変わる世界

 こんな5人で戦い初めて、もうどの位経つだろう。

 口喧嘩の絶えない私達だけど、だんだん気心もしれてきて、今いまじゃ立派な連係プレイができるようになった。

 ナナミが遠距離攻撃、隅田川コナンくんが支援、荒川コナンくんが防御、江戸川コナンくんと私が接近。

 5人ってところが、まるで戦隊モノみたいで、なんだっけ「魔法戦隊マジレンジャー」ってあったよね、ほんとアレみたい。

 でもあいかわらず、私だけ戦闘系の量子魔法は使えず・・・。

 接近戦オンリーでしかも肉弾戦の専門って、女の子のスタイルじゃなーい。

 それでも、私たちは関東のほとんどのエリアで勝利を重ねていた。


 今日は奥多摩で重力波反応が出ているとかで、また5人で集まっている。

 といっても、奥多摩まで移動しているうちに反応は消えてしまった。


 もう、奥多摩は紅葉の季節だ。

 モミジやコナラが色づき、赤や黄色の山肌が目にまぶしい。

 森のなかではふっくら実ったドングリを小動物が一生懸命集めている頃だろう。

 そんな像像に一人和んでいると、ウチの小動物、コナン三兄弟も子リスのように空の上でじゃれあってる。

 ナナミはいいお姉さんで、喧嘩しそうになる三人を時に仲裁したり、時には怒ったりしている。

 なんて平和な景色。

 秋晴の空の上で、ふいに思ったことを口にしてみる。

「うーちゃん、この戦いっていつまで続くの?」

「さーなぁ、俺にも分かんねーよ」

「えー、だってうーちゃんがしかけた話だよ」

「実は、こうやって5人組で戦ったらどうなるか、俺もよく知らねーんだわ」

「ミーは知ってる?」

 ナナミのマスコットのミーにも聞いてみる。

 ミーは普段はナナミの髪の裏に隠れているが、用があるとひょいっと出てくる。触るとふわふわしてて気持ちい。

 でもあんまり撫でると、本気で噛んでくるから怖い。

「私も知りません。今回は初めての事ばかりです」

「今回?」

「はい今回と言いました」

「うーちゃん達、前にもこんな戦いをしてたの」

 3人の話に、じゃれあってたコナン三兄弟とナナミも入ってきた。

「ああ、したぜ。こっちの時間だとどのくらい前か分かんねーな。まだ車も走ってない時代だったぜ」

「ミーも?」

「はい、かならず私たちは必ず同じ時空に現れます」

「サーマ、ヤジュル、アルタ。あなた達は?」

 サーマ、ヤジュル、アルタはコナン三兄弟のマスコットだ。この子たちは光の玉なので実体はない。

 サーマは赤、ヤジュルは青、アルタは黄色にぼーと光っている。

「我々も」

「オレたちは戦うの楽しいぜ。なぁ」

 江戸川くんがうれしそうに鼻を擦って答える。それに同調するように二人もうんとうなずく。

「あんたたちはお気楽よね。ゴールのないマラソンみたいな状態を楽しめるなんて」

 ナナミがあきれ顔で言っている。まったくだ。

「だってなぁ、クラスの奴らはごっこ遊びだぜ。子供っぽくてみてらんねーよな」

 その言葉が子供っぽいんだっつーの。

 と思いつつ、子供子供とバカにするとコナン三兄弟は必ず怒って面倒臭いことになるので、それを知っている私とナナミはため息まじりに、「はいはい、そうでしょうね」と相槌を打ってお茶を濁した。


 そんなやりとり見ながら、うーちゃんが衝撃的な一言をぽろっと言った。

「本当なら、ナナミもコナン兄弟もここにはいねーんだ。お前らも見たろ。量子結界の中で負けたやつは消える。勝負がついた瞬間にブレーンが切り替わるからな」

「えっ! どういうこと?」

 5人が顔を見合わせる。

「消えてなくなる訳じゃねーが、ここで起きたことは無限に存在する可能性の中に放棄されて、最短距離の可能性が選択されるってことだ。ブレーンの切り替えはお前たちが気づかないだけで頻繁に起きてる。観測された瞬間に存在が確定するから気づかないのはあたりまえだがな」

「・・・」

 目をぱちくりさせる全員。

「わかるはずないと思いますが」

「そうだ・・・よな」

「それって、私とナナミやコナン三兄弟と友達になってないってこと」

「うーん、まぁ全部端折っていえばそうだな」

「ダメだよ! そんなの! せっかく友達なったのに! ナナミの夢だってまだ聞いてないのに!」

「ダメっていわれてもな~。それに何かわからんけど、そうなってない現実が今あるだろ。こいつら全員あずさに負けてるのによ。だから大丈夫だろ」

「そうだけど、だったら不安になること言わないでよ」

「それにしても、なんで私たちだけ負けてもリセットされなかったのかしら」

 ナナミが最初に思った疑問をもう一度ぶつける。それに荒川くんが続きをそえる。

「いままで僕らが戦ってきた相手は、仲間にはならなかったのに」

 そうなのだ。コナン三兄弟との戦いの後、私たちはもう10人以上の魔法少女と戦ってきた。

 駄々っ子少女、陰鬱少女。5歳児くらいの魔法少女もいた。どれも量子結界が蒸発するとその場からいなくなっていた。

 どうしたのかと問うと、ミーは「元の場所に戻った」とだけ答えていたあれだ。

「いろんな子と戦ってきたよね。どの子もアクが強くて友達じゃなくてよかったと思ったけど」

 そのあずさの言葉に、サーマの強く光って答える。

「これは推測だが、あずさがそう願ったからではないのか?」

「私が願ったから・・・?」

 サーマ、ヤジュル、アルタは考えを完全に共有している。この続きはヤジュルが答える。

「量子魔法の原初の姿は意思である。それは願いとも言える」

「そうか、こいつにはアクセッサがないから、ある意味もっとも原始的な形で量子魔法が発動されてるのか。それでか・・」

 ウマは今までの事の辻褄が合ったように得心の声をあげた。

「おい、だがちょっとまてよ・・・」

 私達には何が話されているかさっぱりわからないが、うーちゃん、ミー、サーマ、ヤジュル、アルタは急に真剣な状態になった。

 それぞれ、ご主人? の手元を離れ真ん中に集まって話始める。


「困ったことになりましたね」

「まったくだ、なんでそれが俺のところなんだよ!」

「嘆いても仕方ない」

「事無くミッションを終えることが大事だ」

「不用意は慎め」

「分かってるって。だがそれは俺じゃなくてあずさに言えよ」

「それを監視するのがあなたの仕事でしょう」

「俺か!」

「あなたに関わることです。私たちはそこに巻き込まれただけ」

「ずれーぞ! おまえら! 俺の責任にする気かよ。俺が仕込んだわけじゃねーぞ」

「不可抗力であっても、対処するのがあなたの仕事でしょう。その覚悟もなしに参戦してわけではないでしょう」

「覚悟はしてたさ。だがこういう事態の覚悟じゃねぇ」

「想定外が起こることは、想定内である」

「どっちだよ!」

「過去にもあった。あのときは隕石が落ち全て破壊された。だがそれも運命だ。我々は常に時空に介入している」

「知るか! いまならブルース・ウィリスがなんとかしてくれんだろ!」

「映画の見過ぎです。あなたはいつもいらないことにばかり時間を使って」


「なんか5匹で話してるよ」

「何かしら」

 そんな真剣な会話も聞かずコナン兄弟は空の上でじゃれあってる。

 それを横目でみて、私達はため息をついた。

 男子ってほんとバカ。

「わーった、分かったって。ちゃんと俺が面倒みるって。このミッションも長くないだろ。大丈夫だって」

「信じているぞ」

「わたくしもだ」

「同じく」

「言ったからにはちゃんと実行するのですよ」

「へいへい」


 話は終わったらしい、5匹が元の場所に戻ってくる。

「うーちゃんどうしたの?」

「あー何でもない。お前のデブが早く治らねーかなって話だ」

「デブじゃないじゃん!! ちゃんと服のサイズも合ってるでしょ! どんだけ私が苦しんだと思ってんのよ。うーちゃんのせいで!!」

「ああ、すごいすごい。まじ頑張った。朝4時に走るのなんて並大抵の努力じゃない。俺は高橋尚子が目の前にいるかとおもったぜ。ほんと毎日」

「もう!口から出まかせばっかり!」

「ミー、何を話してたの」

「何でもありません」

「隠しても無駄よ」

「・・・ナナミさんは知らない方がいい話です」

「そう、いいわ」

 コナンズは何事もなくまだ遊んでる。

 少しは空気を読めって。まったく。

 5匹に聞いても答えはないし、ここにいても敵もこない。

 つるべ落としに日も暮れてきて、段々寒くなってきた。

 今日はもう帰ろう。


「帰ろっ。もう敵も来なみたいだし、なんかうーちゃんたちも変だしさ」

「ええ」

「もう帰っちゃうの」

「敵がいないとつまんねーの」

「あなた達は、もう! いつまでも子供ねぇ」


 ・・・・


 奥多摩から、御宿までは遠い。

 量子ゲートを使わないと150kmは遥かに超える。

 いくら飛行が速いといっても、2時間以上の時間がかかる。


「うーちゃん、最近思ってたんだけど、だんだん移動距離が延びてるよね」

「ああ、ここらへん一帯はもう俺たちが押さえたからな、どうしても遠くの敵になっちまう」

「そうだね、でもまたゲート作るのはイヤだしなぁ」

「とはいえ、そろそろ飛んでいくのも限界だぞ」

「それは、私にまた3日分のご飯を食べれってこと」

「ほかの奴らに作らせてもいいけどな。そろそろナナミも作れるんじゃねーのか。あいつ大分強くなってるぜ」

「だよね、ナナミの武器の顕現とかすごく早くなったもんね」

「あいつ、変身するとき、あのにょろっとした『ヘビメタ子』みたなやつにコイン食わせてるだろ」

「うわっ、思ってても言わなかったのに。さらっと言った!」

「まさかお前に通じるとは思わなかったぜ! 驚いたのはこっちだ」

「パパのLDコレクションにあったの」

「LD! きょうびの小学生がレーザーでディスクなんて近未来的な名前を連呼するとは!」

「連呼なんてしてないじゃん!」

「あれ面白かったよな。俺はダサイダーが好きだったぜ」

「全体的にダジャレで出来てるよね。ラムネ&40って」

「あの食いっ気が多いところとか、おまえミルクに似てるな」

「あんなに食い意地はってないもん! 私」

「あ、コインを食わせて変身するって意味では、タマQの方か」

「うーちゃん、このくらいにしときなよ。枯れたと言えあかほり先生は怒らせると怖いよ」

「そうだな。そのコインがナナミの量子魔法の元なんだわ。だからミーにガンガンコインをブチ込めば量子ゲートがつくれ筈だぜ」

「どのくらい?」

「さーな、ナナミは変身のとき100円くらい使ってるだろ。1万円くらいじゃねーの。知らねーけど」

「1万円!! 大金じゃん」

「まぁお前にとってはな。だがナナミならお年玉なんか使わなくてもできんじゃねーのか」

「私はムリ! ムリムリ!」

「始めっから期待してねーよ。だから飯をトリガーにしたんじゃねーか」

「はぁー、その方でよかったよ。節度を守ってくれればだけど」

「そろそろ足立区に着くぞ。あとは量子ゲートをくぐれば、おまちかねのおウチだぜ」

「うん」


 物蔭に降りて変身をリリースする。私は変身する時よりリリースする時の方が好き。

 ドレスが銀色の粒になってパァって空に弾けるのが幻想的で、それが夕日を浴びた時とか、ホントにきれいだから。

 それをうっとり見てたら、ムードのないうーちゃんが「そんなのタダのゴミだぜ」と言っていた。

 これはゴミなんかじゃない。きっと私の想いの一部なんだと思う。


 ゲートから出て自分の部屋に戻ってきた。

 押入れの陰に靴を置いて一歩歩こうとしたとき、うーちゃんが凄い勢いで私の眼前に踊り出てきた。

「おい! ちょっとまて! 誰か居るぞ!!」

「え、誰も居ないよ」

 きょろきょろ部屋を見回すしてもどこにも人影はない。だが確かに気配がある。

「ごめんなさい、誰かに見られたくないと思ったのだけど、あなたにも見えないのでは意味がないわね」

 声はすれども姿は見えず。だが次第に姿が見えてくる。

 私のベッドの上に足を組んで座る少女・・・・。


 横縞のニーソックス。黒く丸っこい靴。

 私の部屋の中だっていうのに! ど、土足だよ!!

 服は少女趣味のピンク系ゴシックロリータファッションだ。

 長袖の腕周りにもリボンがちりばめられてて、胸の前で組んだ腕が動くたびにリボンがフワフワ動いている。

 アタマの上にはリボンをあしらったカチューシャ。

 たぶん中学生だと思う。14歳くらいだろうか。私よりかなりのお姉さんだと見える。


 視線を顔に移すと、超絶美人!

 こんな整った顔の子なんて見たことない。芸能人でもこんな人いない。

 でも鋭い目をしている。その目を見ただけで私の背中にはざわっと冷たいものが走った。声が出ない。ごくりと唾を飲む。

 代りにうーちゃんが喋り出す。

「いつからここにいる!」

「うーん、もう2時間くらいかな。あまりに暇だったからあなたのお母さんとテレビを見てたわ。もっとも気づいてなかったけどね」

「自分に量子ゲート魔法をかけてるのか」

「その一部をね」

「な、なんで私の部屋にいるのよ」

「あら冷たいお出迎えね」

「答えて!!!」

「あなたを待っている以外に何があるのよ。こんなド田舎に来る用事なんてないわよ」

 また唾をごくりと飲む。口がカラカラだ。こんな恐怖と緊張は初めてだ。息を深く吸わないと体がガタガタして声が震えてしまう。

「田舎は余計よ。何の用事」

「よくこんなところからスタートしてここら辺を押さえたわね。随分頑張ったじゃない」

「・・・」

 言葉に詰まりキッと相手を見据える。


「何しに来たの!」

「わかるでしょ。いただきに来たのよ」

 いただくとは、私達が押さえた領地を奪いに来たのだ。

「私を倒して、この領地を奪いにきたということ?」

「領地? おバカさんね。魔法少女が領土争いをしてると思ってるの? まぁいいけど。でも、あなたを倒すのはその通りよ。あなた方、いつも5人で行動しててズルいから、ちょっとトラップをかけてバラバラにさせてもらったわ」

「奥多摩の!」

「ご名答~。どうやったかは秘密よ。教えちゃうとあなたやっちゃいそうだから」

「ゲートといい透明魔法といい、それだけの量子魔法をどこからもってきてんだ!」

「あなたの想像通りよ」

「・・・・狂ってるぜ、おまえ」

「ありがとう、私は目的のために手段を選ばないわ。私にはあなたの命が必要なの。ちょうだい」

「ちょうだいっていわれて、はいそうですかってあげられるものですか!」

「そうよね。やっぱり力ずくで頂くしかないのかしら」

 固唾を飲む自分の喉の音が辺りに響いた。

 普段なら軽口をたたくうーちゃんが緊張している。これは本当にヤバい状態なのだ。

「なら、力ずくで・・・」

「やめろ、あずさ! 勝ち目はない。圧倒的すぎる」

「じゃどうするのっ!」

「ここは・・・・逃げる!!」

 うーちゃんはそういうと、私のシャツの下に潜り込んで私を部屋の外に無理やり引っ張った。

 それに引っ張られて部屋を飛び出て、全力で階段を駆け下りる。


「居間のテーブルにお菓子が置いてあっただろ。あれを取ってこい。それで変身する」

「うん!」

 階段の一番下の手すりをつかんで、それを起点に方向転換し居間に滑り込む。

 ママがソファでテレビを見てる。何の番組かなんて見てる暇はない。

 ママは血相を変えて部屋に滑り込んできた私にきょとんとしている。口がぽかんと開いている。

 私は何も言わず、テーブルのお菓子籠をつかむと、そのまま掃出しの窓をガラッと開けて外に飛び出した。

「あずさっ!」と私を呼ぶママの声が聞こえたが気がしたが、それに応えている余裕はない。

 同時に、お菓子を思いっきり頬張った。


「ごほっ、うっうっ」

「焦るな!」

 こくっとうなずき、無理やり口に突っ込んだお菓子を飲み込む。

 後ろを振り返るとゴスロリの少女が、私の部屋の窓から悠々と飛んで出てきていた。


「何を悠々と人の部屋から!」

 この段階ですでに優劣はついている。なんとか変身して5人を集めなければ勝率は0%だ。

「あらら、やっぱり仲間を集めにいくのね。そうならないように仕組んだのに」

 その言葉を無視して走りながら変身する。

「これはあなたが招いた現実よ。あずさ! もしそれ以上進むなら、こうなるわよ」

 その言葉にもう一度振り返ると、上空にいるゴスロリ少女の掌には、強い光を放つ小さな光の粒が揺らめきながら浮いているが見えた。

 それは、直視できないほどの強い光で、青白く輝いている。

 ゴスロリは、まさにそれを我が家に向かって放とうという構えだ。


「うぉーーー!! まずい! まずいって!! 量子結果も張ってねーのに! あずさ、止まれ!! 止まれーってんだ、あずさ!」

「うーちゃん」

「あれが放出されると、ここいら丸ごと消し飛ぶぞ!」

「!!」

 飛び始めて一歩、二歩といところで急制動し、空中の大分離れた位置でゴスロリと対峙する。


「どうします。あずささん。いまどんな選択肢があなたに与えられているか。言わなくてもわかりますよね~」

 語尾にかわいらしく抑揚をつけていうのがイヤらしい。

「くっ!」

 戦っても負ける。負けたらどうなるの。たぶん私の次にナナミもコナン三兄弟もやられる。

 ここで仲間を呼べば、勝てるかもしれない。でもウチが・・・。

 もういっそ負けてしまってもいいのではないか。リセットされるだけなんでしょ。さっき言ってたし。

 そうだ、もともと戦う意味なんてなかったんだ。

 興味本位で始めた魔法少女だ。


「うーちゃんには悪いけど負けちゃて、ここを渡した方が・・・」

「寝言も休み休み言いいやがれってんだ! 量子結界も張ってねーんだぞ。どうにかなるわけねーだろ!」

「じゃ、負けたら・・・」

「この世界でいう死だ」

「・・・」

 一気に緊張が走る。だがあまりに重すぎる現実を知らせれても恐怖が追いついてこない。冷静に受け止める自分がいた。


「おい、おまえ! もっと穏便に行くってのはねーか」

「穏便? 降参でもする気? さっきまで戦うか逃げるか迷って子に同情なんてするわけでないでしょ。私は敵には必ず2発撃ち込むわよ」

「なんでここの領地が欲しいの?」

「必要だからよ」

「あなたのマスコットはどうしたのよ」

「そんなこと聞いてどうするの」

「あなたの名前は」

「どうせ死ぬ子に教えても意味ないわ」

「私を倒した後、ナナミやコナ・・・」

「ストップ! そうやって時間稼ぎして、私の量子魔法が蒸発するのを期待してるのだろけど、おあいにく様。そんなに気が長くないの。私」

 わざとかわいらしく、いやふざけたように言うと、指をパチンと鳴らしてゴスロリは最後通知を告げた。


「はーい、タイムオーバーです。私、右腕が疲れちゃったわ。もう一度言うけど、これはあなたが決めたことよ」

 そういうと、ポケット中のレシートでも捨てるように、手のひらの光の粒をぽいっとあずさの家にむかって投げ捨てた。


「あっ!!」

 小さな光の粒は眩い尾を引き名がら、ゆっくりと家に向かって落ちていく。


「あずさ!!!!!!!!!!!! その蔵の裏に飛べ!!!!! 目を閉じろ!!!!!!!」

 うーちゃんは私の手を振り切りると、その勢いのままに私のお尻におもいっきり鞭を打った。骨が折れるんじゃないかという程の強さで。

 それに促されて私は急いで示された蔵まで飛んだ。


 示された先の蔵の裏に付いた瞬間に音もなく世界が真っ白になった。

 数秒後、私は蔵の土壁ごと強い力に押されて、気を失った。

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