第44話 五月雨
「配置についたかな――!?☆」
いもざえもんたちは、それぞれの位置に移動完了したらしい。グッと親指を立てたポーズを3人が取る。
その様子はリリスたんに「グッドラック!」と言っているようだった。
「よーし☆ じゃあいっきまーす☆」
すうっとリリスたんは深く息を吸い込み、必殺技の名前を大きく叫ぶ。
「クロスオーバーラップ☆エターナルスクエアドリームアタ――――ック!!」
リリスたんはいもざえもんたちが作った、とある特殊なフォーメーションを取った上に乗った。その様子はあの伝説の……
「騎馬戦じゃね――――か!!!」
そりゃ先頭はケツプリさんだから攻撃力は強いだろうよ……。
そう思っているうちに、リリスたんの乗った騎馬は鬼武帝に突っ込んでいく。リリスたんの持つステッキはジェードさん特製の杖。それで鬼武帝がかぶっている仮面2つを剥がし、とったどー! と叫ぶリリスたん。
杖を器用に使ってるなぁ。
「よし、もう貴方は終わりよ☆」
そら騎馬戦では相手の鉢巻を取ったら終了だろうよ。
その鬼武帝の仮面がカツンと音を立てて落ちたあと、リリスたんといもざえもんたちは騎馬戦モードを解除し、ハイタッチを行っている。
「よかったいも! いきなりの技だったけど無事に決まったいもね!」
「うんうん☆ みんなの息もばっちりだったよぉ☆」
ふと見ると、1体のいもざえもんは屈んだポーズで膝に手を置き、ぜいぜいと息をしている。あ、そろそろ1号の活動限界かな。
「1号が行動不能になったので、これにて我々は去るが、あとはがんばってくれたまえ! ヌオッ!」
といもざえもんたちを代表して、中身がケツプリさんな3号がぺこっと挨拶し、すうっと消えていく。
その途中で「彩友香くんも頑張ってくれたまえよ!」と激励していたけど。
タローはリリスたんの変身がまだ解けていない。
そして落ちた仮面を拾おうとするが、桔梗に「ダメです!!」と制止される。その言葉にハッとリリスたんは動きを止め、ボフンと音をたてタローに戻った。
「その仮面に鬼武帝の全ての魔力が詰まっています。なので触ると危険です!」
仮面の取れた鬼武帝だったものは、影をあたりに撒き散らかして形を失っていくが、落ちた仮面の周りには再びもやもやと影が集まっていき、さっき鬼武帝が変身していた、かよちゃんを形作る。
「準備が……出来たべ」
目をつぶり精神統一をしていた彩友香が、まばゆいほどの青白い光をあたりに撒き散らしている。
「かよちゃん。屋上で手を掴めなくてごめん。あたしがかよちゃんの手を掴んでたら、間に合ったのかな?」
ふっとかよちゃんは自嘲げに笑い、そして言った。
「さゆちゃんはほんっとにお人よしだね。わたしの手であいつにさゆちゃんを付け回させたのにさ」
「うん、それは知ってた。あいつがあたしを襲おうとしたときに、白状したんだ」
その言葉にかよちゃんは薄ら笑いをやめ、ギロリと彩友香を睨む。
……それが、かよちゃんの本性だった。
「ぜーんぶ知ってたんだ……そっかぁ」
「ごめんね。かよちゃん。それでもかよちゃんとは親友でいたかったんだ」
「わたしは、あんたなんか……」
わなわなと口を震わせたまま、かよちゃんは口ごもる。そこに柔らかい言葉を彩友香がかける。
「……今までごめんね。もう遅いけどさ、ゆっくり休んでほしい」
彩友香が両手に持っている苦無が青白く光り、彩友香はダッシュしてかよちゃんに向かった。
その姿は青い2本の矢だった。
「忍法
そう彩友香が言うと、かよちゃんにぶつかる前に天高く飛び上がり、そして落下する。光が残っている間に何度もそれを繰り返し、かよちゃんの身体は青白い雨に溶ける砂糖菓子のように消えていく。
「ありがとう……さゆちゃ……」
かよちゃんが消えたときパキッとなにかが割れる音がし、その仮面から金色の光が溢れ出し、あたりの影を祓っていく。
割れた仮面をミカゲとタローがぐしゃぐしゃに踏み潰し、粉々になったのを見て、全てが終わったことを実感する。
渦になっていた影は半数ほどが祓われ、穢脈があらわになる。
「別の空間に来たかと思ったけど、ただの地底洞窟のようなものだね」
鍾乳洞とは違う、地層が見えるような自然洞窟だった。
「さーて、こっからどうやって戻るんだ?」
ミカゲが言うが、その直後、残っていた影が再びなにかの形に変化する。
「ちっ、往生際が悪いな」
影が全て集まり、真っ黒な龍の形になった。
それを悟ったような顔で、桔梗が見上げて言った。
「ああ、わたしの役目ですね。下がっていてください。彩友香さま、どうかみなさまを術の力で護ってください」
桔梗はゆっくりと人化を解き、龍の姿へと変わり、咆哮する。
それに呼応するように、黒い龍……鬼武帝だったものが大きく啼いた。
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