因果の結び目
義務教育って素晴らしい。
私はちゃんと5年生になった。
新しいクラスのメンバーは、4年生とまったく同じだ。
だって田舎の学校だもん。生徒が少ないからシャッフルしたくても出来ないんだ。だから先生も同じ。
教室だけ、一つ横にズレる。
さすがに同じ教室だと、学年が上がった実感がなかろうと学校も考えたのかもしれない。
それでも、私は一つ大人になった実感あるけどね。
背も伸びた!
すごい食べてるからかもしれないけど、1年前にくらべたら3センチくらいは伸びてると思う。
そう思ってパパのスマホから1年前の写真を引っ張り出してみると、やっぱり一回り小さい自分が写ってる。
「やっぱ、大きくなってるよ」
「そうだな、それより顔つきが随分違うぞ」
うーちゃんが珍しくいいポイントを突いてきた。そうなのだ。私も最近鏡をみて思ってたんだ。
何? 大人の女の表情ってやつ?
「1年前は、なーんにも考えてない、ぽけら~っとしたお子様って感じだな」
これは4年になったばかりの時、学校に行く途中で撮った写真だ。
振り向いた後姿をパパが撮ってくれたもので、満開の桜の木と一緒に映ってて、けっこうかわいい私の奇跡の、いやお気に入りの一枚だ。
それを、ぽけら~と言うか!
「は? 違うでしょ! ぷにっとしてかわいいでしょ!」
「確かに、まるまるして、大人のカケラもないな」
「失礼だなぁ。まるまるじゃなくてぷにっだって」
「どっちも肉付きがいいのは同じだ」
「うーちゃんはモテない! 典型的なモテない男の子だ! 今は私が大人っぽくなったって話なの!」
「ハッピーバースデイ、老化おめでとう!」
あーあ、たのし。
こんな話が出来る日常がホント楽しい。これがずっと続けばいいのに。
心の底からそう思う。
・・・・
時は経ってもう7月。梅雨が明けて急に夏がやってきた。
私が魔法少女になってから、もう1年以上も経つんだ。
「あずさちゃん、ずいぶん体が大きくなったよね」
相変わらず、まおちんはその容姿に似合わず、言い方がストレートだ。私だって女の子だよ。大きくなったって。
確かにガタイがよくなったけど。
前に座ってるりんちゃんが、ひょいと覗きながら話に加わってきた。
「すげーんだよ。筋肉が。あのひょろひょろだったあずりんがさ」
「だって一生懸命鍛えたもん。体力つけなきゃって」
「でも、体力だったら筋肉はつけなくてもいいじゃん」
「だって、もうブクブク太りたくないもん」
「だよなー。ぽっちゃりあずりんが懐かしいぜ」
「うわー、傷つくー、それ」
「だってホントだろ。今じゃ、あずりんの腹をさわっても、あのプルプルを味わえないなんて」
「あんときも、プルプルしてなかったよ!」
「いや、してたね。凄かった。まぁ今じゃ代わりにまおちんがぽっちゃりキャラになったけどな」
「わたしもぽっちゃりしてないよ~」
「胸がな」
「たしかに」
私達がしげしげまおちんの胸をみると、まおちんは両手で自分の胸を隠しながら、
「二人とも!」
と言ってちょっと拗ねてみせた。
かわいいぞ、まおちん。
「そういうあずりんも、悲しいことに胸が急成長してんだよな。やっぱそうだと思ったんだ。オレだけとり残されたぜ」
「いや、あたし泳いでるから筋肉ついたんじゃないかな」
「いんだよ筋肉でも肉でも、あればよ」
「りんちゃんは、その前にオレとかいうのやめなよ。男の子に間違われるよ」
うわっ。やっぱり歯に衣着せぬ言い様だ。まおちんって。
「いいよもう。あーあ、オレもあずりんみてーにガツガツくったら大きくなっかなー」
「あたし、そんなガツガツ食べてないー」
「だってこの前、遊びに行ったら親父さんスゲー量の飯作ってたじゃん。あれ二人で食うんだろ」
「う、見てたの。あれ」
「みたよ。てか見えるっしょ。居間通るんだから。あれ四人分はあんじゃね」
「・・・・だって、お腹すくんだもん。体動かすと。足りないから少しずつ増やしたらあんなになちゃって」
「いや、食い過ぎだよ。よく入んねーその体に」
感心そうに声をあげる。
「これが不思議と食べられんだよ」
「りんちゃんも、一度思いっきり食べてみなよ。自分でもびっくりするって」
「一度やってみよっかな。そしたら胸おっきくなるかもな」
「ほどほどにした方がいいよ。りんちゃんがぽっちゃりキャラになっても、わたしは知らないよ」
乗せられて調子よくなってるりんちゃんに、まおちんが冷や水を浴びせる。
そう二人が言ってくれたとおり、ほんとに体力が戻ったと思う。
いや、前より力があると思う。それに合気道も空手もすごくマジメにやったから体さばきも覚えた。
師範が、こんな真面目な生徒は見たことない、気迫が違うって言ってたくらい。
当たり前だよ。こっちは真剣なんだ。攻撃魔法が使えない私は武道で勝負するしかないんだから。
・・・・
ナナミやコナン三兄弟とは、5年生になってからやっと再会した。
連絡はうーちゃんがミー達と取っていたが、実際に会ったのはそれから随分後になってからだった。
量子魔法ゲートを失ってから、私はナナミのウチに行く手段を失っていたし、変身すればゴスロリにバレるかもしれない。
ある意味、私達は量子魔法を封じられて、小学生の身では身動きが取れなかった。
それでも私達は、お互いに家族に言い訳を作って千葉で会うことにした。
「ナナミー!!」
「あずさ!!」
「無事でよかったよーー!」
ナナミの顔をみたら、もう嬉しくなっちゃって、手を取り合ってぴょんぴょん飛んで喜んじゃった。
なんだろう、りんちゃんやまおちんとは全く別の気持ち。
同じ戦いをしてきたし、ナナミは本当の私を知っている不思議な友達だ。これを親友というのかもしれない。
いや戦友って言うんだっけ?
「うーちゃんに聞いたわよ、御宿ってニュースで見たからまさかと思ったけど、本当にあんなことになるなんて。でも無事でよかった」
「うん、ごめん。巻き込んじゃって。私もあんなことになるなんて思わなかった」
「あずさのせいじゃないよ」
「でも私が選んだ結果なんだって、敵の子が」
「どういうこと?」
私は、その日にあった出来事を覚えている限り全部ナナミに話した。
その話が終わる前に聞き覚えのある懐かしい声が遠くから聞こえてくる。
「お前が右って言ったからだろ!」
「ちゃんとボクの話をきかないからだ」
「だから誰かに聞いた方がいいっていったのに」
「んなの地図みりゃいいんだ」
「みてもわかんねーくせに」
「なんだと!」
私とナナミはその声を方を見ながら、顔を見合わせてため息をついた。
大方、駅までついて道を間違えて右往左往していたのだろう。相変わらずあの子たちは・・・・。
そういう苦笑いだ。
「あっ、いたいた!」
「あずねー!」
恥かしい、そんな大きな声で私を呼ぶな。
実際恥かしいから、ちょっと手を上げて応えると、三人はご主人様を見つけたワンコのように駆けてくる。
それをみて、またナナミと顔を見合わせて苦笑い。
「なんだ、元気そうじゃん!」
「うーちゃんは、死にそうだっていってたのによー」
隅田川コナンくんが、コクコクうなずいてる。
「あんたら、最初の一言がそれ!?」
ナナミが腰に手を当てて怒る。
「ちゃんと挨拶できない子はロクな大人にならないわよ!」
「ちぇっ」
コナンズが相変わらず口うるさいって顔をしている。同じ顔で。それが何だか面白い。
「まぁまぁ、ナナミ。元気でいいじゃん」
「あずさは甘いのよ。ちゃんと小さいうちから躾けないとダメな子になってからじゃ遅いのよ」
私の胸元でうーちゃんの声がする。
「所帯じみこというなぁ。おめーはこいつらの母ちゃんかよ」
またぁ火に油を注ぐようなことを。
「うるさいわね! ウマの分際で!」
ほら、ナナミが真っ赤になって怒ってるし。
「どこ? どこにいるのよウマ! 出てきなさいよ!」
「あははは・・・・」
ナナミに落ち着きなよとなだめると、いつもならある筈の存在がないことが気になるのかナナミもコナン三兄弟も同じことを聞いてきた。
「あのステッキは? ウマのステッキはどこにいったの? あずねー」
変身後はステッキになるうーちゃんだが、普段はウマの彫刻部分だけなので、私はうーちゃんをカバンやポシェットに忍ばせていた。
だが、この時は何も持ってなかったので、ナナミ達が不思議に思うのはムリはない。
「おーい、ここだ」
どうやらカミングアウトしたいらしい。
私は首元からチェーンを引っ張りあげて、ネックレスになったうーちゃんをナナミ達に見せてあげた。
ナナミが目を見張ってビックリしている。
ミーもナナミの髪の裏から出てきた。
サーマ、ヤジュル、アルタも姿を現した。私の周りをポワポワ浮いている。
「汚ねー」
コナン三兄弟の第一印象。たしかに黒コゲの物体なので綺麗じゃないけど。
「うんこみてー」
えー、それはないでしょ。一応身に着けてるものなんだから・・・・。
「な、なんか随分ぐちゃぐちゃになったわね」
ナナミがそう思うのも無理はない。
「大部分が溶け落ちたのですね。金属を
「みんな冷てーなー。無事でよかったねくらい言えないものかね」
「ほかにいい言葉が思いつかなくて、見たままで」
ナナミはまだ手のひらの中のうーちゃんをしげしげ見ている。
「なんかすごい熱で蒸発しちゃったんだって。でも小さくなったから運びやすくていいよ」
「おめーもか!さもこうなったのがイイことみてーに言いやがって」
ナナミがふと冷静になって、話を続けた。
「うーちゃんが、こんなになるんだから、ほんとに凄かったんだ」
「うん、そうみたい」
「ねぇ、何でそのゴスロリの子はあずさじゃなくて、あずさのママを狙ったのかしら。魔法少女と関係があるの?」
「わかんない」
ママの話はよそう。この轍にはまると私は凹んで出てこれなくなるんだ。話題を変えなきゃ。
「ところでさっ、ナナミやコナンくんたちは、魔法使いのことって知ってる? 知ってて魔法使いになった?」
「うん、知ってるよ」
「どんなこと?」
「願いを叶えるから魔法使いになって戦うってこと」
「ナナミも?」
「同じよ。でもそんな都合のいいことがあるかしらと思ったから、私はもう一つ質問をしたわ。他に何があるのって」
「そしたら」
「ミーは、今日の夜にテレビを見たら勉強ができなくなります。お友達と遊びながら家族と楽しい時間を過ごすことはできません。そういうことです。と言ったわ」
「どういうこと?」
荒川くんが、ぽかんとしている。
「望むことを得るために、得られないものがあるということだと思ったわ」
やっぱり、ナナミは知っていた。そんな都合のいいことが無い事を。コナン三兄弟は何も考えず楽しそうだけで契約しちゃったみたいだけど、ナナミはそれも込みで魔法少女を始めたんだ。
「じゃなんで、魔法少女が戦うかは教えてもらった?」
「それは願いを叶えるためじゃないの?」
「ううん、もっと深い意味があるの。私たちが戦う意味」
迷ったがママを助けるためには皆に話しておきたかった。全部知ったうえで一緒に戦ってほしい。
私たちに課せられた本当の意味、世界の選択を私たちが担うことを。
ナナミは事の重大さが分かって青ざめていた。ノースリーブの腕とちらっとみえる太ももに鳥肌が立っている。
コナン三兄弟は、事の重大さがイマイチ飲み込めないのか、まだぽかんとしている。
「よくわかんねーや」
「でも、世界とかカッコいくない」
「あんたたち、いっぱい被害者が出てんのよ! あずさのお母さんだって。不謹慎じゃない!!」
ナナミは気丈にもコナン三兄弟に注意しているが、ブルブルと両の腕が震えていた。
正面から受け止めてくれるナナミには、本当に感謝している。
でも一杯ナナミにも背負わせちゃってるのが、本当に心苦しい。
いっそコナン三兄弟みたいに能天気だったら。
「ごめんねナナミ。こんな話をしちゃって」
「ううん、ありがとう。教えてくれて」
「それであずさはどうするの? これから」
「うん・・・・」
「私達は、もうあずさについて行くしかないわ。仲間だけど負けちゃってるから、うーちゃんが云う私達が担う未来はもうないのだから」
「うん。私は。私は、ママを取り戻したい・・・・」
「えっ! そんなことできるの!?」
「分かんないけど、うーちゃんは出来るって言ってた」
「うーちゃん、本当なの」
ナナミが珍しく、うーちゃんに直接話しかける。
「あ、ああ、出来る」
ぼそりとつぶやく。
「ホント! じゃ私たちも一緒に戦うわ。あずさのママを取り返しましょう!」
「うん! ありがとう、ナナミ」
「もちろんオレたちも」
「なんかマジヒーローじゃん」
「ありがとう! バカ三兄弟」
「バカじゃねー!」
コナン君たちは、こういうピリピリしたときの私の癒しだ。
本人はどう思ってるかわからないけど、わたしはコナンくん達が好き。
本当に弟みたいに思ってるよ。
そろそろ勝負は近い。
私が撒いた種だ。私が刈らなきゃいけない。私が望んで魔法少女になったんだ。私が終わらせなきゃいけない。
それが出来るのは私だけなんだ。
全てを終わらせる。
拳に力を入れていると、うーちゃんやミー、サーマ、ヤジュル、アルタが私たちから離れた所に集まり始めた。
何を話しているんだろう。
聞こえないのだけれど、なにか積もる話でもあるのだろう。
・・・・
ミー、サーマ、ヤジュル、アルタが俺を取り囲んでいる。
逃がさないってことか。
何を言う気か見当はついてる。あずさの母親の事だ。
「あなた、あずさに何を吹き込んだの」
「聞いての通りだ」
「偽りを与えて何をするつもりだ」
「じゃ本当のことを全部言えってか。ベラベラしゃべってよ」
「そうはいってないでしょ」
「あいつをちゃんと見張ってろていったのはお前らだぞ」
「そう言ったが、騙せとはいってない」
「結果的にそうなったんだ。止むを得ない選択だった」
「選択するのは彼女らで、貴様ではない」
人に責任を押し付けておいて何をいいやがる。
あくまで喋りは事務的で冷静だが、こいつらから伝わってくるのは威圧だ。
「分かってる。分かってるが。俺たちの役目を果たすためには、俺は他の方法を思いつかなかった」
「信じれなかったのね。あずさを」
「違う!俺はあずさを信じてる」
「なら彼女の強さをなぜ認めない」
「うるせーな! かわいそうだと思わねーのか。母親も殺されて、あいつは量子魔法もほとんど使えねーんだぞ。敵は量子結果も張らねー冷血漢だ。魔法少女になったから戦えとお前らは言えるのかよ!」
この唐変木が!
こいつらに感情が伝わらないことが胸くそ悪い。
「それが役目だ」
「それらも含めて、選択は行われるのを忘れたか」
「おかしいとおもわねーのか! 一人の女の子にそんなの全部しょわせて!」
「おかしいのはあなたよ」
「!」
凍った。
時が止まった。
ミーの言葉は核心だ。
「あずさを選んだのも、インストールに失敗したのも、あなたがおかしいからじゃないの」
「お前はこの世界に毒されている」
「不適格だ」
その言葉が追い打ちをかける。
合点がいった。そうだ。あずさがおかしいんじゃない。俺がおかしかったんだ。だから今回の選択は全てが狂ったんだ。
その因果がここまで来てる。
そうだったんだ。
そうだったんだ・・・・。
「ああ、そうだ。たぶん、俺は・・・・おかしい。初めから。狂ってたのは、俺だ」
俺が呆然としたのが分かったのだろう。その後は、誰も言葉を紡がなかった。
だが、いまさら分かってどうなる。
もう、あいつは十二分に巻き込まれてるっていうのに、俺はそれをどうすることもできないというのに。
もし手があったら、人間だったら俺は頭を抱えて五体投地しているのだろう。
どこで間違えたのかもわからぬ迷路だ。
だがもう、最後まで行き切るしかないのだ。
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