第35話 ホストクラブ☆PLANET

「ブハァ!! アレー? 僕、なにかひどいことになっているけど、なんだったんだっけ?」


 サクヤ? が目を覚ました。驚くべきなのは、星空のスーツを来てサクヤの声で話す人物の姿が、可愛い少年みたいだったのだ。

 あの脂ギッシュな球体は、どこにもいなかった。



「えええええ! だ、誰?」

「は? 俺、サクヤだし。わっかんねぇかな?」


 なんと先ほど吐いたもので、急激にダイエットしたらしい。髪の毛はねっとりとしていたけど、それはよくあるホストのキメ髪型っぽかった。


 幸いにも吐いたのはゴキちゃんのときだったので、吐瀉物はサクヤから離れた場所に落ちており、サクヤは汚れが1つもない星空のスーツのままであった。そして、胸元にはキラキラとしている白い薔薇をあしらったピンが留まっている。



「そのピン、頂いてもよろしいですか?」


 桔梗がサクヤに問いかける。

 白い薔薇のピンは、魔力のかたまりなのが桔梗にはわかった様子だった。


「あれ? なんだろこのピン。覚えがないから、キミにあげるよ!」


 気前よくサクヤは、桔梗に薔薇のピンを妙な手つきで渡した。何ていうか桔梗の手を両手で包み、ねっとりと撫でるような感じに。


 その感触に桔梗は背中をぞわわわっとさせていた。



「キミ、男性みたいだけど、俺の好みの顔をしているネ! もしよければ名刺もついでに渡したから、連絡よろしくゥ!」


 桔梗の手には、薔薇のピンと『ホストクラブ☆PLANET』の名刺があった。



「ハハッ、花郷市でそこに在籍しているから、よかったら来ておくれよ」


 かっこよく言うサクヤは少年の見た目も相まって、なにか妙に似合っていたのだが、桔梗はものすごく気持ち悪かったらしく、思いっきりブチ切れた。


「この、クズ! カス! ケシズミっ!」


 と思いっきり叫んだ。

 そんな桔梗には意を介さず、サクヤは能天気に笑って言った。


「キミならボクのおごりで良いよ。だって素敵な顔をしてるしさ。お尻も……まあいいや、ぜひ来てよね! ……ボク待ってるから」


 バチンとウインク&投げキッスのコンボを桔梗に繰り出すサクヤ。

 でもさ、そもそもサクヤって役場職員じゃないの?


 そんな疑問を俺がサクヤに投げかけると、


「ハハ、僕は妙な依頼を受けてさ。ホストやってんのも面倒になってたから、しばらく休暇を取ってバカンスに来てたのさ」

「じゃああのキツめのおば……おねえさんも?」


 サクヤは首を傾げて、言った。


「さあ、あのおばちゃん、ずっとパソコンばっかいじってたし、話もしたことがないよ。コワそうだったしね」


 そういうと、サクヤは桔梗を見て名残惜しげに山を降りていった。



「さーて、次はまたここの上から登ってくのか。あんまりキモい戦いはしたくねぇけどよ。今回は桔梗の活躍っつーことで」

「あ、ありがとうございます」


 ペコペコと、桔梗は俺たちにお辞儀をする。


「そう言えばさっきの武器……影斬だっけ。あれはどこに消えたの?」

「あ、あの武器は魔力を一時的に凝縮して作る武器ですね。わたしの一番使いやすい形の武器が、あの鎌なんです。それで魔力を凝縮するものなので、開放すると消えちゃいますね」


 うーん、幼女桔梗であの鎌を振り回したとしたら、タローが黙っていないよな、きっと。そう思ってタローをちらりと見ると、お腹が空いていたのかリュックをあさっていた。

 いや……こんなところで食うなよ。ゴキちゃんの居場所だったんだぞ。



「タローさ、もうちょい上で食べようよ。歩きながらでもいいけど」


 出来るだけこの場から早く離れたかった。

 花はもう消えて匂いもしないんだけど、ゴキちゃんのエサの残り香があるような気がしたのだ。なので、全員を急かして山を登る。



 途中、見晴台みたいなところがあった。

 ヨネばあちゃんちで、俺たちの村の封印を解いたときの見晴台よりはずっと高い。そう言えばこの山の正式名称はなんだろうなぁ。全然聞いてなかったけどいいか。


 そんなことを考えていると、すぐに次の社に出くわしたのだった。

 というか社ってよりは丸太で出来た立派な山小屋と、その屋根の上には電波塔のようなものがあった。

 ぐるりとその周りを見て回ったけど、誰もいないので山小屋の中に入ってみることにした。



「こ、こんにちはー?」



 中には眼鏡のおば……女性がテーブルの上のパソコンに夢中になっていた。


「ちょ、ちょっと待ってて頂戴」


 と、しばらく待たされる俺たち。

 だけど、タローはおばちゃんのいじっているパソコン画面を見て言った。


「ああ、IDOやってるんですね」


 そのタローの言葉におばちゃんは、ヒッ! と小さく悲鳴をあげる。そしてみるみるうちに熟したりんごのように真っ赤に頬を染める。



「あ、あの……ちょっと待って下さい。このボスを終わらせちゃいますので」


 そのまま一生懸命マウスとキーボードを駆使し、おばちゃんはなにやら戦っていた。それをタローは食い入るように見ている。


「あー、ぼ、ボクもパソコン持ってくればよかったかなぁ。ここでもIDOが出来るって知ってたならちょっと休むだなんて言わなかったのにな。リリスたんはもう飽きたし、ギルドの皆も待ってるだろうし……」


 とぶつぶつ言いながら。

 俺とミカゲはまったくゲームには興味なかったし、桔梗はそれがなにをやっているものなのか知らなそうだった。


 しばらく待たされている間に、俺たちは腹ごしらえをすることにした。タローはおばちゃんと一緒にしばらくパソコンの画面を凝視していたのだが、おばちゃんが席を離れた間は交代してパソコンをいじっていた。

 その間ミカゲはタローのリュックを漁っていて、俺たちに食料を配布する。



「うおおおお!!! こ、こりゃあスゲェ!!」


 とタフマン6個パックを見つけたミカゲは、早速3本を一気のみしていた。


 俺と桔梗は大きなおはぎを見つけて、それを食べていた。あんこが手作りで素朴な味わいはお店で売っているものより、美味しかった。



「こ、これは……ものすごく美味しいです」


 予想以上に桔梗はおはぎ好きだったようで、俺が2つ食べる間にのこり8こも食べてしまった。そんなに食べたら細マッチョじゃなくてデブマッチョになるなぁ、と思いつつも俺は黙ってみていた。


 勝手におばちゃんの所有物であるお茶を全員に配ったあたりで、おばちゃんは別室から戻ってきた。



 その姿は、フリフリで花柄の少女マンガに出てきそうなドレスと、丁寧に三つ編みをした……花嫁衣装のような格好をしていたおばちゃんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る