第43話 鬼武帝

「ふ、ふふふふ……じゃあ俺も本気を出すか」



 彩友香がつけた傷から、ぶわりと黒い影が大量に出て彩友香を取り込もうとする。だけど苦無の宝石が光りだし、彩友香の周りに六角形状の膜が張られ、影の侵入を阻んでいる。


「す、すごいです。彩友香さまは攻撃力こそあまりないものの、防御は鬼武帝を上回っています」


 つまりダンゴムシの術が昇華して、強固な盾になっているらしい。

 そして、先ほどの彩友香と俺たちのやり取りで、どうやら彩友香は自身を取り戻したようだった。


「もう、負けねぇ。あたしは……あたしだもん!」


 鬼武帝を何度も苦無で突き刺す彩友香。

 だが鬼武帝は少しも苦しむ様子はなく、むしろそんな彩友香を愉快そうに眺めているだけだった。



「これでも俺を突き刺せるかな?」


 鬼武帝はぐにゃりと自身を歪ませて、1人のセーラー服の少女の姿に変わった。

 それを見た彩友香は苦無を取り落として、驚愕の表情を浮かべる。



「か、かよちゃん……どうして……」


 かよちゃんと呼ばれた少女は、懐かしそうに彩友香に話しかけた。


「久し振りだね。中学のときにわたし、いなくなっちゃったから……あは、7年ぶりかぁ。さゆちゃんも大人になるよね」


「つるぺた黒髪ぱっつんちゃん! セーラー服オプション最高うううう!」


 と後方でタローが騒いでいるが、それどころじゃないだろ。中身は鬼武帝だぞ?


 サラリと艶のある黒髪を背中へと流して、かよちゃんとよばれた少女は彩友香にゆっくりと近づき、右手を伸ばす。


「あのときは捕まえられなかった手を……今、掴んでほしいな」


 ふうっとダンゴムシの術を解き、ゆっくりとかよちゃんに手を伸ばす、彩友香。

 思うより前に俺は彩友香の伸ばした手を取り、かよちゃんと彩友香が触れ合おうとするのを阻止する。



「ダメだ! 彩友香。惑わされるな!」


 かよちゃんの姿は彩友香には効果があったが、俺たち……俺とミカゲ、桔梗にはそれは鬼武帝だということが解っていた。

 タローはまあ……見た目が女子ならなんでも良いんだろう。


 彩友香はハッとした顔をし、かよちゃんに言う。


「そうだね。もう間に合わなかった。かよちゃんはいなくなったもん。だから、あんたは偽者だべ」


 ちっ、とかよちゃんは舌打ちし、また姿を変える。



「さゆ、ごめんねぇ」


 今度は中年のおばさんへ変身する鬼武帝。

 それを見た彩友香は一度躊躇するものの、きっぱりと言い放つ。


「おかあさん。全て終わったらきちんと謝らないといけないよね。だから今は……ごめん」


 トン、とおかあさんの額に、彩友香はためらわずに苦無を突き刺す。


「もう惑わされない。あたし、弱いところはたくさんあるけど、その分周りの人たちが助けてくれることに気づいたから……だから、貴様を倒す」


 額に刺さっている苦無が青白い光を放つ。

 それを皮切りに、俺たちも攻撃する。



「桜花乱舞!!」


 近くにいる彩友香を花びらが素通りし、彩友香の母親の姿になっていた鬼武帝を花びらで桜色に染める。その攻撃を受けたのが原因なのか鬼武帝は変身を解き、3mぐらいある異形の人型に変身した。

 手は6本あり、顔は白と黒の2面。阿修羅の出来損ないのような姿になった鬼武帝は、彩友香の身体を掴み、俺たちにぶつけるように放り投げる。



「ふん。あたしを雑に投げてもだめだべ!」


 空中で体勢を整え、くるりと彩友香は回転して俺の後ろへふわりと着地する。そして苦無を構え直して、力を溜めるような仕草をする。


「必殺の技だけど発動までに時間がかかるから、その間は和ちんたちに任せる!」

「分かった。みんな、行こうぜ!」


 おう、と返事が帰ってくる。

 桔梗は影斬を作り出し、足に向かって一閃する。


「顔と手は増えていますが、足は1対です。だから狙うならそこですっ!」

「よし、なら俺は重力を調整してやるぜ」

「ぼ、僕もいきま――す! オオイモコイモチュウイモデチュウカリョウリヲチョウリチュウ!」



 タローは新しい呪文を覚えてたようで、長い詠唱をする。最近は呪文が失敗しないなぁ。そう俺が思ったとき、穢脈内にまばゆい光が走った。



「いもざえもん1号、只今ここに見参!」


「真☆いもざえもん、もっちりと登場いもよ!」


「いもざえもん3号だ、ハイッ! 正体は諸事情により明かせんぞ! ホンッ!」



 いもざえもん3体が一斉に鬼武帝に攻撃を仕掛ける。7色なんだか21色なんだかよくわからないけど、いも爆弾は炸裂するわ、短い足で蹴りを入れるわと多彩な攻撃を繰り出していく。


 というか、1号さんは時代劇が好きなのがわかっちゃうし、真のほうは2号って言わないから揃ってないし、3号さんは彩友香にもわかっちゃうぐらい中身がにじみ出てるよ。


 そんないもざえもんの饗宴を俺は眺めて見ていた。だっていもざえもんたちの攻撃に混ざると、俺がダメージを受けちゃいそうだもん。


 そして、その脇でタローが再び詠唱を始める。


「マジカルミラクルドリームファンタジア! ハートのパートはいつでもひとつ! マジカルリリスチェーンジ!!」


 ……なにかデキる男になってないか? タローよ。そう思っているうちに華麗にリリスたんに変身するタロー。



「やったぁ☆ 呪文はもう間違えないよ☆ 練習したかいがあったわっ☆」


 と、うきうきしながら、リリスたんは自分の胸を揉み揉みする。


「あーん☆ 柔らかいなぁ☆」


 中身がタローだと、外見がリリスたんでもただのヲタ豚だな……というかそれ以上はお子様には見せられないよ!! 軽く15禁を超えそうになるタローを急いで俺は制止することにした。



「リリスさんや、そういうの見たくないのでさっさと攻撃してくれ」


 俺がかるーくツッコミをいれると、


「よぉし!☆ わかったぁ☆ おいもちゃんたちー! クロスオーバーラップ☆エターナルスクエアドリームアタック、はっじめるよー!☆」


「承知いたしたでござる!」

「わかったいも!」

「御意! ハフッ!」


 いもざえもんたちがそれぞれ返事をし、それぞれに決まった場所に移動する。


「な、なにが始まるんです?」



 桔梗の疑問の声を聞いた瞬間、穢脈の空間が膨張するような感覚、そして真っ黒な空間が一切なくなり、カラフルな七色の巨大な虹が辺り一面に広がった。

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