夏だ、水着だ、焼きそばだ!②
敵が上空からゆっくり降りてくる。
いままで小さすぎて見えなかった姿が見えてくると、それは中学1年生くらいの魔法少女だった。
赤のタータンチェックのAKBチックな制服で、ちょっとスカートのプリーツが広がってる。
それに同じ赤のチェックのベスト。
更に近づいてくると顔も髪型も分かってきた。肩より下のロングヘアで、きっとサラサラなんだろうな、日の光を浴びてキラキラしてる。
「くっ、うらやましい!」
「あ?」
うーちゃんが怪訝なリアクションを返してくる。
でも、もっとうらやましいのはその胸元。
「なんか大きくない?」
目を凝らして、まだ遠くにあるその胸を凝視する。
ぜったい大きい。つんと張ったベスト越しに、その下に大きなふくらみがあるのが分かる。
「・・・・あいつ、乳でけーな」
「うーちゃん、乳って!!」
「でけーだろ」
「う、うん、大きいと思うけど」
「めちゃめちゃスタイルよくね、ガキのくせに」
「う、うん、いいと思うけど」
「けど、なんだよ」
「けど、けど、けど・・・・ずるい!!」
「なにがずるいんだよ」
「だって、あの子、私と2つくらいしか違わないよ!! きっと。なのになんで!」
「知るかボケ。自分の遺伝子を呪えや!」
「しかも、かわいいじゃん」
「たしかに大人びたエロい体に似合わない童顔だな」
「あの子が大きくなったら無敵だよ」
「じゃ、お前は無残だな」
「だから、戦う前に私の戦意を喪失させてどうすんのよ、うーちゃんは!」
「お前が勝手に落ち込んでんだろ。お前のいいところは立ち直りが早いバカなところだ、とっとと諦めて悟りの境地に至って、夢想転生でも使えってんだ」
「どこの拳法の呪いよ! ああもう、このムシャクシャをどうしたらいいのよ」
「敵にぶつければいいんじゃね」
「う~~~、そうする!」
その言葉のとおり、この気持ちを敵にぶつける。
「ちょっと、そこのアンタ! なんでこんな楽しい時に量子結界はってんのよ!」
ビシッと指を指して、大声で上空の子に話しかけてやる。
「アンタこそ、年上に質問するときは自分から名乗りなさいよ。じゃないと教えてあげない」
「う~~、ムカつくなぁ~、スタイルいい上に、上から目線で」
「実際、上にいるけどな」
「うっさい! 仕掛けてきたアンタから名乗りなさいよ!」
「えー、いやよ。それにアンタの名前に興味なんかないしー」
「いいわよっ! 名前なんて! 早くかかって来なさいよ」
「そっちから、飛んできたら~」
「むきー!」
「おい、落ち着けって、なに乗せられてんだよ。思う壺じゃねーか」
「だって~」
「そうやって、怒らせて短絡的な行動をとらせる作戦に決まってんだろ」
「そ、そうか」
「しゃーねーなぁ、俺があいつを言いくるめて、こっちにおびき寄せてやっから、俺の言うとおりあいつに言ってやれ」
「うん」
「おい、そこの巨乳やろう」
「おい、そこ・・・・え! それ言うの、私が」
「ああ」
「恥ずかしいよ、大声でそんなの」
「挑発なんざ、すべからくそんなもんだろ」
「う、うん、そうかもしんないけどさ・・・・」
「いいから、言えって」
「わかったよっ」
言う前から顔が真っ赤だ。
「おい、そこの巨乳やろう!」
敵はピクリとも動かない。
「乳がでかいからっていい気になんなよ」
「・・・・ち、ちちが」
だんだん声が小さくなる。
「声が小さい!」
「うーちゃんっ」
「はい、大きく息を吸って! さん、はいっ!」
「・・・・乳がでかいからっていい気になんなよ!」
なんだか上空の魔法少女はニヤニヤしながら見ている。
「どうせ乳輪もでけーんだろ」
「いや、それは言えないって」
「いいから、いけーっ、力の限り叫べー! 根性を見せてみろ!」
「もうっ! 乳輪もでかいぞ!」
ダメだ空の上でお腹をかかえて笑ってる。いや正しくは私の羞恥プレイが笑われてるんだ。
「うーちゃん! なんの効果もないよ、ていうか、どんどん私が傷ついてるような」
「・・・・だな。おかしいなぁ、大抵の女はこれで怒って追いかけてくると思うんだが」
「船場吉兆以上に見え見えなんだよ、うーちゃんに吹き込まれてるのが」
「まぁたしかに、遊び過ぎた」
「えー! 遊んでたの! 私を使って」
「うん、ちょっと少年の気持ちに戻ってた」
「バカ! 全米以上に私が泣いたよ!!」
「へて」
「てへで済むか!! もういい! うーちゃんには頼らない!」
そういうと、あずさはふわりと宙に浮き、ゆっくりその魔法少女の元に近づいていった。
様子を見ながら近寄るのでスピードはゆっくりだが、それにしてもなかなか近づかない。
「ん、もしかして同じ速度で離れてる?」
ためしにバックしてみると、相手もこちらに動きに合わせたようで、やはり距離は変わらない。
もう一度、前に進んでみる。すると相手も後ろに下がる。
「・・・・」
うぐぐぐ。
「ちょっと! なんで逃げるのよ!」
「あら、私は間合いを取ってるだけよ」
いちいち言い方ムカつくんだよ。だったら・・・・
「ダッシュで近寄る!!!」
そういうと一気に空を蹴って、猛スピードで敵に近寄る。
だが相手もその速度に負けじと同じ間合いを取る。
そんな押したり引いたりの見えない綱引きがしばらく続いたせいで、すっかりバテてしまった。
「はぁ、はぁ。あづい~、づがれだ~」
「おい、何バテてんだよ、あいつはなんてことない顔してるのによ」
「あの子、おかしいよ。こんな中で平然として、あんな厚着なのに。ここ砂浜だよ。わたし喉乾いて死にそうだよ」
「・・・・確かに、汗ひとつかいてねーのはおかしいな」
「でしょ」
「もうおしまい? 随分お疲れのようね」
遠くから、うれしそうな軽妙な声が聞こえるのが、また腹立たしい。
「ぐー、ぐやぢいけど、あっちの方が体力ある」
「ちょちょちょ、ちょい待ち! 体力の前にお前の量子魔法、蒸発しかかってるぞ!」
「えっ!」
「ほら、足の方を見ろ、ブーツのあたりの変身が消えかかってる!」
「ほんとだ」
「それか、それが狙いか!」
「えっ!」
「バカ、知らないうちに持久戦になってんだよ。お前の量子魔法が蒸発する直前に一気に決める気だ。変身が消える位だから、もう他の量子魔法は使えない。そこがあいつの狙いなんだ」
「えー! ど、ど、どう、すんの。もう消えるよ、このままじゃ」
「えーっと、えーっとだ、そう飯! もう一回何か食って来い! 量子魔法カロリーを再チャージしたら、変身は維持される」
「えー、さっき食べたのにまた~」
「しゃーねーだろ、戦闘中でも何度でもチャージできるのは、飯をトリガーにした俺の功績だ、この名案を出した俺に感謝しろ!」
「なんで感謝なんか」
「つべこべ言わず、はやく食ってこいや! このバカちんがっ! 向こうが持久戦ならこっちも持久戦でいく!」
「うん」
そういって、またまおちんの元に戻って、もう一個ある焼きそばを食べる。
この空間に入ってるのは、冷えたジュースが売られているっトタン箱と、焼きそば屋の海の家だけだ。
焼きそばを食べ始めると、確かに量子魔法がチャージされたのか、消えかかっていた変身がまた元にもどった。
それを見ていた上空の敵は、「ちっ」という顔をして爪を噛んでいる。
「どうだ! 戦闘中に量子魔法がチャージできるやつは滅多にいねーぞ! 勝ったな! この戦い! 俺達の作戦勝ちだ!」
うーちゃんが大声で敵に向って自画自賛している。
「作戦って・・・・。何も考えてなかったくせに。でも、あの子の量子魔力は何時までもつの?」
「しらね」
「しらねって!」
「そんなの敵に聞けよ」
「聞けるわけないじゃん」
「聞かなきゃわかんねーだろ。俺だってしらねーよ」
「もうっ!」
でも聞いたら本当に教えてくれるかもしれない、ダメもとで聞いてみよう。
「ねぇ、アンタ! 私に持久戦を仕掛けてるんでしょ! 見てのとおり私は戦闘中に魔力をチャージできるの。諦めたら!」
すると敵は、口に手をあててクスクスと笑い始めた。
「なにがおかしいのっ」
「だって、あなた。そんなの勝負にならないわよ。だって私はこの量子結界を半永久的に張ってられるんだから」
「えっ!」
えっと驚いたが、どういうことかよくわからない。小さな声でうーちゃんに聞いてみる。
「半永久的ってどういうこと?」
「知らないで驚くバカがいるか。あいつはたぶん結界の外から量子魔法力を補給してんだよ。たぶん自然エネルギーの何かだ。太陽光とか風とか潮の流れとか」
「じゃ、この戦いは」
「ああ、持久戦では絶対負ける。どっかでしかけないと勝ち目はない」
「どうやって!」
「ナナミとコナン三兄弟に頼るしかねーな。それまで持てばだが」
「・・・・来るのにどのくらいかかると思う?」
「2時間くらいだな。ゲートがないから」
「まじ、2時間もこの持久戦を続けるの」
「ああ、2時間だ」
「いや、ちょっとまってよ。うーちゃん。わたし焼きそば1個で10分くらいしか持たなかったよ。てことは・・・・」
「哀れだな、あずさ。あの焼きそばを12パックほど食べてくれ」
「そ、そんな~」
「またこの展開だな。ご愁傷様。正直いって、俺はぽっちゃりしたお前も好きだぜ」
「その一言で済ませるんですか! ありえない!」
「じゃ、負けますか?」
「う、う、う・・・・わかったよ!」
「幸い、お前の好きな焼きそばが食べ放題だ。大丈夫だ。見たところ焼きそばパックは20個以上あるぞ。これで3時間以上持ちこたえられる」
「そんなに食べれるわけないじゃん! ギャル曽根じゃないんだよ!!」
「俺は、あずさを信じてるぜ。バタっ」
「自分で効果音入れて死んでる場合か!」
ということで、変身が解けかかったら焼きそばを食べ。喉が詰まったらジュースをのみ。
また、変身が解けかかったら焼きそばを食べ。喉が詰まったらジュースをのみ。
息が詰まる? 腹が詰まる? 喉が詰まった謎の攻防が始まった。
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