第18話 セクシーおっちゃん
「わたしはね、わたしの担当した勇者が鍛冶師だったんだ」
勇者の仕事を手伝っているうちに、ジェードさんも鍛冶の技術を磨いたそうだ。
そしてジェードさんの担当した勇者のサポートが終わってからは事あるごとに、様々な勇者の武器を作っていたらしい。
「お前の剣、それとあんたの大剣2本でこんな髪型になったよ。……いやまあ責めるわけじゃないから気にしないでくれ」
ふふ、と自嘲するジェードさん。
俺たちは謝ることも出来ずに、ただただ申し訳ない気持ちでいた。
「まあ、わたしの勇者は髪の毛が短いほうが似合うって言ってくれたからな。あまり気にするなよ。それで剣の作り方なんだが……」
俺の剣は刀身にジェードさんの髪の毛を巻きつけ、さらに特殊な金属を使い88回叩くことで出来るらしい。ミカゲの剣はジェードさんの髪の毛と、血液、さらに2種類の赤と青の宝石を使用しているそうだ。
「新しく剣を作るときにはいろいろな材料がいる。わたしたちの属性は髪の毛をそのまま使うなら冷属性になり、血は熱属性になるという特徴があるんだよ。だからあの大剣は龍の両方の属性で揃えてある。ま、お前たちの剣については本数が多かったからなかなか楽しかったよ」
コーヒーを3人そろってズズッと音を立てて飲む。
ごうごうと燃える釜の音も、なにか落ち着く要素になっていた。
「今回は2人とも剣を持ってきていないのだな」
「すみません、移動するときに帯剣できなかったもので……」
「だな。アレを持ち歩いてたらマッポに捕まっちまうぜ」
そうか、とジェードさんは言う。
そして俺の持っているハリセンと、ミカゲの持っている袋に目をやる。
「いい提案がある。その持っている武器を自分たちで強化してみないか?」
それは、面白い提案だった。だが……
ミカゲはもうやる気満タンで、袋から物騒な釘バットを出していた。俺はといえば、剣ではなくハリセンである。しかも2014年度カレンダーである。
「ええ、もう少しマシなものがよかった……」
「でもそれなら、常に帯剣できるんだろ?」
は、はい。と俺はジェードさんに返事してしまった。
常に持ち歩いていたらただのハリセン好きな人だろ。というかむしろ超ツッコミマンだと思われてしまうのでは――。
「俺はこれを強化してぇっす! 師匠!」
あれ? ミカゲさん? ジェードさんを師匠と……?
自作釘バットをジェードさんに見せるミカゲ。
「ほう、これは自分でここまで作ったのか?」
「ああ、そうっす」
「この出っ張りの部分に釘の頭があると引っかかるだろう。ここの頭を削って尖らせればもう少し攻撃力があがり、例えば人を殴ったあとでも、髪の毛などが絡まずに次々といけるぞ」
そんな熱意のこもった会話をする2人を目の前に、俺はハリセンを強化することを断れず2人と一緒に武器(?)を強化することになってしまった。
ていうかジェードさん、見た目とは裏腹になにか物騒だよ!
俺は、彩友香がハリセンの持ち手に貼っつけたガムテープを丁寧に剥がした。紙の素材自体を強化し、それを綺麗に折って留め金で止めるという工程を行うとジェードさんから説明を受けたので、その前段階の分解の作業から開始することにした。
案の定、ガムテープを剥がしたあとには、『2014年カレンダー 千波医院』と書かれていた。あ、じいちゃんカレンダー作ってたのね。
そして大量に在庫を抱えて……いや考えるのはよそう。
カレンダーはエロ目なおねえさんの水着グラビア、じゃなくて、
それは、ハリセンじいちゃんと他数名の若かりし頃のセクシーグラビアだった。
何やってんだよじいちゃん。しかも最近カレンダーに仕上げたのかよ!
「よし、折り目を綺麗に伸ばしたなら、刷毛でこの液体を塗り、一度焼くぞ」
ジェードさんに言われ、なにか黒い液体を刷毛で俺は丁寧にカレンダー6枚分と表紙と裏表紙に塗っていく。1月と2月が同じページのデザインなので、表紙の2枚を合わせると全部で8枚である。
「8枚か。いい数だな」
「88回叩くってもジェードさんは言ってましたけど、8という数字にはなにか秘密があるんですか?」
「ん? 龍の数字といえば8なんだ。昔から決まっている」
液体を塗り終わったら、ジェードさんはそのままごうごうと燃える釜にぽいっと紙を突っ込んでいく。木をくべる感じに突っ込んでしまったけど、大丈夫なのかな?
「では勇者。紙を取ってくれ。そこのトングで」
結構な無茶ブリをするジェードさんであった。
なので、俺はあっちいあっちい言いながら紙を取り出した。
紙は焼け落ちてしまわずに残っていた。銀色に変わりシワも歪みもなくまっすぐ平坦になっていて、紙ではなく金属のようになっていた。そして、残念ながらカレンダーの模様はしっかりと残っていた。
「えぇ……柄が消えてもよかったのになぁ」
というかですね、そもそもなんでカレンダーを加工せにゃならんのですか? 別にもっといい金属的なものを加工してもいいし、大前提としてハリセンじゃなくてもいいじゃないですか。と、少しツッコミの暗黒面に落ちそうになったけど、気を取り直してジェードさんに指示を仰ぐことにした。
「これ、柄って消えます? あと属性を添加するとかそういうことも出来ます?」
「柄は無理だ。自分で折り目を工夫してなんとかするがいい。属性を添加するなら自由だから、勇者が適当に決めてくれ」
ガーン! 柄って消えないのか。俺はハンターのおっちゃんたちと、セクシーな感じで彩友香の冒険を手伝うことが確定した瞬間だった。
ちょっと落ち込んだりもしたけど、俺はさらに気を取り直して属性をナニにするか決めることにした。そうだな……。
「これにします」
俺が手にしたのは、小さな枝であった。
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