ショートストーリー魔法少女の日常 あずさの場合

 顔が丸い。

 朝、鏡を見るたび思うんだ。四年生になりたての頃の私は何処にいったんだろう。ほっぺの辺りの面影がないぞ。

 その事をママに言ったら

「私もそう思ってたの」

 だって。

「だったら言ってよ!」

「だって、あずさもお年頃かなって。成長期じゃない」

 娘は明らかに横に成長してます!


 パパは呑気なもので、

「あずさも女の子らしくなったな」

 とのたまう。

 ちがう!太くなるのと女の子らしくなるのは別物だ!

 女子的には、中味というかオーラで女子と言われたいのよ。


 成長期についた脂肪細胞は一生減らないそうだ。

 こんな恐ろしい研究に協力した女子の気が知れない。

 ここで頑張っておかないと、女の子らしいどころか、デブキャラで生涯を終えてしまう。食べなきゃ変身できない設定にした、うーちゃんを呪い殺したいよ。


 それより、このペースで丸くなるとホントにヤバい。

 なぜ肉が胸ではなく、腹に付く私のカラダ。

 ハラ肉がつくと、かわいい服が似合わなくなるのがイヤだ。

 制服のボレロが「てるてる坊主」みたいなっちゃうし、ワンピの着姿もアルプスの少女ハイジみたくなっちゃう。


 うっかり深いため息をつきそうになるが、後悔する前に行動に移そう。

 もちろん食べた分は消費しなきゃだが、せめて家で食べる量は減らしたいのよ。ということで今朝はママに、炭水化物ダイエットを提案しました。


「ママ、わたし今日から夕食のご飯いらないからね」

 やっぱり食べないのが一番だもんね。いつまでも可愛い娘でいて欲しいじゃない。

 すると、なぜかパパが横から。

「小四でダイエットは早いだろ。あずさは太ってないよ。それに女の子は、少しぽっちゃりしてる方が健康的で可愛いんだから」


 ・・・・はぁ?

 ぽっちゃりといいましたか?

 ぽっちゃりとデブは、まったく別物だよ!

 とうやらパパは、私に痩せて欲しくないらしい。

 ぽっちゃりが健康的でいいというパパの意見は却下だ。

「あんた生理もまだでしょ、栄養が足りないと遅くなるわよ」

「ヤダ、パパの前で言わないでよ!」

 朝から不粋過ぎる。我が家!

 それに真っ赤になる自分が更に恥ずかしい。

 親子だからって気にしない家もあるみたいだけど、私はダメなんだ。

 アニメなら、キスシーンとかパパと見てても、全然平気で盛り上がっちゃうのに。


「もう、そんなに過激なダイエットじゃないよ。ちょっとご飯を減らすだけ」

 べつに両親を無視してご飯を残してもいいのだが、ちゃんと言わないとせっかく作ってくれたママに申し訳ない。

 ご飯を作るのって大変だって、やってわかったからね。

「でも確かにあずさ、急に太ったわよね。何でかしら? そんに食べてないのに」

 ごもっとも。そう思うよね。

 違うんです、悪いウマに騙されて外で信じられないくらい食べてるんです。

 もうママがびっくりするくらい。

 とは言えず、「体質かな~」とか言っておく。

 んな分けない。ウチの家系は父方も母方も、ぽっちゃりは私だけだ。

「パパは、あずさがいっぱいご飯を食べてくれた方がうれしいけどな」

 パパは、いっぱい食べても太らないから、そんなこと言えるんだ。

 過ぎたるは及ばざるごとし、という明言を寝言でいうほど教えてあげようかしら。

 ママ! 同じ女として私に助け船を。プリーズ!


「まあ、急にだから気になるのよね。ちょっと少なめにしてあげるわ」

 ありがとうママ!

 その言葉を糧に不惜身命ふしゃくしんみょうにダイエットに精進します。

 でも、これでもまだ太り続けたら、言い訳のしようがないなあ。


 もうひとつ、これは残念なんだけど、夜のお菓子がなくなりました。

 これは私とパパの楽しみ。

 二人でお風呂上りにソファでくつろぎながら、パパはビール? 発泡酒だっけとお菓子、私はもっぱらお菓子をつまみながらアニメを見るのだ。

 考えてみたら見たら、これが一番良くないのでは?

「それとね、もうパパとはお菓子たべないから」

「えー!」

 ノーモア映画泥棒並みに断固拒否したら、パパが泣きそうな顔に。

「でもアニメは一緒にみてあげるよ」

「ありがとう、あずさ」

 そんな幸せそうに笑うな。どっちが大人か分かったもんじゃない。


 あー、お米もポテチも、もう遠くへ。

 そして相変わらず私は、くたくたになるまで走るのです。あの岡の向こうにポテチがあると信じて。

 靴を履くのに屈むと、制服のスカートがおなかに食い込んで苦しいが、これは戒めなのだ。

 絶対サイズ変えないぞ。


「行ってきまーす」

 さあ、学校まで走ろう!

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