第31話 細マッチョ
蒼の光が収まったとき、そこに居たのは今までの桔梗じゃなかった。
正確にいうと、桔梗と同じ髪の色をしたツインテールの……細マッチョなイケメンがいた。ちなみに洋服は伸びてちょうどよくなっている。小さなときのコートのフリル部は変身したときの伸びしろ分だったらしい。
「……ごめんなさい。彩友香さま」
そのイケメンは深々と彩友香にお辞儀をし、反省をしている様子だった。
っていうか、桔梗は男子だったのか……。
彩友香はビクッとし俺に抱きつき、顔を埋めて桔梗を見ないようにしている。
「う、嘘でしょ。あんたは桔梗じゃないもん!」
俺の胸に顔を埋めたまま、彩友香は桔梗を否定する。
というかですね、彩友香さん。俺の腹に胸がぎゅーっと当たってます。予想より弾力感や柔らかさが素敵です。
これはご飯5杯ぐらいイケる感触だなぁ、とぼんやりと俺は考えてしまった。
「わたしは鬼武帝を倒したら、龍脈に戻ります。それまでは彩友香さまとお供させてください。……そして騙していてごめんなさい。本来の力を出すためには巫女さまの接吻が必要で、そのために自分を偽って女子の格好をしていました」
桔梗はそのあとも長々と自分の話をする。
子供の格好だったのは、規格外のあふれる魔力を抑えるために封印を施していたこと。そして封印を開放した今は、どんな死闘になっても彩友香だけは護るということ。死闘が終わったら元の子供の姿に戻るので、
「鬼武帝は日本にいる穢の中でも最大の力を持っています。西方から流れてきたのですが、龍脈サーチでは元締めである、京にいた穢より攻撃力が強いそうです」
俺は彩友香を抱きとめていたので、ミカゲにタローの拘束を外してもらった。ここからの話はタローにも聞いてもらったほうがいいだろう。
そして彩友香はぎゅっと俺に抱きついたまま、一言も話さない。大丈夫かな。
「彩友香さまを護るためには、子供の姿では駄目なんです。だから……」
「……いいよ、桔梗。敵を倒すためには仕方がなかったんでしょ」
そう言って彩友香は俺から離れて、桔梗に向き直る。
その顔は……なにかを決意した1人の勇者のようだった。ていうか勇者だけど。
「わかった。内緒にしてたのも事情があったんでしょ。でも、あたし…………気持ちを整理してくるから、1人にしてくれるかな?」
そのまま彩友香は隠し部屋を出ていってしまった。
残った俺たちは、再びちゃぶ台の周りに座る。桔梗も。
「しかしなぁ、マジでびっくりしたわ。お前、男だったんだな」
「で、ですね。ボクもびっくりしました。だ、大事なシーンは見逃しましたけど」
ミカゲが通夜の状態のパーティの場に、言葉を投げ入れる。それに同調するタローのアシストもあってシーンとした状態から、2人は筋肉がどうだとか桔梗の身長がミカゲと同じぐらいになってるだとか、そんな話の流れになった。
そして下を向いて落ち込む桔梗の肩をミカゲがポンと叩く。
「まあ、俺たちはいいけどよ、あいつは複雑だろうな。ちっと頭を冷ませばたぶん大丈夫なんじゃねぇか?」
俺もあのタイミングが一番よかったのか、それともキスをする前に桔梗が男だと言ってしまったら儀式がきちんと行われていたのか悩んでいたけど、たぶん今の流れが最上なんだろう。というか、もうやってしまったことだから、これからの事を考えていかないといけないだろう。
「とりあえずその髪型はおかしいから、なんとかしたほうがいいよ……」
的外れな意見だったのかもしれないけど、俺は言っておいた。
桔梗は手慣れたように、髪を真後ろに三つ編みしていた。うん、イケメンなのにツインテールじゃ、タロー界隈の人になってしまっていたからな。
隠し部屋を片付け、彩友香へ向けたパーティは終わった。
彩友香は先に家に戻ったようだし、俺たちも千波医院へ帰ることにした。
「なんか、おかしくねぇか?」
ミカゲが帰り道で7体目の影を倒したときに言った。
お昼をちょっと過ぎたあたりなのに影がそこかしこに出ているし、かろうじていた忍成村の住人たちも今はまったく見ない。
「……彩友香さまが危ないかもしれません」
桔梗が不安そうに言う。
能力を開放したからとはいえ、桔梗はその力をまだ使っていない。
「桔梗さ、持ってる魔力かなにかで彩友香の位置とかわからないかな?」
俺がそう言うと、桔梗は目をつぶり気を澄ます。そして
「千波医院の前に居るようです。でもそこから動いていません」
「急いで向かおう。なにかトラブルが起きているのかもしれない」
影を倒しながら俺たちは千波医院の前までたどり着いた。
そこには、源蔵じいちゃんだけがぽつんと玄関の前に座っていた。
「彩友香が……」
利き腕から血を流し、やつらに連れ去られた、と繰り返す源蔵じいちゃんを医院の中に担ぎ入れ、玄関の戸を閉める。
どうやら彩友香とやつらと源蔵じいちゃんが言っていた者の戦闘があったようで、医院の前には血がそこかしこに飛び散っていた。ひときわ多い血溜まりの中に源蔵じいちゃんのハリセンが落ちていた。
「わしがもっとしっかりしていれば……」
診察台に乗ったじいちゃんはそうつぶやき、そして気絶してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます