第二章・その7
「で、浩和、ちょっと聞きたいんだけど」
カナや先輩達と途中で別れ、振り返っても姿が見えない頃になってミキは話しかけてきた。
「ん、何?」
「香奈ちゃんとは本当に、付き合ってないの?」
この期に及んでもまだ疑っているらしい。でもミキの気持ちも解る。あんなにずっと一緒にいる機会が多いのに付き合ってないだなんて、信じないだろう。しかも子ども警察官のことを口外する訳にもいかないから、ますます説明しづらい。果たして八白でもこんなに厳しいルールなのだろうか。とりあえず、ミキへの返答は決まっていた。
「さっきも言ったけど、付き合ってなんかいないよ」
「そう? でも、これ友達から聞いたんだけど始業式の日から仲良さそうだったってね? まるで転校前からお互いを知ってたみたいに」
ミキは怪訝そうな顔を見せる。事実転校してくる直前に出会っているのだが、事実転校してくる直前に出会っているのだが、それを言うと話が複雑になり、説明もしづらくなるだろう。
「そんなことないって」
俺はそう返しておいた。
「いや、智美がものすごく仲良さそうだったって──あ」
「トモミって……鈴木 智美!?」
主観的な情報からクラスメイトの誰かがミキに言ったとは思っていたが、そうか、情報源はあの「クラス一番の目立ちたがり屋」か。
「……うん」
ミキは観念したように頷く。
「っていうことは、会う前から情報は知っていたって訳だ。今日の情報が入っていないことからして、聞いたのは金曜日の放課後から今日の朝までの時間。でもミキと鈴木さんは一緒に遊んだりする仲でもないはずだから、今日の朝たまたま会って向こうから聞かされた、そんな感じかな」
「すごい……全部合ってる……」
全て俺の推測通りだったらしく、ミキは驚いていた。しばらく経って
「浩和って、警察官とか向いてるんじゃない?」
と言われる。まあ一応現在進行形で警察官なのだが。
「そういえば香奈ちゃんも警察官みたいだったなぁ。部屋に入るなり『わたし達がどう言われてるか、本当は知ってるでしょ』って聞かれた。香奈ちゃんは顔見ただけですぐわかったらしいし」
カナも俺と同じ子ども警察官、しかもカナのキャリアの方が上なのだから当然だ。「わたしを超えられたくない」とは言っていたが、きっと俺はずっとカナの一歩後ろを追いかけていくことになるだろう。
そんなことを話しているうちに俺の家の前まで着いた。ミキの家は三軒向こうなので、ここで別れることになる。
「じゃあまたな、ミキ」
「うんまたね、浩和」
別れの挨拶を交わし、俺は家の門をくぐった。その時にポストを確認すると、「ぽすてぃ」という名のフリーペーパーと一緒に一通の封筒が。宛名は、俺。送り主は「神奈川県警察本部」。
玄関の鍵を開け、自分の部屋に荷物を置き普段着に着替える。その後リビングで例の封筒を開封した。中には二枚の紙が三つ折りにして入れてある。サイズはA4。広げて、読んでみた。
「辞令。九月三日公示。蛯尾浜市立中部中学校一年、鈴木 浩和。警察署における中学生の職場体験実習事業の主旨に基づき、右記の者を子ども警官の階級に任命するとともに地域部子ども課準備室へ配属する。なお推薦人は同部長、宇都宮 政好及び同準備室所属、安江 香奈。任命、警察本部長。赤堀 光史」
中に入っていたのは正式な辞令と、それについての簡単な説明書き。形式上送られてきたものだろうが、これでまた一つ、子ども警察官になったのだという実感が湧いてきた。
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