第39話 彩友香のダメージ

 山頂に近づいたのか、山道は急勾配になる。


 辺りはもう真っ暗だったが、俺たちはそれでも山道を登る。

 そして、グッと地を踏みしめ、登った先には昔ながらの木造のお社があった。社の手前には灯籠がいくつかあり、その灯籠にはろうそくの明りが灯っていて、幻想的に砂利道と社を照らしていた。


 社の見た目は立派な神社である。



「彩友香さまっ!!」


 そのお社の中で、彩友香はダンゴムシの術を発動していた。

 隅っこに体育座りをしていて、彩友香の周りには六角形の透明なバリアが張り巡らされていた。


 桔梗が走っていきながら、彩友香の名を呼ぶ。

 それを聞いた彩友香は、桔梗を見上げてすうっとダンゴムシの術を解く。彩友香の疲労困憊していた表情が緩み少しほっとした様子で、すばやく走っていった桔梗の腕に彩友香は倒れ込んだ。



「よかった! ご無事だったんですね」

「ん、桔梗。ありがとう……」


 桔梗は彩友香に対し、回復の術を施すが、完全に回復するまでには時間を要するようだった。



「ふうん、俺に対しては拒絶するのに、その男には心を開くんだね……」


 お社の影から、ポークビッツ君、いやナルシスト君……が現れる。

 よくよく考えてみたけどコイツの名前、知らなかったわ。


 ジッと彩友香と桔梗を見つめるえーと……。


「あの、名前を教えてくれませんか? ポークビッツとかナルシストとか、そんな名前しか思い浮かばないので」


 俺がそんなことを言うと、ポークビッツ君は俺をものすごい目で睨んだ。

 だけどさっきのおばちゃん……紫さんよりは怖くないや。



「ま、早く名乗んねぇとポークビッツって呼ぶけどな」


 ケラケラとミカゲがその男に言う。


 その言葉を発したミカゲに対し、ポークビッツ君は顔を真っ赤にする。

 きっとあのときの風呂場事件を思い出したんだろう。



「貴様ァァ! ……いいだろう、貴様とは決着をつけてやる。貴様をブチのめす名前は鳴丘なるおか光隆みつたかだ。覚えておくといい。そして貴様の名はなんだよ?」


 と、ミカゲを睨みながらポークビッツ・ナルシスト君は言った。


 ……なんだ、どっちにしろ本名もナルさんじゃねーか。



 そんなナルさんはミカゲの前に行き、オラオラとガラの悪いチンピラのような目線でミカゲを睨む。でもナルさんの身長はミカゲより10cmは低いし、体つきも細いのであっさりミカゲに軍配が上がりそうだった。


「オラッ!」


 あっさりとミカゲは名乗らずに、ナルさんの金的にヤクザキックを食らわす。

 そしてミカゲの重い蹴りに、その場で倒れ悶絶するナルさん。

 あーあ、痛そうだなぁ。


「いちいち威勢がウゼーんだよ。かかってくるならさっさとかかってくりゃいいのによ。めんどくせーなコイツ」



 ミカゲもタフマンを飲んで十分回復した様子で、五芒戡を取り出す。


「さ、お前の本性を出してみろよ! どうせ弱っちい奴なんだろよ。それに彩友香をさらったはいいが、ヘタレて手も出せないザマしてるし、根性ねーな!!」


 ミカゲもナルさんを相当煽りまくってるようで、そのミカゲの言葉に対しナルさんは妙な唸り声を出す。



「ギイイイイイイ!! 貴様だけは許さん!! 殺しても文句言うなよ!!」


 いや、殺されたら口が聞けませんし。


 そんなことを言い散らかしたナルさんは辺りに散らばっていた影を吸収し始める。この影から変身するのを見る作業ももう3回め。慣れたもんだなぁ。



「その影で股間を盛るのか? じゃねーとてめぇの股間は使い物になんねーしな」


 ケタケタと笑うミカゲの口調は悪役そのものである。そんなミカゲの表情は本気で楽しそうだった。超ドSである。


 その言葉にますますナルさんはいきり立ち、そして影で真っ黒に染まった。



「貴様だけは許さんぞ……」


 グルルルルと低い唸り声をあげ、ナルさんは変身した。

 真っ黒なコウモリの翼を持ち、赤いロングヘアと紫色の肌をした大きな悪魔に。


 目はぎょろぎょろと大きく、特徴的なツノがついていて、体つきはムキムキの男性である。半裸の姿であるが、大事なところはきちんと隠れていた。



「俺はサタナキア。ヨーロッパの悪魔だ。貴様を呪ってやる!!」


 あ、あれぇ?


 格好は本格的な悪魔っぽくて立派だし顔は割とイケメン風なのに、やっぱりちょっとさっきのナルさんっぽい。

 ……そんなに中身は変わっていないのかな。


「どーせガワだけ変わってる、さっきのオバちゃんとかサクヤのようなもんなんだろよ。大方影の憑依した人間の望みを叶えてやるとかいって、鬼武帝がそそのかしてるんだろーな」


 悪魔に睨まれているのに、ミカゲはニヤニヤして緊張感がなく俺に説明する。


「で、俺があいつを引き受けるから、和哉は社を壊してくれよ!」

「おう、わかった!」



 俺は社の前で休んでいる彩友香の元へと向かう。

 そして彩友香を回復させている桔梗に聞く。


「魔力感知で社を探せる?」

「あ、今は難しいです。回復を途切らせると彩友香さまが気絶してしまいますから。でもこの古い社が元ではないので、別のところにあの人の社があります」


 わかった、と俺は言って、キョロキョロとあたりを探す。



「あっ、和哉さん! ぼ、ボクは何をすればいいでしょうか?」


 リリスたんのパンツの悩みを抜け出したタローが俺に質問する。


「よし、じゃあ社を壊すんだけど……この古い社は今回の鬼武帝のために建てられたものじゃないらしいから、新しく建った社を探すのを手伝ってほしい」


 桔梗は彩友香にかかりっきりで、魔力で社を感知するのは難しい。そしてミカゲは五芒戡でサタナキアに向かい合っているが、力押しされていてキツい戦いに見えた。


「俺は女性を意のままに従えたい、それだけなんだよ! それに……彩友香ちゃんは名士の娘だし美人だしちょっと気が強いけど処女だし、サイコーだよ! それにさ、犬☆愛のトレーナーはからくり屋敷のばーさんから貰ったもので案外気に入ってるとか、可愛いところもあってさ……彩友香を愛しているんだよ! 俺は!!」


 なにかボロボロと自白していくナルさん。

 それに五芒戡で殴り掛かるミカゲ。戦いは熾烈である。



「バカアホ……処女だとかバラすなんて、ひどい奴だべ……」


 彩友香は息も絶え絶えにナルさんに反論する。が、桔梗に「無茶なさらないでください!」と制止されていた。


 ストーカー男が、逆ギレて相手の秘密をバラす。彩友香は間接的にものすごいダメージを受けている感じがする。ひどいっ!

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