第11話 ぽーくびっつ

 男はニタっと嫌な笑いをする。

 あ、笑うとイケメンが台無しな顔になりますね。むしろキモいです。


「なーんだ、彩友香ちゃんの知り合いだったの? っていうか俺の彩友香ちゃんに近づくなよ下種どもがっ!」


 凄んでくるナルシストさん。

 そこへミカゲが背後から近づき……ナルシストさんの腰のバスタオルをするっと剥がし、ナルシストさんは大事なところが丸見えとなる。


 ぶっちゃけ小さいな。

 ポークビッツ並のソレを俺はまともに見てしまった。おえ。


「キャアアアアアア――――!!!」

「イヤアアアアアア――――!!!」


 彩友香とナルシストさんによる、甲高い声のサラウンドである。うるせぇ。

 叫んだあと顔を真っ赤にして、俺の後ろでしゃがみ込む彩友香。

 ナルシストさんはお尻を丸出しにしながら、バスタオルを掴み男湯へ逆戻りする。


「よし、逃げんぜ」


 ミカゲの一言で俺たち3人は逃げ出した。



 息せき切って病院の駐車場まで走ってきた。

 どうやら男はついてこれなかったらしい。安心してフェアレディZの前でゼーハーしていたら、車の中に怪しい人影を見つける。

 ミカゲはドアを開け、その人物の胸ぐらを掴み引きずり出した。


「おいこら、誰の車に断りなく乗ってるんだよおい! ブチ殺すぞ!!」


 ミカゲに思いっきり凄まれたその人物は……タローだった。



「な、内緒で乗っていたのは悪かったです。でも、ボクも出向を大和田課長から急遽言われたんですよ」


 タローはミカゲのスキを見て、車のトランクに乗り込んでいたらしい。なんでも大和田課長から出向を命じられたのは、昨日だったそうな。


「で、ですね、ボク先週『マジカル☆リリスたんトキメキDVDボックスセット』を購入してしまいまして、お金が足りなかったので内緒で便乗したわけです」

「だったらまずは俺にそれを言えよ。気分悪いだろ?」


 ミカゲは苛ついていたようだったが、忍成村のこんな異常事態の中、タローという信頼できる人物が増えたことは嬉しかったようだ。ぶん殴ってないし。


「と、トランクに隠れたらそのまま寝てしまいまして……気づいたら車がここに停まっていて、ボクはどうしようかなぁと思っていたところでした」


 彩友香は訝しげにタローを見ていたが、俺たちの仲間だということがわかったらしく戦闘ポーズは取っていない。


「あっ、はじめまして。ボクは青柳太郎っていいます。26歳です。……っていうか黒髪美少じょ――――グフッ」


 彩友香の手刀が鮮やかにタローの喉元に刺さる。

 エゲツない技だが、獲物をあっという間に仕留める、キレの良い技であった。


「近づくな! キモいんだべ!!!」


 その手刀で気絶したタローを俺とミカゲが運ぶ。もちろん、千波医院の診察台に。その運ばれてる間のタローを、彩友香は間違ったふりをしながら踏んづけていた。



 医院に入ると、どこかへ行っていたハリセンじいちゃんが戻ってきていた。

 そしてタローを見つめ胡散臭い顔をしていたが、俺が勇者の仲間ですと説明したら、じいちゃんはタローも快く受け止め、泊めてくれることになった。


「部屋数がないから、タロー君だけ押入れじゃ。勘弁してくれ」


 俺とミカゲは4畳半の部屋で、タローはそこの押入れに案内された。残りの部屋は居間とじいちゃんの部屋、そして彩友香の部屋である。

 その部屋で荷物を解いて、部屋着に着替えてるころに彩友香がやってきた。


「そろそろごはんだべ。居間に来て」


 こじんまりとした居間のこたつの上には、山菜の天ぷらと謎肉のソテー、それとけんちん汁が乗っていた。


「美味しくないかもしれないけど、食べて」

「い、いただきます」


 料理全部を彩友香が作ったようで、自信がなさげな様子だったけど、炊きたてのごはんと素朴な味わいの料理でなかなかの味だった。少し塩分控えめだったけど。


「ごはんだけはいっぱいあるんじゃ。たんまり食べてくれ」

「はい! この肉は美味しいですね」

「それはじいちゃんが獲ってきた鹿肉」


 脂身がほとんどなく、それでいて肉の味わいが濃くてうまい。

 シンプルに焼いて塩コショウで味付けただけのものだったが、それでごはんが3杯はいける。というかいけた。


「じいさん、狩猟もするのか?」


 ミカゲが興味津々でおじいさんに聞く。

 おじいさんは得意げになって、


「狩猟を始めてからもう30年じゃ!」


 と自慢しはじめて、それからどこの山になにがいるとか、季節によって獲れる獲物が変わり中でも獲るのが難しい獲物はなんだ、と夕食の間ずっと話していた。

 獲物の解体の話もしていたが、ミカゲにとっては面白い話だったようで、夕食中は狩猟の話に花が咲いた。


 タローを横目でみると、生々しい話は苦手だったようで、ごはんと味噌汁をちょびちょびと飲んでいた。おい、干し肉好きならこういう話も聞いとけよ。

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