もう食べられませ~ん!

 なぜ戦うのか。


 やっぱり気になるのはそれだ。それが分からないまま戦うのは、やっぱり気持ち悪い。というか戦えない。

 自室のベッドにあぐらをかいて、うんうん考えていたが、ダメだやっぱりわからない。

 ここはストレートに聞くしかない。

「うーちゃん。なんで戦わなきゃならないの?」

「うーちゃん?」

 珍しく調子のずれた声が帰ってくる。

 あれ? 気になるのは、この呼び方の方か?

「だって『ウマ』って、なんか恥ずかしいだもん」

「うーちゃんって言われる俺も相当はずかしいぞ、50になって」

「え、50歳? まじ昭和じゃん! 魔法のステッキなのに」

「だから言ってんだろシラケ世代だって! 戦う理由か。まぁ全共闘みたいなもんだ」

「全共?」

「大人になったら自分で調べな」

 ウマは、あずさの質問に答えるのが面倒なのか、知りたがりの子供の質問をあしらうように、適当な事を言ってザックリ話を切り捨てた。

 だが、ここで引き下がって聞ける話も聞けない。不満を言う前に手を変えて聞き出す。


「ちぇっ、戦うのかぁ」

 ちょっと拗ねてみる。

「乗る気じゃねーな」

「だって、相手が怪我しちゃうじゃない。もしかして死んじゃったりしたら殺人だよ」

「アルカトラズでもブチこまれるってか。それはない。そういう設定じゃねーから」

「え、設定?」

「どうせ言ってもわかんねーよ。とにかくお前は敵が来たら変身して戦えばいいんだよ」

「でもさ、何ていうか、私さ・・・・」

「はい、そこまで! 早乙女アルトも納得してパイロットになってねーんだよ。だから、いいんだよ!」

 ピシャリと言われて、すごすご口ごもってしまった。

 何か納得できないなぁ、なんでマクロスフロンティアなんだろう関係ないじゃんと思いつつも、うーちゃんはそれ以上の理由を教えてくれなかった。

 明らかにごまかしているのが分かる。なにか秘密があるに違いない。いつかちゃんと聞かなきゃいけない。


 ・・・・


 そうして契約してから2日過ぎ、3日過ぎ、とうとう1週間が過ぎた。だが敵は一向に現れない。

「敵来ないね、うーちゃん」

「・・・・あーくそ、失敗した! こんな御宿とかで契約すんじゃなかった。そもそも人がいねーから敵もいねーんだよ。足立区とかにすりゃよかった!」

 それでなくても低いダミ声を荒げて悔やむ。髪があったら今頃かきむしっているだろう。

「なんで足立区?」

「おまえ、引っ越せ! 今すぐナウ」

「えー、無茶だよ。ここに住んでんだよ。それに私を捕まえたうーちゃんが悪いんじゃない」

「くそ、全くその通りなだけに腹立たしい。こんな小4娘に正論を言われるのが、輪をかけて腹立たしいわ」

「うーちゃん、私との契約、破棄すればいいんだよ」

「それができりゃ苦労しねーよ。一度、契約したらこっちじゃ解除できねーんだ」

「えー、まじ! じゃこのまま敵が来なかったら、私、おばあちゃんになるまで魔法少女のままってこと」

「ババァの魔法少女って言葉が矛盾してるが残念ながらそうだ。まぁ俺もそれは見たくないがな」

「それは絶対にダメー! うーちゃん、一緒に敵を倒そう」

「やっとやる気になったか、しょうがねぇ、いきなりやりたくなかったが、量子魔法で足立区にゲートを作ろう」

「だから、なんで足立区にこだわるの?」

「いきなり重魔法かよ。くそ! しゃーねぇがゲートを作るぞ! 変身だ! あずさ」

「う、うん。足立区でいいか分かんないけど、とりあえず、おっけー」


「・・・・」

「・・・・」


「どうした?」

「どうするの?」

「そうか、まだ教えてなかったか変身。あまりに牧歌的で平和ボケしてたぜ」

「変身は」

「うん」

「変身の仕方は」

「うん」

「飯を食うだ」

「飯を・・・・くう?」

 あまりに理解不能で発音が変になってしまった。


「そうだ」

「なんで?」

 あまりに理解不能で発音が変になってしまった。


「そう決まってるからだよ! なんでも世の中にタダはねーんだよ。変身のエネルギーはどっからもってくるんだよ。ただで変身したら因果の法則に反するだろう。エネルギー保存の法則はどうなる。何でもエネルギーがいるんだよ、もしくは金だ」

 あずさの物分りの悪さにイライラするのか、まくしたてるようにウマが説明する。

「う、下世話な話だなぁ」

「お前には金の臭いがしないからな」

「すみませんね。小学生だもんお金なんて」

「魔法は、食えば食うほど強くなる」

「なにそれ、酔拳みたいな」

「おー、よく知ってるなぁ。やはりタダもんじゃないな」

「パパと一緒に観たの! テレビで!」

「量子魔法ゲートはかなりカロリーの高い魔法だ。一発目で使うのは気が引けるがやむを得ない」

「カロリーって、リアルなカロリー?」

「Yes,We can!」

「いやよ! 最近それでなくても太りやすいのに、たくさん食べれっていうの?」

「Yes,We can! もしくは魔法ババァになるか」

「・・・・あ、でもカロリーは魔法に使われるんでしょ」

「No,We can't」

「まじー! それこそ何とかの法則に反するじゃん!」

「物質的カロリーと、量子魔法的カロリーは別だからなぁ」

「じゃ、食べるだけ太るじゃん」

「知らねーよ、んなこと。太りたくなきゃ、この大自然を好きなだけ走り込めばいいだろ」

「ひど! 人でなし、ウマでなし!」

「なんとでもおっしゃい。とにかく今すぐ食ってこい! 一応目安をいうと量子魔法ゲートは8,000Kcalくらいだからよろしく」

「8,000って?? どのくらい?」

「女なんだからカロリーくらい覚えておけよっ。大体3日分くらいの食事じゃねーの。たぶん」

「3日分!!! バカ! そんなに食べたらぶくぶくになるじゃない!」

「だから、そりゃ量子魔法ゲートが重魔法だからだって言ってんだろ! 普通の戦闘で変身するくらいじゃそんなに食わねぇって」

「・・・・」

 理不尽な設定に態度でノーを伝えるべく横目でウマの彫刻を見つめるが、ウマはそんなのお構いなしだ。

「いいから一階にいって3日分、食ってこい!!!」

「ふぇ~」


 泣く泣くキッチンに降りて、ご飯を食べることに。

 まだ3時だからママは仕事から帰ってない。キッチンには今朝のご飯が炊飯器に3合くらい残っている。

 これだけじゃ全然足りないから、他にも何か食べなきゃ。

 でも私が作れるのってパスタと目玉焼きくらい。


「うーちゃん、全然足りないと思うよ。どうしたらいい」

「いちいち世話が焼ける子娘だなぁ」

「食べさせるようとしてんの、うーちゃんじゃない! うーちゃんも考えなよ」

「冷蔵庫には何があるんだよ。開けてみろ」

「うん」

 あずさが冷蔵庫を開けると、キャベツもキュウリも豆腐もひき肉もなんでも入っている。

「たくさんあんじゃねーか。おまえが作れよ」

「だってわたし作れないもん」

「はぁ~、こいつを変身させるのに俺が世話するんじゃ意味ねーなぁ。どれそれクックパッドで調べるからちょっと待ってろ」

「うーちゃん、本当に魔法の世界から来たの?」


 何かを調べながらウマは上の空で答える。

「ああ、そうだよ。こことは違う世界だ。そこにはクックパッドはない・・・・マーボ豆腐とかどうだ?」

「あ、いいかも。じゃどうやって調べてるの?」

「この世界は電波をつかってデータベースにアクセスできるみたいだから、そこから調べてる・・・・フレンチトーストとかどうだ」

「私、好き! どうやって作るの」

「俺が教えてやるから、あとはお前が作る」

「えー、結局わたしが作るのー!」

「そ、よし作るぞ、まず豆腐とひき肉と卵と・・・・」

「はーい・・・・」


 1時間後。


 できた・・・・うーちゃんの言うとおりにしたらちゃんとできた・・・・でもぐったり。

「おまえよ、食う前に消耗してどうすんだよ」

「だって、けっこうな重労働だよ。ママ、毎日こんなことしてんだ。すごいなぁ」

「親に感謝しろよ。なんでも普通にあるのが当たり前って思った時から、人は感謝を失うんだよ」

「うーちゃんに言われたくないよ」

「さー食え。早く食え。全部食え。そして早くゲートを開け!」

「人を道具みたいに・・・・」

「それは当たりだ」

「感謝が足りないよ。うーちゃんは」


 テーブルの上には、3合のご飯が入った炊飯器。カルボナーラのパスタが4人前。マーボ豆腐は2人前。家にあった食パン全部で作ったフレンチトーストが6枚。

 大皿に野菜炒めと、冷凍であった餃子24個が並んでいる。

 4人掛けのテーブル一杯に料理が並ぶのは壮観だ。

「これ・・・・全部一人で食べるん・・・・だよね」

「そうだが、何か」

「食べられる・・・・と思う?」

「無理矢理でも食わすが、何か」

「そうくると思った」

「いいか、食えると思ったら食える。食えないと思ったら食えない。おなか一杯ってのは脳が感じてるだけなんだ。人間は本来の能力の10%も使ってないと言われているらしい。なら本来なら10人前は食えるはずだ。自分を信じろ。俺の信じるお前を信じろ!」

「そのセリフはこんなときのためにあるんじゃなぁい!! それになんの励ましにもならないよ」

「ムリを通して道理を引っ込めるって意味だ。食えってんだ!」

「食べます。食べればいいんでしょ」


 まずのびちゃう前にパスタを食べよう。

 正直いって自分は小食だとは思わない。同級生の女の子の中では一番食べる方だと自信をもって言える。

 給食だっていつも足りないとおもってるもん。

 でもこの量は未知数だ。ふつうに考えてパスタ4人前で満腹になりそうだ。

 フォークをブッ刺し、勢いよく山盛りのパスタを吸い上げる。フォークでくるくるくるくるミートソースなんてナシだ。


「よーし、どんどんいけー!」

 うーちゃんは気楽に応援しているが、カルボナーラって重いなぁ。こってりだもんなぁ。

 息継ぎしては、また食べる。

 半分くらい食べた感じでは、おもったより行けそうだという感じだ。自分でも意外。4人前くらい平気なんだ。

 パスタ完食!

「いけんじゃねーか」

 うーちゃんが感嘆の声がいちいちイラつく。

「うん、おもったよか食べれるみたい。ちょっとおなか出てきたけど」

 今日はピッチリした黒のTシャツにレースの入った膝上のスカートをはいているが、まだお腹の上部が少しふっくらしたくらいで、別にスカートは苦しくない。

「じゃ次いってみよう。今日中にゲートを作るんだから時間がねーぞ」

「わかってるわよ。もう!」

 どれも冷えちゃうとおいしくないものばかりだけど、好きなフレンチトーストから食べよう。

 6枚もあるんだよなぁ。いくら好きでも6枚は多いし、といって餃子とフレンチトーストって、いったいどこに国だって感じだし。

 いいや、6枚一気に食べちゃおう。


 1枚手にとりパクリと食いつく。

「うん、おいしい」

 これシナモンシュガーだっけ? 自分で作ってもおいしいだなんて、もしかして料理の才能あるかも。

 でも、そう思ったのは2枚目まで。


 ・・・・飽きてきた。


「うー、喉が詰まる。やっぱりパンってフレンチにしても喉にひっかかるなぁ」

 横目でうーちゃんを見やる。沈黙・・・・。

「わかったって。牛乳を持ってきてやるよ」

「うーちゃん、手、無いのに持ってこれるの」

「できる! 俺と対象物の分子間力を書き換えれば、牛乳パックが俺にくっついてくるはずだ」

「なんか難しいことを。まぁいいや、早く持って来て。喉つまった・・・・苦しい」

「とことん世話が焼ける御嬢さんだ」


 胸をとんとん叩くあずさを背に、ウマは冷蔵庫から牛乳を持ってきた。いやくっつけて運んできた。

 ウマ飾りの杖が1リットルの牛乳パックを運んでくる姿は超あやしい。


「ほらよ」

「ありが・・・・と」

 あずさは牛乳をパックのまま口に当てて飲み始めた。

「ん、ん、んっ。はぁー。落ちたー。苦しかった」

「喉いたかったよ。落ちるとき」

「よかったな。俺に感謝して食えよ」

「冷たいなぁ。ちゃんと食べるよ、もうっ」

 一気に牛乳を飲むと、急におなかが張り出し、中身のパンパン感が増してきた気がする。

「なんか急に、おなかが苦しくなってきたんだけど」

「水分を取ると食べたものが胃の中で膨張するそうだ。とグーグルに書いてあったぞ。いま検索した」

「まだ、マーボも餃子もあるけど、食べきれない気がするよ」

「大丈夫だ。満腹と感じる前に食い切れ。あとは知らんが」

「無責任すぎるよ!」

「先行逃げ切り! サイレンススズカだ!」

「なにそれ、知らない!」

「後先考えず全力で食えってことだ!」

「わかったよ、もう!」

 うーちゃんが言うとおり、フレンチトーストを食べ終えたあと、ご飯をお茶碗によそって餃子と野菜炒めとマーボー豆腐を交互に食べ続ける。

 どうやら味を変えながら食べると食べやすいらしい、なんだかんだと2キロ以上食べたと思う。

 さすがにおなかも肋骨から下が不自然にもりっと出てきた。Tシャツがのびて柄が横にひっぱられている。

 スカートはゴムだからまだ伸びるけどウエストの圧迫がきつい。もう脱いじゃいたい。

 こんなに膨らんだ自分のおなかを触るのは初めてだ。苦しいが、何かえも知れない充足感もある。でも

「う~、ぐるじい~。おなかが見たことないくらい膨らんでるよ~」

「きぼちわるく・・・・なってきた。うーちゃん、こんなに食べてるんだもん、もうゲート開けるんじゃないの。クプッ」

「どれどれ・・・・まだ2/3ちょっとだな。もうひと押しだ」

「えー、こんなにお腹がぽんぽんなのに! 超くるしいよ」

「計算だとやっぱり全部食べないと8,000には届かねーぞ」

「まじー、・・・・結局、全部たべるんだ」

「いけー! パンクするまで食え!」

「パンクして死んじゃったら、ゲートも開けないでしょ!」

「そんときは、俺が弔ってやるから安心しろ」

「安心できないよー、ゲプッ」


 ちょっと席を立って、ぴょんぴょん飛んでみる。

 食べたものが落ちないかと思って。

 ジャンプする度、お腹がぼむん、ぼむんと遅れてついてくるが、一向に下に落ちる気配はなく、むしろお腹をさすった方が楽になる感じがした。

 お腹の下からさすると、両手のひらに下っ腹が乗っかるずっしりとした重さ。

 皿に残った餃子や野菜炒めを一口一口と食べ続けるが、だんだんとペースが落ちていき、自分の意思に反して飲み込むのがためらわれるようになってきた。

 それを、ウマが「がんばれー」の一言て気楽に応援している。

「応援するなら、食ってくれ!」


 最後の一口・・・・。

 ぱくっ。

 食べ・・・・た。

 おなかが張り裂けるー 。なんか生まれるーっ。

「うー、もう食べられません」

 とっぷり椅子にもたれて、巨体に成長したらお腹の重さから全身の筋肉を解放する。背中は楽だがお腹はくの字に曲がってより苦しい。

「ひょー! おめでとう! これでゲートが開けるぞー」

「うーちゃん・・・・私、毎回この苦しみを味わうわけ・・・・」

「まぁ、重魔法を使う時はな。うまく戦えばそんなに毎回じゃないと思うが。それは俺の責任じゃねーから」

「うー、ぐるじー。もう動けない」

 そいうと、あずさは椅子から崩れを落ち、床にごろんと仰向けになった。

 小4とは思えないポンポンのお腹が呼吸に合わせて上下に動いている。その下腹部を支えるようになで回しその大きさを体感する。

 我ながら凄い状態だ。

 これは誰にも見せられないなぁ。

 Tシャツがおなかのサイズに収まりきれず、下っ腹が見えているのがまた恥ずかしい。

 スカートもゴムが苦しいから、できるだけ腰まで落としている。そのせいでパンツのヘリもちらりと見えてた。

 その大きなお腹の上に、ウマがぽふっと乗ってくる。

「すげー腹だな」

「やめて、うーちゃん乗らないで。ちょっとでも重いものが乗ると、出ちゃいそうだから」

「おお、すまねぇ。ここで出されたらせっかくの量子魔法カロリーがおじゃんだ」

「なに、おじゃんって」

「江戸末期の言葉だ、知らなくていいぜ」

 上向くと、自分の胃袋の重さが苦しいので横を向く。すると重すぎるお腹がどむんと横に垂れて、冷たい床にぴたりと張り付く。

 上向いても、横向いても苦しい。

「死ぬー、息くるしー」


「さて、じゃ量子魔法ゲートを開きますか」

「え、いまから? この状態で?」

「おうさ、今だから開けんじゃねーか。消化しちまったらまた食わなきゃダメだろ」

「そうだけど・・・・」

「今なら十分、量子魔力がチャージされてるから変身したいと思った瞬間に変身できるぜ。おっとカッコつけて俺をぶん回すのはナシだ。血圧が上がって脳卒中でおっ死んじまうからな。俺が」

「うう、ほんと、いちいちおっさんくさい・・・・」

「はい、立って!」

「わかったよ、変身するよ」

 重い体をよいしょと動かし、もっそり立ち上がる。

「変身」

 適当に言ったその言葉を合図に、初めて変身した時のように光の奔流があずさを包み込み、例の衣装にセットアップがされる。

 ホントに食べただけで変身ができた。だが変身後のあの恥ずかしい恰好はそのままだ。


「変身したよ。したけど・・・・なんでおなかの周りがぴちぴちなの」

「あ? その服はお前の体系に合わせてあるから、デブった体には合ってねーんだよ」

「デブじゃない! 食べただけだもん!」

「しかし・・・・」

 ウマはしげしげあずさの全身を眺め

「その腹と服は合わねーな」

と一言。


「がーん、こんなになるまで食べさせたのうーちゃんじゃない!!」

「まぁそうだけどよ」

「私だってイヤだよ。おなかピチピチでキツイし。はずかしいし。こんなにポンポンなのにヘソ出しなんだよ。誰かに見られたらどうすんのよ」

「終わりだな。俺ならもう一生家から出られねーな」

「そうさせてんの、うーちゃんでしょ!」

「まぁいいから、ゲート開くぞ」

「ひーん、聞てくれないよ~」

 ゲートを作るべく二階の自分の部屋に移動するのだが、この変身した姿で家の中を移動するのはちょっとドキドキする。

 ここで玄関から誰かは行って来たらどうしよう。まさか、いきなりママとか帰えって来ないだろうか。


「いいか、ここに足立区、西新井大師西駅の写真がある。こことこの部屋のどこかを繋ぐイメージを強く持つんだ。そうだな、その勉強机の一番上の引き出しにゲートを作るとかどうだ」

「だめ! それ! ○子・不○雄先生のパクリじゃん。まるで」

「知らねーな。俺の世界じゃ。藤○・○二雄なんていねーし」

「知ってんじゃん! せめて押入れの中とか」

「それじゃ1000年女王のパクリじゃねーか」

「もろ言っちゃダメでっしょ」

「じゃ、月並みだが本棚の裏ぐらいにしとこうぜ」

「わかったよ。うーちゃんなんで地雷を踏みに行こうするのかなぁ」

「よしいくそ、パンツァー」

「また!!」

「俺は普通に装甲兵進めと言おうとしただけだぜ」

「もう!」


 あずさが意識を集中すると、本棚の周辺がリング状に歪んで見え始めた。そのリングの周辺が金環食のように光り、その空間の向こうに別の景色が見え始める。

 その景色は足立区の西新井大師西駅の人通りの少ない裏通りだった。

「もう少しでホールがつながるぞ。意識を集中しろ。切れるなよ」

「わかってる!」

 リングの中の光景が、どんどんはっきり見え始め、それがまるで空間を切り出したようになると同時に、気泡が弾けるようにキーンと高い音がした。

 また静寂がもどる。

「よし、成功だ。案外うまく行ったな。初めてだったけど」

「え、初めてだったの?」

「ああ、ゲートなんて初心者が使う量子魔法じゃないからな。いきなり8,000Kcalも使える奴もいないし」

「なんで、そんな無茶させたのよ。失敗したらどうするつもりだったの」

「そんときは、この部屋がふっとぶくらいだって」

「ふっとぶ!!」

「ああ」

「今度はちゃんと全部教えてよ。あぶないじゃない」

「わかったって。でも成功してよかっただろ。これで足立区にタダでいけるぜ」

「行きたくないわよ。足立区なんかに!」

「そうか墨田区の方がよかったか? それとも江戸川区か?」

 どっちもいらんわ。

 だが、とにかくつながったのだ。この苦しさが報われた瞬間に安堵の吐息が漏れ・・・・。


「あずさー!」

 一階からママの激怒の声。

「あんたなにやってるの! キッチンぐちゃぐちゃじゃない!降りて来なさい!!」

 ヤバイ!めちゃめちゃ怒ってる。

「あー、お台所そのままだったー」

「ご飯もどうしたの!」

「食べ散らかしたままだよ、何て言い訳すりゃいいのー! うーちゃん!!」

「・・・・えー、わたくしウマだけに、ウマい言い訳は思い付きません」

「落ちてね、つーの!」

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