エピローグ
「あずさ、どうしたの? 二階から大きな音がしたけど」
二階の自室の扉が、ガチャリと開く。
いたたた、ベットから落ちたんだと思う、腕と肩が痛い。
痛いところを触ってみよう手を伸ばすと、なんか体のサイズが小さい気がする。
あれ? わたしこんなに細かったかな?
「あずさ?」
「あはは、ちょっとウトウトしてたら、ベッドから落ちちゃって」
なんか頭もぼーっとしてる。手をついて起き上がろうとしてもフラフラしてる感じだ。
ちょっと寝ただけだと思うのに、なんかすごい疲れたような気もするし。
「あんた、日曜の昼間っからよく寝れるわね。朝ごはん食べてすぐ寝たの?」
「うーん、よくわかんないけど」
そう言って、顔を上げてママを見る。
花柄のエプロンに腕を組んで、呆れた顔で私を見ているママ。
いつもの風景。いつもの日常。
だけど、ママを見てたら何か急に込み上げてきちゃって、私は無意識にわっとママの腰に抱き着いちゃった。
涙がボロボロこぼれるよう。
なんでだろう。
喋れないくらい滂沱の涙。
なんなの? 冷静に考えてる私がいるのに、勝手に泣いてる私もいる。
ママはびっくりしたみたいで、「どうしたの? あずさ、怖い夢でもみたの?」なんて聞いてる。
そして取り乱す私の頭をママはそっと撫でてくれた。
髪の毛越しに伝わってくる、やわらかくて暖かな手の感触。
それが、すごい感激すぎて、ついに大声でわーーと泣きだしてしまった。
立ってられない。
へなへな座り込むと、ママも一緒にその場に座ってくれた。
優しい声が聞こえてくる。
「あなたには、辛い思いをさせたわね」
何が辛い思いなのか分からないけど、私も訳の分からないことを声を振り絞って話してしまった。
「ママはもうどこにもいかないでっ」
「当たり前じゃない、あずさのこと本当に愛してるもの」
その言葉で更に大泣きしてしまった。
ママが何度もありがとうって言ってる。
何でママは私にありがとうって言うんだろう。それを言いたいのは私なのに。
小一時間くらい、そんな謎の大泣きをしたのだが、それっきりそんな変な事は二度と起こることはなく、いまは普通に学校に通っている。
変な病気か心霊現象じゃないかと思って、お医者さんかご祈祷にでも行こうかと思ったけどね。
急に大泣きするって、変じゃん。やっぱり。
だから誰にも言ってない。仲良しのりんちゃんやまおちゃん、ナナミちゃんにもね。
でも、その日を境に私はちょっと変わったと思う。
なんか気持ちの中で、私の子供時代が終わった感じがするんだ。
そのせいか、近頃未来の事とか将来の事がすごく気になる。
学校でそんな話をすると、さすがに小学6年生だ。
みんな将来のことを考えているみたいで、いや、りんちゃんは何も考えてなかったけど、まおちゃんは付属の中学に、ナナミちゃんは三つ子の弟の面倒を見たくないので全寮制の学校に行きたいと言ってた。
うん、ナナミちゃんの気持ちはよく分かるよ。
あの子たち、お姉ちゃんにべったりでうるさいもん。
私はどうするかまだ考えてない。もうちょっと、もうちょっとだけ家族と一緒にいたい。
それと、もう一つだけ変わったことがある。
あれからママの焼きそばを食べると涙が出るようになったんだ。
世の中、不思議なこともあるもんだね。
-Fin-
満腹!魔法少女あずさ 浦字みーる @yamashin3
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