セレブの館にようこそ③
「あわわわ」
「どなた?」
「わ、わ、あの、なんか、外からいい香りがしたんでつい!!」
なに口走ってんだ、わたし!
自ら食いしん坊キャラになってどうすんのよ。
バカバカわたしのバカ。
「あら、クッキーの香りかしら」
「はい!」
だめだ、もう既にリカバー不能。このキャラで押し通すしかない。
「香りに誘われてふらふらっと。すみません気づいたここまで来ちゃいました」
とんだアホ女だ。これじゃ。
「うふふ、ネコちゃんみたいね」
「はい! 自分でも困ってます」
全くだ。今、本当に困ってるよ。うーちゃんが変な事吹き込むから~。
「この近くに住んでるのかしら? あまり見かけないのだけれど」
「いいえ、遠いんですけど。友達が」
「あっ、もしかしてあなた、あずさちゃんかしら!」
「なんで、わたしのことを?」
「ナナミちゃんが、ころっとしたかわいい友達がいるって言ってたから」
ころっとした!?
ナナミめ! 合っているが腹立たしい。
でも、これは好都合だ。友達だと分かればいろいろ聞き出しやすい。
「ナナミが家とは違う方にいくのを見かけたので、ちょっと気になって見てみたんです。そしたらここに来たから」
「そうだったのね。せっかくいらしたのだから、お上がりなさいな。クッキーの香りも気になったのでしょう」
「はい」
はいとは言ったけど、何か悪い予感がするのにホイホイ家まで上がり込んでよいのだろうか。
本当に、何たらホイホイかもしれないのに。
まさか変な宗教団体とかじゃないよね。ナナミが急に怒り出したりするような原因って。
無いとは言い切れないけど、この人が魔法少女だってことも・・・・。
そのまま屋敷に入り通された部屋は、さっきまでナナミがいた部屋。
あまりに豪華な調度品に幻惑を覚える。
世の中にお金持ちって本当にいるんだ。
金髪な少女はちょうど対面のソファに腰かけた。
「わたしはレベッカよ。ベッキーと呼んでくださる」
嫣然とした仕草で胸に手をあて自己紹介をする。
「あ、はい。御子柴あずさです。ベッキーさん、日本語お上手なんですね」
「ええ、母が日本人ですから。ずっと日本に住んでいたわけではないけれど、日本語で話していましたから」
その言葉づかい、やめてー!
なんか私が下々の民草にみえるー。
「ナナミとはどこで知り合ったんですか」
うわーん、庶民だからこんなストレートな聞き方しかできなーい。
「ナナミちゃんが、迷子になっていたムールを連れてきてくださったの。ムールってウチの猫の名前よ」
「はい」
「ナナミちゃんったら、ここ気に入ったのね。毎日のように来てくださるの」
その頃ベッキーの心の中で、転がり込んできたチャンスに小踊りしていた。
なんてラッキーなのかしら。まさか、この子からここに来るなんて。
やっぱりムールを使ってナナミちゃんから取り込んでおいて正解だったわ。
徒党を組んで戦うなんて反則じゃないって思ったけど、むしろ相打ちさせちゃえば自ら手を下さなくても、いいもの。
この子にもクッキーを食べさせて、洗脳を進めれば勝ったも同然。一歩千金。取る手に悪手なし。
私ってアッタマいい!
一方、あずさは。
ナナミが毎日来る?どんだけ気にったのよ。
そんなに、人好きする子じゃないのに。
なんか怪しい。とにかく怪しい。わたしの女の直感が怪しいって言ってる。
それに
髪もホントは脱色してるんじゃないの? いやそれは関係ないか。
なんか双方、探りあいの様相を呈してきた。
その謎の緊張感の中、お手伝いさんが銀皿に大盛りクッキーを持ってきた。
クッキーなのに、そんなにって量だ。
私そんなにモリモリ食べる子に見えるのかな。軽いショックだ。
「この香りにつられてきたんですものね。どうぞ、召し上がれ」
「いえお構いなく。確かに香りにつられましたが、そんな失礼な事」
「いいのよ、皆さんに食べてもらうために焼いてるのだから。たくさんありますのよ。幾らでも召し上がって」
うわぁ、発酵バターの香り~。おいしそう~。
そんなに勧めないでよ、食べたくなるじゃない。
でも、ここで食べたら、また太っちゃう。
「ナナミちゃんも気にってくれたわよ。本当に一杯食べてくださるの」
「いえ、本当にいいんで」
「どうぞ、召し上がれ」
「本当に、本当にいいんで」
(ちっ! なんで食べないのよ。子供のくせに遠慮? かわいくない子ね!)
と、ベッキーの心の声。
クッキーってどのくらいのカロリーなんだろ。
1個くらいないなら大丈夫だよね。
いや所詮クッキーじゃない、5,6個食べたってたかが知れた、あれ? 待てよ、ナナミが太るほどお菓子を食べるのはおかしいんじゃない。おかしだけに。
じゃなくて、ナナミすごくスタイル気にしてるし、丸くなるほど食べるなんて、どんだけ毎日食べてるのって話だよ。
思えば、この子がやたらお菓子を勧めるのも怪しいし。
「ナナミってば、そんなに一杯食べるんですか?」
「とっても大好きみたいよ。いつも、一皿たべちゃうくらい」
おかしい。ナナミは限度なく食べる子じゃない。
「遠慮しなくていいわよ、おひとつどうぞ」
ベッキーが、ニコニコしながら小首を傾げて銀の菓子皿を勧めると、耳にかけてたブロンドの髪がハラリとおちる。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。怪しいと思えば、何もかも眉唾に見えてくる。
きっと、普通だったら「なんて素敵な人なのかしら」となったと思うが、いまの私にはその仕草すら、お前は何処の外人パブのホステスだよって見えるのだ。
そんなとこ、行ったことないけど。
「どうぞっ!」
にしても必要に押してくる! 断りきれない。ここまで差し出されると流れ上、食べないと怪しまれちゃうし。
でも毒入りな予感がある。こういうときの私の勘はあたるんだ。
しっぽをつかむために毒を喰らってみるか。いやもし一発で効いたらそこで終わりだ。
とりあえずお茶を飲んでおこう。
ずずっ
「お茶、おいしいですね」
「でしょ、ダージリンのファーストフラッシュよ。そのクッキーにもとっても合うわ」
「へー」
ベッキーはテーブルのベルをチリンと鳴らして、お手伝いさんを呼んだ。
そして、また新しく紅茶を入れさせる。
ティーコージーを被った茶器がくるなんて、どんな家だよ。
リプトンを2度絞って飲んでる我家とは大違いだ。
「メイドさんがいるんですね」
「ええ、でもお掃除くらいよ。部屋が多いから手がまわらないもの」
初老の日本人のお手伝いさんが頭を下げる。前にそろえた手がとてもしわしわなので、これだけの家を掃除し続けるのは大変なんだろうなと察しられた。
よかった狭い家の貧乏人で。
また、お茶をずずっとすする。
(なんで手に取らないのよ! もう! でも、あまり勧めたら逆に怪しまれるか。なんとか、ひとかじりしてくれたら、コッチのものなのに。見た目には、いかにも食べそうなぽっちゃりさんなのになんでよ! でもこのイライラが顔に出たらおしまいよ。ベッキー落ち着くの。とりあえず笑顔で警戒を解いてと)
「ニコ」
うっ、金髪と相まって笑顔が眩しい。
笑顔返しだ。
「ニコ」
やばっ、笑い方、
(わざとらしい、ほっぺたがヒクついてるわよ。でもどうしよう。ここはムリに食べさせないでも、まずは油断させておくだけでもいいか)
(食べ物を使って相手を思い通りに動かす量子魔法だ。一緒にいればチャンスはいくらでもある。とはいえ、このまま時間を味方に、この子の疑いを少しずつ解いていくのは時間がかかり過ぎる。そんな呑気にやってたら勝ち残れない)
(ここは、新入りを手駒を使ってこの子を倒すか。いやナナミだけだと不十分だ。もしナナミが離反したら私がやられちゃう。私はまったく戦闘力がないのだから、もし魔法少女だとバレたら一撃でやられる)
(うーん、考えてたら緊張してきた。挙動不審になってないかしら)
「ナナミちゃんのお友達が来てくれてうれしいわ」
沈黙はまずい。とりあえず適当なことを言っておこう。
「こちらこそ、急なのにお邪魔しちゃって」
うれしいとか言っちゃって、ナナミに何かしたんじゃないの?
でも確証がない。ベッキーが何かしている決定打がない。
かといって、何かしましたかって聞けるわけないし、聞いても正直に答えるはずはないし。
ちょっと話を変えてみるか。
「あの、男の子三人も来ませんでしたか」
(く、痛い所ついてくるな。ここでのウソはバレる。来てると言うしかない)
「時々、いらっしゃるわ」
「あの子たち、ここで何してるんですか。男の子が好きそうなものはあんまりないみたいだけど」
矢継ぎ早の質問返しに、ベッキーの手が一瞬止まる。
(ナナミちゃんは、おしゃべりが楽しいとかいえるけど男子には通じないし。お姉さんが遊んであげてるって? どう考えても無理あるでしょ)
「うーん、わかんないけど、ナナミちゃんと一緒に遊びたいんじゃないかな~」
(これは苦しい!!)
あれ? もしかしてこの子、魔法少女じゃないかな。コナンズも来てるとなれば、その確率高くない?
カマかけたつもりが、あたっちゃったかも。
とはいえ、犯人はお前だって?
そりゃ、じっちゃんの名にかけて言えないなぁ。
でも私が魔法少女だから、やたらお菓子を勧めてくるんだよね。だったら変身して戦っちゃえばいいとか?
いやまてまて。もし万が一、あの子が一般人だったら、私はどうやって言い訳すんの。
ダメダメ、ナシナシ!
(これって、もしかして私の正体がバレてる? クッキーの香りなんて外までしないのに、それを言い訳にしてたのが気になるし。いや、だったらもう変身してるはず)
(いっそ、「わたしも魔法少女でーす」とか言って、この子の仲間にいれてもらおうかしら。そして打ち解けたところで相打ちを誘うとか。いやこの状態からじゃ仲間になっても勘繰られ続けるか)
(どん臭さそうな体型してんのに、妙に勘がいいし、この子)
(いっそこのおかしをその口につっこんでやろうかしら。その方が手っ取り早いかも)
「おほほほ」
「あははは」
謎の笑いが二人に起こった。
「おかしは~その~、手づくりなんですか」
「そうよ」
「すごく上手ですね」
本当に上手だ。ヨックモックから買ってきたみたいに形もキレイに整っている。焼き目もムラがない。
「ありがとうで、毎日作ってますもの」
「彼氏さんとかにあげるんですか」
「え? 彼氏? いらっしゃればいいのですけど。これは趣味なんですの」
「すごいですね。趣味なのに、毎日こんなに沢山作ってるんですね」
なにか話からボロだせ!
(なに狙ってるよこの子。誘導尋問ぽいんですけけど!)
「そ、そうですわね。もう沢山作っちゃって、余ってしまうので皆さんに食べて頂いているのですよ。ぜひあずささんも」
(よし、自然な流れだ! 食え! そのまま食え!)
菓子皿を持って、さぁと迫る。もう手に取って『あーん』とされそうな勢いだ。
しまった食べる流れに持って行かれた! とりあえず手に取るだけ取るしか。
銀皿に手を伸ばすと、ベッキーと自分の指先が触れ合った。
この子、爪綺麗だなぁ。
すっと伸びた爪がみずみずしいピンクに輝き、ネイルアートがキラキラしてる。
対して、自分の爪が田舎娘のそれに見える。
うー、みすぼらしい。シンデレラの気分だよ。
あっ、この爪で毎日クッキー? お菓子作りが好きっておかしくない?
何か閃きつつある! ここはしっかり考えたいぞ!
「あの、ちょっとお手洗いに行ってきていいですか? お茶ばかり飲んじゃって」
「あら? お手洗いはココでて左に曲がって一番奥を右よ」
(ちっ、ひとまず逃げたか)
顔には出ないがベッキーは心の中で舌打ちした。
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