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「君達は何のためにここにいるんだ」

 大会議室。MCSRトウキョウの全員が座っている。

「民間の営利目的とは違うんだ。失敗は一度でも許されないということだよ」

 唯物論政府トウキョウ知事補佐、フィルヒ。まだ三十代前半だが、圧倒的な学力と野心でNEEAST-3地区のナンバー2にまでのし上がった男だ。

「ここは敵が挨拶に来たら丁寧にもてなすよう教育されていたのかね。どうなんだ」

 薄いまぶたから鈍い光が漏れている。会うのは二度目だが、この男は本当に侮れない。言葉は怒っていても、口調には感情がない。何も見ていないようでも、しっかりと眼球は動いている。かと言って冷静沈着と言うわけでもない。時に規則に構わず情熱的に行動することもあり、部下からの信頼もあるようだ。

「しかし、幸いにも被害は出ていない。そして、これまでヴェールに包まれていた本山の情報も得ることはできた。私は結果オーライという言葉も好きだ」

 支部長もシュディルも、後姿が固まっている。普段は職人のような面も持つ僕らだが、こういうときはただの政府の下っ端だと言うことを実感させられる。もし無用とあらばすぐに死刑にされるか、それと代わらない結果の待つ地域の支部へと飛ばされてしまうだろう。

「これまで実態が不明だったことと、一部の必要性から本山に直接手が下さることはなかった。だが、これを契機として手が付けられることになるだろう。心しておけ」

 そのあともお説教やら激励やらは続いたが、途中から飽きてしまった。結局のところ、言われたことをやるだけ、命令を待つしかない。僕には本山に対しての特別な感情はない。今は、ωのことだけが気になる。

 会議と言う名の締め付けが終わると、なぜかフィルヒは僕の方へと歩いてきた。

「君が新人のジェッティーンか」

「はい」

「君の機転でωから逃げられたと聞く。本当か」

「謙遜せずに言うならば、本当です」

 後ろから、膝の裏を蹴られた。レディットだ。

「君の能力は未知数らしいな。それだけに魅力的だ」

「ありがとうございます」

「だが、潜在能力は常時使えるほうがいい。そのことも心がけておけ」

「わかりました」

 なんとなく、この人がこれから指揮を執っていくのだな、それに相応しい人だ、と思った。そして、大きなものが近付いていることを実感した。

「全力を尽くします」

「もちろんだ」

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