその瞬間、自分がつい数分前まで抱いていた期待が一瞬で崩れ去っていったのであった。
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