第20話 彩友香の相棒

 移動すると、タローはまたあの小さな女の子と話していた。


「わ、ほら! 君が早く言わないから、勇者さまたちが来ちゃったじゃない!」


 タローを攻めるツインテールの可愛い女の子。どうやら内気な子らしく、タローの影に隠れてしまう。


「あ、あのー、この子、すずくんに紹介してよってうるさかったんだけど、みんなどこかに言っちゃったし、ボク……イテテテっ!」


 後ろに隠れた子は、ギュッとタローの後ろ脇腹をつねっている。そして「ほら、早く紹介してよ!」と大きな内緒話でタローにせっついている。


「そ、それでですね、この子……彩友香さんの担当になった龍の子らしいです」

「ええー!」


 タローが俺たちに、その女の子の姿を見せるようにサッと脇に避ける。

 そこには、シアンより小柄でちょっとおどおどした女の子がいた。

 龍族特有の水色の髪をツインテールにしていて、龍族ロングコートもシアンより少しだけヒラヒラしている。


「――――あ、あの、その、忍成村担当の龍です。よ、よろしくお願いします。名はまだありません」

「ああうん? よろしくね」


 ジッと俺を見つめる名無しの子。この雰囲気は、シアンが俺に「マスターが名前を決めて」って言ったときと同じである。


「あのね、俺は勇者だけど、君の勇者ではないんだ。ええと……そうだ、俺はシアンって子のマスターなんだよ」


 えっ! という顔をする女の子。


「だだだだだって、勇者さまって1人ですよね? っていうか貴方が彩友香さまですよね!?」


 長いツインテールを揺らして、その子は俺に質問を投げかけてくる。その顔は真っ赤に染まって必死な形相である。


「いや、俺は彩友香じゃないよ。えーっと……」


 俺が困っていると、ミカゲが助け船を出してくれた。


「あのな、お前の勇者ってやつは今修行中だ。もう少し待て。俺たちはそいつを手伝っているだけだ」


 不服そうな、ショックを受けたような顔で、その子はタローの影に隠れる。

 あ、ミカゲの外見が怖くて、話しかけづらいのね。


「あ、あのその……男性ってあまり会ったことがないので……すみません。それと勇者さまを間違えてすみません」


 小さいからだをますます小さくして、その子は俺たちに謝った。

 その子は移動するでもなくそのまま俺たちと同じ空間にいるので、ちょっと放置しておくことにした。

 なぜなら「ああどんな勇者さまなの!」とか「素敵って言ってください」とか謎の一人芝居をしていたからだ。



「あ、あのさこれ、武器を作ってくれたジェードさんからタローにって」


 と、6歳以上推奨のおもちゃ……いやハートフルステッキをタローに渡す。


「え! これ……ボクが使って……いいんですか!?」


 と、タローはキラキラした目で俺を見る。


「いいみたいだよ。それにそれを持ち歩いていても、ただのおもちゃにしか見えないから……いいんじゃない?」


 タローがそのステッキを持っていたら、へんなおじさんに見えること請け合いであったが、そのことはキラキラした表情をしているタローには言えなかった。

 っていうかあの状態のタローは俺の話を聞かないだろう。


 タローのステッキはちょっと振るだけで、薄い虹色のハートマークの残影がキラキラとあたりに撒き散らされる。これは女児には大受けなかわいい効果である。


「う、うわぁ、かわいい!」


 ステッキを振っているタローは、ただのオタクであった。



「さて、武器の性能を試すにゃどうすればいいんだろうな」

「お互いに打ち合いしてみようか?」


 よっし、と俺とミカゲがまずは武器の打ち合いをすることになった。


「ミカゲ! 仕掛けてきていいよ!」


 ある程度の間合いをとり、俺とミカゲが向かい合って攻撃を開始する。

 タローと女の子には500mほど離れてもらっている。


 ミカゲはバットを地面に振り下ろす。

 淡く金色に光っている地面がぐわんと歪み、俺の立っている位置まで歪みが来た。

 ぐぐっとからだが重くなり、その場から動けなくなる。


「おおお……」

「重力を自在に操れる付加効果をつけたんだよ。どうだ? 効果はあるか?」


 1分ほど、俺は無言でその重力に耐える。

 技がかかっているうちは、しっかり踏ん張らないとすぐに圧し潰されそうなほどの力を感じていたので、正直喋る余裕がなかった。


「はぁ――重力ってすごいね」

「だろ? あとはまあバットを振るって打撃を与えると、鋲がとんがって刺さるぐらいの効果だ」


 うわあ、なんて物騒な効果なんだ。


「あの……ミカゲさん。そのバットで俺をぶつのはやめてね!」

「なんだ、ダメなのかよ……って冗談だ。あかねもいねーしな」


 ぶたれるなら、速攻で傷が治るときにしてほしい――いや! それでも痛いからあかんよ! あかん!



「で、和哉のほうだな。やってくれ」

「オッケー。いくよ」


 桜花乱舞! と恥ずかしいので超小声で技名を叫び、花酔扇をミカゲに向かってふぁさーっと仰ぐ。風がミカゲにいくのと同時に桜の花びらが舞い、ミカゲの視界と動きを止める。


「むぐぐ……」

「俺のは視界を遮る効果と、体感速度を変える効果だね」


 からだで感じる速度を早くすれば、はたから見たらゆっくり動いているようになるし、体感速度を遅くすれば、素早く動けるようになる。それを発現させるのは、扇を振る俺の気分次第である。

 花びらを多くするにはアクアマリンを押しながら振る、アクアマリンを押さえないとほどほどのかっこいい量の花びらが出るという仕組みになっている。


「これで殴ったとしても、麻痺するだけで棘は出ないよ」


 ミカゲから花びらが消え、花酔扇の効果が終わった頃に、俺は言った。


「なんだ。スパッと斬れるとかそういう効果はつけなかったのかよ」


 いやそれは物騒でしょ!



 ある程度ステッキを振り終えて満足したらしいタローは、俺たちのところに向かってきた。


「あの、ボクも呪文の効果を試したいです。なのでリリスたんに変身……」

「いや、アリにしとけよ、めんどくせぇ」


 リリスたんへの変身は、即ミカゲに却下されていた。


「アリアリミエルアリノムレッ!!」


 タローが流暢な呪文を唱える。

 そして出てきたのは、ミカゲの身長ぐらいの大きさの……アリだった。アリがおおきくなったぶん数は少なくなって5匹程度だったけど、それでも人の大きさぐらいの昆虫はかなり強いだろう。


「うわああ、これが一斉に向かってきたらさすがにヤバい!」


 とはいえ、タローのは呪文で召喚されたアリである。

 タローが敵であると認識したものにだけ向かっていき、仲間である俺たちには向かってこないという都合のいい魔法なので、ここの空間ではデカいアリがうろうろするだけの気持ち悪い呪文であった。



 そのアリが消えたころ、彩友香とケツプリさんが戻ってきた。

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