セレブの館にようこそ その後のナナミ

 あの後、本当に大変だった。

 目が覚めて、しばらくあずさの膝まくらで寝ていたが、それでも頭が割れるように痛い。

 量子魔法の副作用らしく、何だか酷い吐き気もする。

 どの位横になったろうか。すっかりあずさに甘えてしまった。

 年下なのに。

 やっと吐き気も落ち着いて、起き上がろうとすると、あずさの様子がおかしい。


「トイレ! お水飲み過ぎー! もうダメーー漏れちゃうーーー!」

 何をもぞもぞしてるのかと思ったら。

 そんなこと大声で叫ばないでよ。もうバカ。


 トイレが無いと大騒ぎした挙句、仕方なく知らない人の家のトイレを借りることに。

 ごめんねあずさ、私を助けてくれたのに申し訳ないけど、私には知らない人のお家で、お手洗いを貸してと言う勇気はないの。

 玄関の遠くから見守ってあげる。


 あずさが、内股でクネクネ体を捻りながら、お家の人と話している。

 がんばれあずさ。お手洗い借りられるといいね。

 もし借りられなかったら、どうなっちゃうんだろう。

 ちょっと待てよ。

 もし、ここであずさがお漏らししたら、面倒を見るのは私・・・・だよね?

 うわー、いやだー。最悪。

 それに、お漏らしの瞬間とか見たくなーい。

 心の中で、あずさの交渉の行方を激しく応援する。

「あずさ、ファイト!」

 あ、家のなかに飛び込んでいく。どうやら交渉成立のようだ。

「はぁ~、よかった」


 ほっと一息して腕を組んだら、自分の体に違和感を感じた。

「ん? なんか距離感が違う・・・・」


 さっきまでベッキーの量子魔法の影響が体の感覚がおかしかったが、それはもう抜けているハズ。なのに腕の組位置が普段と違う気がする。

 反射的に胸や脇を触ると、そこにあるアレの存在にサーと血が引いた、


「な、なんか、ふかふかしてる!」

 胸が、腕が、いや脇が、ふにゃっと。

 そーっと、太ももも触ってみる。

 私の太ももは、こんなに手を開かないと掴めなかったっけ!


 信じられない!!!

 あまりの衝撃的な現実に目線が固まった。

 そんな私を、お手洗いから出てきたあずさが幸せそうな顔で見てる。

「あずさ! 自分だけスッキリした顔しやがって!!」


 ・・・・


 もうへたり込みたい気持ちを奮い起して、 西新井大師西まであずさを送り届けた。

 一応、命の恩人だし、いつお漏らしするか分からない人を放っておけないし。

 やっとの思いで家までたどり着いたのは夜の9時過ぎ。

 玄関にはカギがかかっている。

「はぁ~、やっぱりね」

 やっぱり家には誰もいない。また二人とも夜遊びか、別にいまさら驚きもしないけど。


 私の家の玄関には全身が映る大きな鏡がある。

 私は毎朝この鏡で前髪と背中を確認してから学校に行っている。

 一度、ワンピの背中を全開にしたまま学校に行ったことがあって、大恥をかいたのだ。

 それ以来のここで全身をチェックしてから家を出るのが習慣になっていた。

 その鏡に恐る恐る鏡に自分を映すと、おどろくほど顔が丸い。頬っぺたがパンパン。密かに気に入ってた口の両横のエクボがない。

 あ、代りに吹き出物が。

 ここまで太ってることに気付かないとは。

 もう、信じられない!

 ベッキーの悪魔的量子魔法は効果絶大だ。


 あずさ曰く、私がおかしくなったのは10日くらい前で、その間、私は毎日、山盛りのクッキーを平らげていたそうだ。

 恐ろしい話だ。

 そりゃ、吹き出物が出るのも頷ける。

 いや、頷いちゃいけない。

 わずか10日で私の体はどうなっちゃたんだよ!?

 細部まで確認せねば。

 脱衣場に直行して、下着姿になる。


 想像通り・・・・。

 お尻にも腰にも、そしておなかにもたっぷりお肉がついていた。


 ぺたんとその場に座ると、お腹が段バラに。

 ダブル段バラショック!

 だめだ、怖くて体重計に乗れない。

 ブラのサイドベルトの食い込みが醜いよう。


 やばい。やばい! やばい!!

 わたしの方が小っちゃい分、太るとあずさより目立つのだ。

 もう、あずさに合わせる顔が無い。

 いままで散々からかってきたから、あずさはここぞとばかり私をいじるに違いない。

 ああ、もう最悪! 泣きた~い。


 それにしても、日に日に太る自分の子供に気づかない親って、どうなんだよ。

 いかに自分の娘に興味がないか良くわかる。

 ミーもミーだ。

 毎日顔を合わせているのに、こんな単純な量子魔法に気づかないなんて。


「ミーは量子魔法に気付かなかったのっ!」

 不満たっぷりに文句を言ったら、ミーはその場で量子魔法を使わないと分からないと言い訳をいうじゃないか。

「こんなに太るほど食べてるんから、おかしいと思うでしょ」

「ナナミさんは、普段から『あずささんは柔らかくてかわいいいと』言ってましたから、あずささんに憧れてそうなりたいのかと思いました」

「そんなわけないでしょ!!!」

 あずさのところのウマも常識がないが、ミーもしかりだ。

 やっぱり異世界の子は、常識がないものなのか。


 あーあ、それにしても学校に行きたくない。

 いっそ洗脳されっぱなしで、醜い自分の姿に気づかなきゃよかった。

 きっと今までクラスの奴らに後ろ指さされてたんだ。

「あの子、急にブクブク太ってない?」とか。

 はぁ~憂鬱。

 どんな顔して学校に行こう・・・・。

 嘆いても仕方がない、とりあえず一番気になるのは、このぽんぽこお腹だ。

 腹筋をしたらなくなるかな。

 その前に、やっぱりヘルスメータに乗ってみよう。


 「ぎゃっ! 3キロ!!」


 ベッキーめ! 女の敵!

 ぶっ倒す! もう倒したけど。

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