第12話 脅威の肉食系女子(94)

 夕食が終わり、俺たちはおじいさんに役場帰りに黒い影に出会ったことを話した。

 彩友香は食器を洗いに行っていて席を外している。


「おお……影は無事退治できたんじゃな?」

「はい、ハリセンで一撃でした」


 ミカゲの釘バットのことはあえて内緒にしておいた。

 だって武器的に物騒なんだもん。


 そして、タローには


「役場職員は怪しいからやめとけ。おばちゃんしかいないよ」


 と言ったら、こっちに居ると即答をしてくれた。女子なら誰でもオッケーじゃなかったんだな、タローよ。



「それでですね、あの影に取り憑かれた人っているんですか?」


 早速本題をおじいさんに聞き出す。

 おじいさんは奥の台所にいる彩友香をちらっと確認したあと、小さな声で俺たちに影のことを話す。


「彩友香には聴かせたくない話なんじゃよ。あの気性では、突っ走って影に向かったあげくに取り憑かれかねんからじゃ」

「すごく…………わかります」


 ミカゲも俺と同様に深く頷いた。

 彩友香に関しては、技を鮮やかに決めるけど、なにかこう危なっかしいもんな。


 それから俺たちは小声で話す。


「そうじゃな……影に取り憑かれたのは、わしらで確認しているのは94歳のウメばあちゃんだけじゃな。残りの可能性があるのは、あの役場職員どもなんじゃが、そっちは確認しておらんなぁ」


 94歳という言葉にタローはひどくがっかりしていた。正直、なににがっかりしているのか意味がわからない。

 まあいい、話を先に進めよう。タローは置いておくことにした。


「ウメばあちゃんは若い頃はブイブイいわせとってのお。何人もの男を手玉に取っていた性悪な女だったのじゃ。だがここ30年ぐらいはおとなしくなってのお」


 30年前って……ハリセンじいちゃんと変わらない歳ぐらいまで、バリバリな現役肉食女子だったのか。

 俺たちはその脅威の肉食系女子に、ごくり、とツバを飲む。

 ああ、これは垂涎すいぜんな意味じゃなくて、脅威な意味ですから。か、勘違いしないでちょうだい!


「でな、おとなしかったウメばあちゃんは、影に取り憑かれたあとは30年の欲望を開放するかのように、そこらじゅうの男子……いや、じいさまを誘惑しまくっておるのじゃ。なので、わしが鎮静剤を毎回処方しておる」


 うわぁ、ヤバくなさそうだったら会うという選択肢があったけど、ウメばあちゃんは正直無理だなぁ。

 ちらりとミカゲを見るが、俺の気持ちを表情から読んだらしく、大きく手で顔の前に×を作っていた。それはようこそ! ってやってた大和田課長の専売特許でしょ。


「ええと、様子を見るために、そのウメばあちゃんに会うってことは……?」

「無理じゃな。若いお前たちは即、喰われるぞ」


 ひぃっ!

 その喰われるっていう意味をいろいろと考えてしまい、俺は青くなる。


「では、あと他に影に取り憑かれたという人物はいないのですか?」

「うむ。いないな。自分の身は自分で守れるという連中ばかり集まっておる。ウメばあちゃんはちょっと変わっていたからのう。致し方ないことじゃ」


 よかった。

 ウメばあちゃんは別としても、他に取り憑かれた人はまだいないのか。



 そのとき、彩友香が食器を洗い終わったのか、俺たちのいる居間へとやってきた。


「ねぇ、男ども4人でなにこそこそ話してるの?」

「……ああ、村のいろいろな名所を教えとったのじゃよ。彩友香もよく行ってるじゃろ?」


 おじいさん、話のすり替えがうまいな。

 俺たちも違和感がないようにその話に乗ることにした。

 じいじゃんが声を出さずに「に・ん・じ・ゃ!」と言ったので、その話題を出すことにした。


「忍者で有名だというから、その体験が出来る場所がないかと思ったんです」

「そうじゃ! からくり屋敷を教えておったのじゃよ。ちょうどいい、明日彩友香が案内しなさい。わかったか?」


 彩友香は忍者、という単語が出てきたらすごく顔を輝かせていて、じいちゃんの言葉にコクコクと何度も頷いていた。

 そしてじいちゃんに案内係を任命された彩友香は、頬を桜色に染めて


「あたしに任せなさい! こう見えても由緒ある『くのいち』なんだよ!」


 とものすごく張り切っていた。

 その彩友香の格好は、犬☆愛と書かれた黄色のトレーナーとジャージズボンだったから、かなり微妙であった。


「明日、からくり屋敷にいくから、今日は早く寝るべ! 朝は6時起床な!」


 やたら生き生きとした彩友香に押し流され、俺たちはそれぞれの部屋へと戻ることになった。

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