第17話 ジェードのアトリエ
ドラジェさんについていくと、そこには大勢の龍族の女性が居た。
シアンぐらいの娘から、いい歳のおばあちゃんまで様々な年齢の方々が揃っているが、その全員がシアンと同じような髪の毛の色で、年齢が高い女性ほど髪の毛が長い傾向だった。
ドラジェさんは同じ年代の人から比べても髪の毛の長さがとても長いので、どうやら龍族でも破格の魔力の持ち主みたいだ。
そして、龍族の女性が集まったその光景はぱっと見た感じ、ハーレムである。
「ぼ、僕は
あ、こらタロー。
勇者を差し置いてみずから自己紹介するんじゃない。
そんなタローを龍族の女性たちは一斉に注目し、さらにその口からタローに向かって一斉に同じ言葉が放たれた。
「このクズ! カス!」
綺麗に揃ったその声に、タローは恍惚とした表情を浮かべていた。
改めて思うけど、このドM趣味はよくわからない。俺が言われたらブチ切れちゃうだろうな。ミカゲも同感だったようで、タローを嫌そうな顔で見ていた。
「こちらは田舎村の勇者さまと戦士さまです。今回は忍成村の勇者さまのサポートにいらしてくれました」
ドラジェさんが俺たちのことを簡単に説明すると、龍族の女性たちはざわざわと話し始める。
「まあ、あの鎧のお方ですわね」
「あの大刀は気に入ってくれたのかしら」
と、装備品が気に入ってくれたかどうかの声も聞こえてくる。
今そのことを話すと一斉に注目を浴びそうなので、俺は声を出さずにぺこっとお辞儀をする。
「勇者の
装備品の感想は、個別にあとでいうことにした。
俺のあとにミカゲが挨拶する。
「ちーっす。
ミカゲのそんなラフな自己紹介でも、龍族の女性からは黄色い吐息が漏れてくる。
くそー、やっぱりイケメンってなにか得だよなぁ。
自己紹介のあとは、俺たちそれぞれに女性たちが集まる。ミカゲに一番人だかりが出来るのかなと思ったけど、予想外に一番龍族の女性があつまったのは俺だった。
「よっし! 龍族フラグゲット……!」
「?」
全員に不思議な顔をされた。
あれ? 俺がいいってわけじゃないの……?
「これが
「こういう戦い方もあるのね」
「弥盛の魔力を感じますわ」
ああはい、わかりました。俺に興味津々ではなく、このペンダントの宝石に興味津々だったんですね――。
シアンは龍族にしては独特な戦い方をしていたようで、こういう副産物はとてもめずらしい様子だった。なのでざわざわと女性たちはペンダントを見つめ、へーとかほーとかなにやら言い合っていた。
「ちょっとそこ、どいて」
ドラジェさんと同じぐらいの年齢の人がやってきた。その人は身長がとても高くすらりとしていて、短く切った髪の毛がとても似合っていた。
「あ、ジェード様……」
すこし乱暴なジェードと呼ばれた女性の言葉で、俺に集まってきていた女性たちは潮が引くようにさっと居なくなってしまう。
「お前が弥盛……シアンの担当する勇者だな。あの剣の出来はどうだった?」
そうか、この女性が俺の剣を打ち直してくれた人か。
「あ、はい。とても扱いやすくて、魔王の決戦時にも剣の冴えは衰えなくキレがよかったです」
「そうだろう。あの剣はわたしのほとんどの魔力を注ぎ込んだものだからな」
そういうとジェードさんは、短く切った髪の毛をさらっとかきあげた。
「あの剣を作った現場にきてみないか? あの戦士も一緒にだが」
チラリと女性たちに囲まれているミカゲを見て、面白くなさそうにジェードさんは話す。どうやらミカゲはあまりジェードさんの好みではないようだった。
「わかりました。ミカゲを呼んできますね」
ミカゲを呼んできたころ、龍族の女性はすでに興味が彩友香の小刀と手裏剣に向かっていた。タローは見事にスルーされているのかな、と思ったけど、シアンより少し小さい子になにか話しかけられていた様子だった。
まあ、タローは放っておこう。どうにかなるだろ。
「ではわたしの鍛冶場へ」
俺とミカゲを確認し、ジェードさんは顔の前でパチンと手を叩く。
一瞬で移動した先は、淡い金色の光が満たされている洋風な作業場の中だった。
中央にはごうごうと燃える大きな釜があり、その周りにはいろいろな道具が転がっていた。鍛冶場にありそうなハンマーや金床、はさみの他に、たくさんの宝石やガラス瓶に入った様々な液体なども壁にずらりと置いてあった。
「ここだ。お前たちの剣を作り、強化したアトリエだよ」
初めてみるアトリエの様子に、俺とミカゲは圧倒された。
ぼんやりと2人でぐるっとアトリエの中のものを見ていると、ジェードさんは部屋の端にある簡素なテーブルセットに俺たちを招く。
「コーヒーでいいか?」
俺とミカゲは龍脈のアトリエの中で、ジェードさんの話を聞くことになった。
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