セレブの館にようこそ その後のあずさ

 あの後、本当に大変だった。

 とにかく、トイレに行きたい!

 かといってベッキーの家には戻れないし、近くに公園はないし。

 ピンチになって気づく。

 この国には必要なときにトイレがない!!

 ココでお漏らししたら、人の尊厳にかかわる。

 たぶん、ナナミやうーちゃんに、事あるごとにオモラシネタでゆすられて、永遠に二人には頭が上がらなくなるんだ。

 人生最大の危機!

 どうしたらいい? どうする? どこでする? 私!!


 もう近くの民家のトレイを借りるしかない。

 恥を忍んで、いかにもいけそうな民家を選んでトイレを借りることに。

 呼び鈴を鳴らして出てきたお家の方の、「哀れねぇ」という表情を私は一生忘れないだろう。

 背に腹は代えられないとはいえ、何か女として人として大事なモノを失った気分だ。

 それを遠くから冷たく見ているナナミが。

 そんな顔して私を見ないで~。

 あなたの為に頑張ったんだよ!!

 分かってるの!?


 その後も、激しいトイレ衝動と戦いながら、やっとの思いで西新井大師西までたどり着き、ゲートを潜って家に着いたのは夜の9時過ぎだった。

 そろそろと玄関を開けると、

「このバカ娘が!!!!!!」

 玄関で待ち構えていた両親が大激怒!


 実の親に「バカ娘」呼ばわりされたのは初めてだ。

 パパの怒声に身が縮んだ。

 その衝撃もさることながら、

「悪いことしてた訳じゃないんだよ、むしろ友達を助けたんだよ」

 って言いたいけど言えないのが口惜しい。

 そしてママは「あなたに食べさせる夕食はない」と。


 御飯なしですか!?

 確かに、こんな時間に帰ってきたけど、私も大変だったのに。

 冷たい、余りに冷たい仕打ち。

 本当の事を言えない以上、もう謝り倒すしかない。

「ごめんなさい。こんな時間まで遊んでて、申し訳ございません・・・・」

 玄関で土下座で謝りました。


 土下座する小学生って・・・・。

 土下座する魔法少女って・・・・。


 アニメでも見たことないよ。収容所並みの酷過ぎる扱い。



 小さくなって自室に戻り、ベッドに入って丸くなる。

 もう寝る! わたしを放っといて。一人寂しく枕を濡らしてやる!

 ところが、あの大量に飲んだ水が出るわ出るわ。

 このままでは枕ではなく布団を濡らしてしまう。

 休めるどころかトイレ往復で夜も眠れず。


『死してなを、トイレ往復の呪いを残す』

 ベッキー恐るべし。


 夜中だというのに、腹がグーグー鳴なってます。

 うーちゃんが「うるせー」っと怒ってる。

 だって、お昼から何も食べてないんだもん。しょうがないじゃない。

 でも、ひとつイイことが。

 翌日、翌々日はお腹を壊してご飯がたべられなかったんだけど、そのおかげで図らずも痩せた!

 2日間、くだもの一口とゼリー食品しか食べられなかったのだ。食べると全部出ちゃう。

 乙女なのに~。


 いや~、でも、しかし久しぶりにからだが軽い!

 制服が楽にはいる。

 ウエストが楽チン。

 シルエットがすっきりしてるのが嬉しくて、何度も鏡を見ちゃう。

「うん、本当のわたしって意外にイケてるじゃん」

 痩せたことをうーちゃんに自慢したら、食わないで痩せるとリバウンドするとのこと。

 いつまで続くのよ、ベッキーの呪い!

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