選択の重さ
「魔法少女の戦いは、この世界の大きな方向を決める戦いだ。善悪なんかじゃねー。どの意思に未来を託すかを決める適者存在の淘汰みてーなもんだ」
え、えっ! うーちゃんは何を言い始めたの?
突飛すぎて初めは全く理解できなかったけど、頭が冷静になるに従って次第に言わんとしている意味が分かってきた。
じゃなに? なんなの? 私達がやってきた事って、闘牛や闘鶏みたいなものってこと?
うーちゃん達に踊らされて、気づかずに。バカみたいに。
今までの事は何だったのよ! ムラムラと怒りが込み上げてきた。
「なにそれ! 未来を託す戦いだなんて聞いてないよ! 願いを叶えるんじゃなかったの!? ナナミが言ってた!」
怒気に満ちた言葉をうーちゃんにぶつける。
「お前には言ってねー話だな。ナナミから聞いたか」
「ナナミから聞いたかじゃないよ!! ナナミ達は願を叶えるために戦ってたんだよ! 代償があるのも覚悟してっ!」
「そうか。願いか」
それっきり、うーちゃんは何も言わなくなった。
何なのこの間。
なんで返事しないの。
答えなさいよ!
「願いは。そんな願いは叶わない。魔法少女には量子魔法を使う代償だけがある。戦いが終われはブレーンが切り替わり魔法少女の意思に適った不連続な世界につながる。それだけだ」
何を言ってるかさっぱり分からなかったが、とにかくバカにした話だという事だけは分かった。
その受け取ったメッセージに、また怒りが込み上げてくる。
「はぁ? それだけ!? それだけって、代償だけなんて!!!」
叫び。
「未来を決めるってことは無限の可能性を選択することだ。望む結果を求めるということは、何かの可能性を失うということに他ならねー。量子魔法はある未来を強制的に選択する。だからその分なんらかの可能性を失う。それが代償だ。そしてそれは魔法少女が行う未来選択そのもんだ」
「なにそれ、そんなこと聞いてないよ」
そして失笑。
「量子魔法で武器を顕現したりするのは、異なる物理法則が支配するブレーンを一時的に・・」
「そんなの聞いてない!!!!!」
「す、すまない」
「それがなんで私なのよっ! なんで私がそんな訳の分からない魔法少女に選ばれたのかが知りたいのよ!」
そんな薀蓄なんてどうでもいいんだっつーの、バカウマ!
ベッドをバンバン叩いて全身でうーちゃんを糾弾してやる。
「俺も分からんが偶然じゃねぇ。 意志のエネルギーの存在確率が最も濃いのがお前だったんだろう」
「そんなテキトーな理由で」
「そうやって選ばれて、そうやってこの世界になっていったんだ」
いちいち納得できない。腹立たしい。
理由もなく選ばれて、負わされる責任だけは重苦しくて、頑張っても代償しか残らない。
「だったら魔法少女はなんなのさ! うーちゃん達は何なの?」
「魔法少女はこの世界の意志の代表だ。淘汰のためには、その全体意志をぶつけ合う実体がいる。その器が魔法少女だ。だから世界が大きな分岐にある時、その意思を背負った魔法少女が選ばれて方向づけがなされる」
「ふーん、じゃ、私たちはうーちゃんたちの道具なんだ」
嫌味一杯に言い放ったが、なんて悲しい話なんだろう。私はただの器だったんだ。中身が無くなれば捨てられる、ただの器。
「それは違う! 世界は偶然の産物じゃねー、偶然のようでお前達の意志がこの世界の未来を決めてんだ。俺たちは、その世界が大きく変わるときに現れる存在に過ぎねーんだ。ただ形を与えるだけの存在なんだ」
「世界の話じゃないよ。うーちゃんには分かんないんだよ。見てるものが違いすぎるもん」
表情はないがうーちゃんが、息をのむのが私には分かった。
「そんなの知ったら、誰も魔法少女なんかならないよ。私だって」
「そうだな・・・・」
うーちゃんが狼狽えている。でも、それを隠して平静を装って話を続けている。
「みんな知ってるの? ナナミもコナンくん達も、今まで戦ってきた子たちも」
「知らない。知る必要もないから言わない」
「ひどすぎる」
「待て、早合点しないで欲しい。むしろ世界の意思の代表者として、自分の思う世界を選択できるチャンスなんだ。これは。ただ私欲が混じらぬよう俺達は殊更それを言わないだけだ。量子魔法は選択を進めるだけの力だ。これまでだって、量子魔法の力を使わないで世界を変えてきた奴らはいる。知りたいなら言ってやってもいい。量子魔法を使わないで奴隷解放の世界を選択した奴もいる。だがその影で違う可能性は捨てられてきた。やってる事は同じだ」
「でも願いが叶うって、嘘じゃない! あなた達は嘘で私たちを誘惑して魔法少女に仕立てた」
「嘘じゃない。表面的な願いは叶わないが、本人の心の底にある真の願いは確かに叶うんだ。だから意思の代表者として魔法少女になると言っているんだ」
要するにこうだ。
モテたいとか、おいしいものを食べたいとか、そういうのじゃなくて、魔法少女一人一人に本当はこういう世界が見たいという意思がある。
それが願い。
その願いは、世界中の人達の共通の願いであり、私たちがその願い=意思の代表者である。
そして、この先世界がどんな方向に流れるかは、そういった願いを持ったどの魔法少女が残るかで決められると。
詭弁だよ。
「じゃ、ナナミやゴスロリはどんな願いなのよ」
憤然と質問してやる。
「ゴスロリは、人間性とか良心とかそういう類の物が完全に欠落している。それはあいつが持っている意思だ」
「あの子に託された未来って」
「確かではないが、たぶんこの世界の破壊と終焉だ。何かそこに至る辛い経験があったんだろう。あいつの人生に」
破壊と終焉。
重すぎる。想像よりはるかに・・・・。
言葉のあやではなく本当に血の気が引いた。膝の震えが止まらない。だが、それは私の中にもある。
「じゃ、私は・・・・」
「わからない、ただお前も一つの未来を持っている」
「分からないんだ」
でも、私のせいでママは死んだ、私の持っている未来はそんな未来だ。きっと。
悪夢だ。これを悪夢と言わずなんと云うのだろう。
「だが、自覚はなくても、もう決め続けてるんだよ」
うーちゃんが、敢えてか知らぬが重々しく答えた。
「そんな・・・・そんな」
「話を戻すぞ。どうする・・・・おまえはどうしたいんだよ」
どうしたいなんて、そんな。
私が世界の未来を決めるかもしれないなんて。そんなの・・・・。
だったら、あのとき消えちゃった方がよかった。
タダの小学生なのに。
でも、その前にもし出来ることがあるなら、ママをなんとかしたい。
罪滅ぼしにもならなくても・・・・。
「ママはどうにもならないの。それが私の本当の願いでも。うーちゃんの力でも」
ダメだろうと思いつつ、でも聞かずにはいれない。そんな都合のいい話がある筈がないって知ってても。
だが、うーちゃんは暫く考え込んで、そして信じられないことを言った。
「できなくもない、ゴスロリに勝ったら可能性がある」
「・・・・えっ! ホント!?」
耳を疑った。ダメモトなのに、まさか可能性があるなんて!
「ああ、あいつの量子魔法量は莫大だ。それが解放されたら可能性がある」
「本当そんな事ができるの?」
前にうーちゃんが量子魔法はそんな都合のいいものじゃないって言ってたのに、それこそ都合いい話だといっていたのに。本当に可能性があるなんて。
「その量子魔法が解放されたら、ママはどうなるの?」
うーちゃんが長考している。
何だか分かんないけど、可能性を探してるのかもしれない。
「お前のお袋を生き返らせることはできないが、なんかの形で一緒に居られるようにはなるとは思う」
なんとも歯切れの悪い言い方だけど、うーちゃんが出来ると言ってるんだから出来るんだ。
今までも信じられないことが、本当に実現してきた。
今度もきっと!
「私は信じていいの?」
一拍の後、うーちゃんは「ああ」といった。
本当なのともう一度念を押すと「本当だ」と重ねていった。
「なら、うーちゃん、もう一度やろう! もう一回戦おうよ!」
「ナナミやコナン三兄弟は無事だ」
「ほんと! よかった、ほんとよかった! じゃナナミ達とまた一緒に戦えるんだ!!」
「ああ・・・・」
さっきまで常識を逸した現実の前に頭も気持ちもぐちゃぐちゃになっていたのに、ママを取り戻せると知った瞬間、私の全ては一気に晴れあがった。
まるで厚い雲を抜けた飛行機のように、雲ひとつない世界が私の前に広がって見える。
よしっ!!
「ありがとう、うーちゃん!」
そうだ、いいこと思いついた。
ちょうど、うーちゃんに開いた穴にネックレスのチェーンが通りそうだ。
私はうーちゃんにチェーンを通すと、ママの形見のネックレスの代わりに、うーちゃんを首にぶら下げた。
「これでいつでも一緒だね」
今度は離れ離れにならないように、しっかり握っておこう。
もう私は、大事なものを手放さないぞ。
・・・・
あずさは俺を首からぶら下げると、これでいつでも一緒だと言って、にっこり微笑むのだ。
俺にはそんな顔を受け取る資格はない。アレは戦いを続けさせるための与太話だ。
希望は人を変える。
俺は今、あずさの胸の上にいる。ガリガリに痩せた胸の上に。居心地悪く。
『最低だ』
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