第30話 誕生パーティ

 手順はこうだ。


 まず桔梗以外の4人で隠し部屋を飾り付ける。

 テーブルはちゃぶ台で、座布団に座る感じだけど。


 そしてケーキのろうそくの明りだけをセットし、そこへ彩友香が桔梗を連れてくるのだが、その間にケーキに「お誕生日おめでとう」のプレートをかけ、彩友香へのサプライズを決行することになった。


 もちろん所有者の受付のおばあちゃんには了承をもらっている。


 クラッカーなどがあれば盛り上がるだろうけど、そこは調達できなかったので、拍手にした。



「一ヶ月早いけど、彩友香さん誕生日おめでとう!」


 彩友香と桔梗が階段を上がってきたとき、俺たちは合わせて言い、拍手をする。


「彩友香さま。騙していてごめんなさい。そして、少し早いけど、お誕生日おめでとうございます」


 桔梗がそっと彩友香に声をかける。

 彩友香は「ば、ばか……」と言ったあと、顔を真っ赤にしてぽろぽろと大粒の涙を溢れさせた。


 桔梗がそんな彩友香の手を引いて俺たちのところへと来て、正座をする。


「こんなことやってもらったことないから……」


 声をつまらせて彩友香は「あ、ありがとう」と言ってくれた。

 そのあとはローソクを吹き消してもらい、真っ暗になったあとタローが久々のマジックライトで隠し部屋を照らしてくれた。


「む、ムード満点ですね」


 ハートのエフェクトがマジックライトに添えられている。これもハートフルステッキの効果なのかな。でもパーティではいい感じの効果だと思う。


「では、パーティの開始だ!」


 俺の号令と共にみんなで飲み食いを始める。

 ミカゲに頼んでおいた、シュワシュワしたどぶろくも準備オッケーである。


「彩友香、これも飲んでみな。美味しいぜ」


 俺がぶどうサイダーを混ぜたシュワワなどぶろくカクテルを、ミカゲが彩友香に手渡す。見た目はロゼのシャンパンっぽくなって非常に美味しそうである。

 ちなみにストレートのままでは度数が高すぎるので、ジュースで割ってみた。


 ふと騙すような感じになったのは否めない。が、俺はあまり飲まない人……いや彩友香にお酒を飲ませることの怖さに気づいていなかった。




「あはははは! まだまだ飲み足らないでしょー! 和ちんもミカゲっちもガンガンいきなよぉ~」


 もう割ることもせずにストレートで、彩友香はどんどん手酌で飲み進めていく。どぶろくもストレートである。


 ヤバい、この展開は……。


「酒乱だな。ああなったら手がつけられねぇ」


 ミカゲも匙を投げた。終わった。



「さ、彩友香さまっ! あの……お願いがあります!」


 コップ5杯目のどぶろくを飲み干して真っ赤になっている彩友香に、勇気を出して桔梗が話しかける。


「んん~? どした桔梗~」


 若干ろれつの回っていない彩友香。

 違った意味で顔が真っ赤な桔梗。これは、ヒッヒッフーをしたほうがいいレベルだ。だが、俺はそのやり取りを黙って見ることにした。

 空気の読めるイケメンであるミカゲも黙ったままだし、タローに至っては女子の百合百合しているシーンが楽しいんだろうなぁ。こちらも黙っている。


「あの……接吻をして頂きたいのです」

「せっぷん? チューのことぉ?」

「キターでござる!」


 おいいい、タローうるさいぞ。

 ミカゲと俺でこそこそとタローを縛り上げて猿ぐつわ代わりの布を口に放り込んで、さらに目隠しをする。


「なぁ、どうなってるんだよ?」


 ミカゲが俺にコソコソ質問をしてくる。


「魔力アップのために彩友香のキスが必要なんだってさ。とりあえず俺たちは知らんぷりをしておこうよ」

「まあ、そういう理由ならしゃーねーわ。でも目をあからさまにそらすのは難しいタイミングだぜ、こりゃよ」


 そうだった。

 身動きするともうあかん段階に来ている。

 なぜなら、桔梗は目をつぶって彩友香のキスを待っている段階に入っていたからだ。


「ん~? チューかぁ……」


 彩友香は微妙な空気に圧されている。でも彩友香にとっては初キスらしくて、酔っ払っても躊躇っている様子だ。


「……わかった。女の子同士だもん、カウントにならないよね」


 彩友香は覚悟を決めたようで、桔梗の両肩にぽんっと手を乗せる。ビクッとする桔梗と、それに気づいた彩友香は自分の頬を桔梗のほっぺたと合わせる。


「あ、あたしも初めてだから……落ち着こう」


 彩友香がほっぺたをくっつけたまま、耳に口寄せて桔梗に問いかける。そして彩友香が屈みこむように桔梗の口にキスをした。



「……んっ」


 桔梗の肩が震えて、小さな吐息が出る。

 これは、予想以上に……エロいぞ。


 そう思っていたのは一瞬で彩友香と桔梗が離れたあと、桔梗は体全体を蒼く光らせ、唸りだした。


「う゛う゛う゛う゛彩友香さまぁ……ありがとうございます。う゛う゛う゛……そして騙してごめんなさいぃ……」


 桔梗からまばゆい青の光が、隠し部屋を満たすように溢れ出す。


「き、桔梗っ! 大丈夫!?」


 彩友香は桔梗から手を離す。

 なにか莫大な魔力が桔梗からあふれてくるようで、そのあと彩友香は下がって俺に肩をぶつける。


 俺はその彩友香の肩を後ろから掴みながら、桔梗の変化をみていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る