第27話 SRGM
俺たちは、千波医院の4畳半に戻っていた。
あれから影は何匹か出たけど、簡単に倒してきた。それで、またサクヤたちに出くわすのも嫌だったし、すぐにみんなで帰路についたのだった。
その帰り道はほとんど全員無言だった。
「せっかくいい星空だったのに、残念だったべ」
彩友香は体育座りをしていて、もっと散歩したかったなーとつぶやいている。
ひさしぶりの彩友香の散歩の結末が、サクヤが扮装したゴキブリではいろいろ台無しだろうなぁ。
だが、それよりも気になるのは、タローのバッジである。
「タローさ、そのバッジってなんなの?」
「あ、これですか? SRGMのバッジです。あ、アイディアル・オンラインっていうオンラインゲームのですね、ギルドのバッジなんですよ。ぼ、ボクはそこでギルマスをやらせていただいています。一般のギルド員だとSRGだけなんですが、ぼ、ボクだけはSRGMのロゴなんですよ。一応ゲーム内では最大ギルドになったこともあって、早く復帰したいんですけど、ここの村ではアイディが出来なくて……」
ふーん。って父さんと同じオンラインゲームじゃないか。スタートダッシュがなんたらとか言ってたけど、まだやっているのかな?
せめてキャラ名ぐらい聞いておけばよかったな。
「なんかさ、あのおばちゃん、タローのそのバッジを見て急に態度を変えてたけど、それについてはどう思う?」
「え? そんなことあったんですか? ぼ、ボクはずっとリリスたんの24話目のスコートの色を考察していてよくわかりませんでしたよ」
「そっか。まあ……あのおばちゃんには気をつけたほうがいいよ」
それだけをタローには忠告しておいた。
そもそもタローに言い寄るような女子がいままで出ていなかったから、なんて言っていいのかよくわからなかった。でももし、タローを尊敬のまなざしで見て、惚れまくっているようなら、あの役場職員たちに打開策がありそうな気がする。
タローには生贄になってもらうかもしれないけどさ。
「じゃああたしと桔梗は部屋に戻るから、おやすみなさい」
「みなさま、おやすみなさ~い」
彩友香と桔梗は一緒の部屋で寝ているので、窮屈なここの部屋から早々に退室することにしたようだ。そんな2人に俺は手でバイバイする。
「おやすみ、また明日」
ミカゲはどぶろくをグビグビ飲んでいるし、タローはリリスたんの24話目をコマ送りで凝視していた。なので俺は診察室へいき、シアンと連絡をとることにした。
「もしもし、シアン?」
淡くペンダントが光ったのを確認し、それに話しかける。
「…………」
あれ? まだつながっていないのかな?
「もしもーし! シアーン?」
「…………」
ペンダントが淡く光っているのに反応がない。どうしたんだろう。
「シアーン! 大好きだよ――――」
「……バカマスター」
むう、と怒って口を尖らせているような声で、シアンは反応した。
そうだよな、昨日は連絡取れなかったもんな。待ちぼうけてたシアンが怒るのも無理はない。なのでシアンは、単に拗ねて俺に返事をしなかっただけだったらしい。
「ごめんね、シアン。昨日は夜にミカゲと盛り上がっちゃってさ」
「うむ、それならしょうがない」
あっさり許してくれた。そして、新しい龍の仲間が増えたことをシアンに話す。
「あの子か……魔力は強いがなにか問題があるのでは?」
「うん、そこなんだよね」
桔梗のことをどうやらシアンは知っていたようだった。シアンのすぐ後輩の龍らしくて、300年ほどしか生きていないという話だったけど、魔力が非常に強く、龍族の中では神童と呼ばれていたそうだ。
「まあ女の子同士で、勇者……彩友香って子なんだけど、それと仲良くやっているみたいでさ。桔梗もあとは魔力を自在に使えるようになるだけかな」
うーん、とシアンはなにか考えていたようで、少しの間沈黙する。
「あ、いやすまない。マスターには言っておかないと解決しないからな。あの子は勇者と口づけをすることにより、力が開放される。わたしより強大な魔力だから、開放されたあとあの子は自分の正体を表すだろう。それは――――」
チカチカとペンダントの光が弱くなり、シアンとの通話が途切れた。
そして俺は、桔梗の重大な秘密を知ってしまった。
だけど、その桔梗の正体をみんなに言っていいのか、それとも正体を表すまで黙っておくか、俺には決断が出来なかった。
だから、近くに桔梗と2人きりで話さなければいけないだろう。
「お、シアンはなにか言ってたか?」
ほろ酔い加減でミカゲが俺に聞いてきた。シアンは拗ねてたよ、と俺は茶化すようにミカゲに返事する。
「あ――アガリ屋のネギ味噌ラーメン、食いに行きてぇなあ。酔っ払ってくっと余計に食いたくなるわ」
「だねぇ、4人で行ったときは豪勢に餃子とかたくさん食べたもんね」
俺、シアン、ミカゲと恵奈ちゃんでアガリ屋に行ったときのことを思い出す。
ミカゲは5杯もジョッキを頼むわ、恵奈ちゃんはそんなミカゲを甲斐甲斐しくお世話してるし、シアンはなんとネギ味噌ラーメンをおかわりしたのだ。
そんな俺も餃子2枚をペロッと食べてしまったけど。
「そういやさ、和哉は帰ったら車の免許とれよなー」
「そうだね、あかねんも取ってるし、俺もないと仕事に差し障りが出て来るもんね」
「だな。それと重要な任務が和哉にはあるぜ。それはな……俺の飲み会のときの足になるっていう!」
目的はそこかよ! と今日はちょっとだけ、ミカゲにお酒を付き合うことにした。
桔梗の秘密を知ってしまった今は、飲んでいたい俺だった。
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