第50話 終わりで始まり

「ふ、まだ終わらんのか? それで自称ライバルとは聞いて呆れる」

「きいいい! その発言、後悔させてあげますわ!」



 どうやらシアンと桔梗は、母さんの手伝いということで、かぼちゃの収穫を競っているようだった。

 果物箱に入ってるかぼちゃの数は現在、シアンが10個、桔梗が8個である。


 そんな俺は出向が思ったよりも早く終わったので、1週間の休みを取っている。なので、収穫の手伝いをシアン、桔梗と3人でやっているはずなのだが……。



「マスターは手を出さないでください。これは龍族としての試練なのです」

「そうですわ! 和哉さまが手伝うというなら、わたしは彩友香さまを急いでよんで参ります!」


 負けの気配が濃厚な桔梗は、ダッシュして彩友香を呼んでこようとするが、俺はその首根っこを掴み桔梗を止める。

 だって彩友香が来たらまた面倒なことになるだろうし。



「俺は手伝わないから、お2人でゆっくりどうぞ」


 そう言って俺はシアンと桔梗が一生懸命に収穫しているところをボーッと見る。桔梗の作業着は淡いピンク色。桔梗が「シアンになんか農作業は負けられませんわ!」と言ったら、母さんが喜んで一通り用意したものである。



「和ちん、ひょっとしてサボってる?」

「あ、いや。あの2人が競争するから、俺は手を出すなって」

「ふーん」


 そう言いながら彩友香は俺に腕を絡めてくる。


「ちょ、やめて――!」


 するっと俺は逃げるけど、バッチリ2人には見られていたようだった。シアンも桔梗も揃ってジトっとした目で俺を見る。


「マスター?」

「覚悟はよろしいですか?」


 ひぃ――!

 2人の龍族に睨まれた俺は蛙のようだった。

 そして犯人の彩友香はどこ吹く風である。



「……お主も災難だな」

「あっ! 魔王! 助けてぇ!!」


 魔王の小さな身体に隠れようとするが、物理的に無理である。だから俺はふわふわの魔王に頬ずりをして、ちょっとだけでも現実逃避を図る。


「マスターはわたしのもの、だからな」

「彩友香さまもわたくしのものですわ!」



 ……この2人、実は相性がいいんじゃないか?


 揃って俺に怒りだす龍族娘は協力して俺をやっつけようとするものの、途中で仲良くしているのに気づいてハッとする。


「わたしはわたしでマスターに言い聞かせる」

「そ、そうですわね。あたくしも彩友香さまに必要以上に近づかないよう、お話しておきますわ」


 仲良くなるのはいいけど、そのために俺を槍玉にあげるのはやめてよね。



 *



「よぉ、和哉」


 ミカゲと恵奈ちゃんが遊びに来た。どうやらシアンが以前にご馳走になったのでそのおかえしで、シアンが料理を作りミカゲと恵奈ちゃんに振る舞うようだった。



 そして今日は12月8日。彩友香の誕生日である。


「マスター、あまり彩友香と仲良くするのは不服だが、誕生日は特別だ。ただ顔をたるませたりしたら……分かってるな?」

「はい、シアン様……」



 そこにミカゲがやってきて、シアンにありがたい忠告をしてくれた。


「おうシアンよー、あんまり和哉をいじめるなよ? 女は追うより追われるほうが幸せなんだぞ?」


 そんなミカゲに、シアンはどうやったら追われるようになるのかを質問していた。


「そうだなー、1度離れてみるっていうのはどうだ? 恵奈んちに下宿するとか、いいんじゃねぇか?」


 ミカゲがへんなことを言い出した。


「それはダメだ」

「いい! それ採用だべ!」


 さくっと否定したシアンにものすごい顔で睨まれる彩友香。

 だけど彩友香は平然としていた。ハートが強すぎる。



「まあ、争いはそのぐらいにしてください。彩友香さん、これ、わたしが作ったケーキですが食べてくださいね」


 恵奈ちゃんがおずおずと出したケーキはなんと、3段重ねのウェディング用のゴージャス仕様のケーキだった。


「すげぇ……」

「恵奈のケーキはうまいからな」

「あ、ありがとうだべ! 恵奈っちはすごいなぁ」

「こ、これはあたくしと彩友香さまがケーキ入刀、という意味ですわね!」



 シアンは何度も味わっているので、想像だけでほっぺたがとろけそうな表情になり、よだれをじゅる、と鳴らした。


「む、つい顔がたるんでしまった……」


 きりりと顔を作り直したシアンだったが、よだれはそのままだった。



「さてと、和ちんに聞きたいんだけどさ、あたしのことはどう思ってるんだべか?」


 彩友香がケーキを食っている俺に質問する。

 あわてて口を押さえたから、ケーキは噴き出さなかったけど、隣にいるシアンはものすごい顔で彩友香を睨み、俺の脇腹を突きながら言う。


「正直に答えてください。マスターの気持ちを」



 先ほどのミカゲからの忠告が効いたのか、シアンはおとなしくしている。


 興味津々で俺を見つめてくるのは、彩友香と恵奈ちゃんだけ。シアンは彩友香を睨んでいるし、桔梗は俺を睨んでいる。ミカゲはビールをおかわりしていた。もう5杯目である。



「マスター? 早く、答えてほしい」


 シアンの発言に押されて、全員で俺をみる。

 そんな俺は……女子4人の目線には耐えられなかった。



 勇者逃走とんずらで逃げようとしたら、がっちりとミカゲに抑えられた。


「そろそろ観念しろよ、和哉」


 い、いやだぁぁぁぁ!!!




 そのとき、俺のペンダントの宝石が青くまばゆい光を放ち、そこからドラジェさんが出てきた。



「和哉さま。火急の用事ができたのでいきなり現れてしまい失礼なのですが……都会に穢が現れて、この国の要が穢に占領されました。したがって日本中が穢の結界に覆われています。なので彩友香さまとその子らも一緒に来てください。どうか……お願いします」



「…………またか――い!!」



 おしまい。




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田舎ファンタジアの世界へここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

感想や応援に支えられて、自分の想像以上のものになったと思います。


スピンオフを近いうちに投稿する予定ですので、シアンの心の中やドラジェさんとジェードさんの関係が気になる方は、再びおつきあいくだされば嬉しく思います。


本当に、ありがとうございました。


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田舎ファンタジアⅡ 東江 怜 @agarie

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