第29話 材料あつめ

「ミカゲってさ、料理を作れたりする?」



 朝食後、俺はミカゲに打診してみる。


 俺は卵焼きとか焼肉ぐらいなら出来るけどそのレベルの調理スキルだから、誰かパーティ用の食事を作れる人を聞いて回ることにした。

 というか真っ先の候補として手先の器用なミカゲにまず聞いてみる。タローはきっと干し肉を出してきやがるので。


「んー、まあ一通りは出来るけどなんでだ?」

「あ、うん。彩友香の1ヶ月前誕生会をやるって桔梗と約束したんだよ」

「へぇ。まあいいんじゃねえ? 俺にも出来ることがあるなら手伝うわ」


 じゃあ、と遠慮なく俺はいろいろミカゲにリクエストをする。まずはケーキとステーキなどの肉料理。あとはクラブサンドイッチのようなちょっとつまめるものという組み合わせで、スナック菓子などの調理が難しそうなものは外した。


「ちょ、待てよ! それは俺でも無理じゃねえかな。材料も採れるものだけだろ?」

「そうなんだよね。で、ケーキだけでもミカゲは作れないかな?」

「うーん。楓のを手伝って作ったことはあるが……」



 楓とはミカゲの4つ下の妹である。結構あの子もキツイ性格なようで、ミカゲのことを顎で使う数少ない人物である。バレンタインで告白するために、楓ちゃんはミカゲに手伝わせてケーキを作っていたそうだ。玉砕したらしいけど。


「まあ一応、必要な材料を書き出してみるわ」


 居間のちゃぶ台でミカゲはサクサクとレシピを書いていく。分量はとりあえず考えずに何の材料を使うだけかを書いてもらうことにした。




「へー。何を作ってるんだ?」


 彩友香が洗濯物を干したあと、俺たちの行動をジロジロみてきた。

 ここは内緒にするんじゃなくて彩友香も巻き込もうという計画である。なので、それなりの理由をすでに考えてあった。


「いやさ、せっかく桔梗と出会えたんだし、ちょっとしたお祭りじゃないけどさ、パーティみたいなものをやってもいいかなって思ってるんだ」

「わ、それ……あたしも参加していい? 楽しそう!」



 よし、掛かった……!


「彩友香が手伝ってくれるなら百人力だよ。このパーティのことは桔梗には内緒で進めようぜ」

「う、うん。サプライズパーティーだべ!」


 ウキウキしながら、彩友香は俺たちの計画を聞いてくる。

 パーティに参加するのは、俺、ミカゲ、タロー、彩友香、桔梗の5名である。


「カップケーキかホットケーキなら出来るべ。生クリームは……牛のばあちゃんのところに聞いてきてみる!」



 どうやらからくり屋敷の近くに牛を飼っている家があって、そこにいるばあちゃんから牛乳をもらったりしていたらしい。

 ウキウキと彩友香は出かけようとし、1人では危険なので俺たちもついていこうとしたときに、ハリセン……いや源蔵じいちゃんにお礼を言われた。


「彩友香がこんな生き生きと過ごしているのは久しぶりじゃ。ありがとうな」



 彩友香は以前、ずっと沈み込んで部屋にこもりっぱなしでテレビを見ていた生活をしていたらしい。やっとからくり屋敷という面白い場所を見つけ、だんだん外にも興味が出てきだした頃、俺たちに会った。それからは毎日のように出かけたりするようになったとのことだった。



「このままの生活が出来ればいいんじゃが……君たちは北の山がどうにかなり次第、自分の故郷へ帰ってしまうんだろう?」

「ば、ばかじいちゃん! まだそんなこと……」

「いいや、彩友香。いずれこの者たちとは別れなくてはならないのじゃ。今から辛いけどそのことは考えておくのじゃよ」


 そのじいちゃんの言葉に返事をせずに、彩友香は俺たちを引っ張って外に出る。



「……さ、行こ」


 俺とミカゲ、そして彩友香は静かに道中を歩く。空は雨が振りそうなぐらいの曇った空だった。




「ばあちゃーん、いるけー?」


 からくり屋敷からちょっと離れた場所に、牛を飼っている家があった。柵で囲われた牛が暇そうにあたりの草を食べている。


「はいはい。サユちゃんかい?」

「あのさ、ばあちゃんに頼みたいんだけど――――」


 生クリームもバターも、チーズもあるよ、と言って牛のばあちゃんは彩友香にその3つと牛乳をたくさん手渡した。重そうなので、俺たちも手伝う。



「趣味で作っといて役立つとは、よかったわ」


 今は牛乳を村の外に出荷ということが出来ていないので、自家消費のために生クリームやバターを作っていたらしい。チーズは2種類あって、普通のチーズっぽいのと、ガーゼにくるまった真っ白なチーズをもらった。


「ありがと! ばあちゃん」

「いいんだよ。その材料を使って何を作るんだい?」

「ケーキとサンドイッチって言ってた」


 ばあちゃんはなにか考えると、


「ほれ、玉三郎さんちの嫁さん、パン作るのが上手でなあ。あそこにも寄るといいよ。しょっちゅう作ってるからパンは余ってるんじゃないかなぁ」


 いい情報を入手した。

 ていうか玉三郎さん、お坊さんなのに嫁さんいるのかよ。

 いろいろ突っ込みたいことはあったが、それよりパンの入手が最優先だ。




「俺に何のようだ?」


 カッコつけて玉三郎さんがお寺の本堂から出てくる。

 俺はすぐに玉三郎さんじゃなくて嫁さんに用です。と言おうと思ったが、彩友香はなにか考えがあったようで、


「玉三郎さんちにある鎮守神さまの像が見たいんです」


 と玉三郎さんに言った。


「そうか、巫女なら気になるもんなぁ。フッフッフ」


 と謎の笑いをしながら、玉三郎さんは俺たちに手招きをする。

 本堂は割と立派で、金ピカのものがたくさん置いてあったが、そちらには鎮守神の像はないそうだ。


「こっちだ」



 本堂の建物から更に山側のほうに向かって竹林があった。そこの途中まで歩いていくと、静かな場所にひっそりと小さなお堂が建ててあった。今日は曇りのせいか、鬱蒼とした森だったけど、晴れてたら笹の葉の間から程よい陽が当たって気持ちがいいところなんだな、と思わせるところだった。


 中には立派な尻……いや、イケメンな男性の像が立っていた。からだはケツプリさんによく似ていたが、顔はどことなく桔梗に似ていた。



「これだべか……」


 彩友香はぐるりと像を見て、そのあと拝む。

 しばらくの時間を経て、彩友香は吹っ切るように俺と玉三郎さんに言った。


「あたし、桔梗とこれからかなり厳しい戦いに行かなきゃいけないってケツプリさんに教えてもらった。戦いがものすごく大変で辛いことになるって言ってたから、少し怖かったけど……」



 一呼吸置いて彩友香は


「桔梗歓迎のパーティのあとは、鬼武帝を倒しに行く」



 そう彩友香が言い出したと同時に、雷と共にポツポツと大粒の雨が降り出した。

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