第14話 開かずの扉
「こっち! 早く! なにやってんだべ!」
張り切る彩友香に、俺たち3人はノロノロと後をついていく。
「くっそ、飲みすぎたぜ……あの焼酎の度数が35%だったとはなぁ」
「ぼ、ボクは昨日2時間しか寝ていなかったんですよ。2時間!」
二日酔いで酒臭いミカゲと、なぜかどやっとした顔のタロー。
俺はしっかりと眠れていたんだが、2人に付き合ってゆっくり歩いている。
「タフマンねーのかよ……もう俺のパワーはねぇわ……」
ミカゲがへなっとする。
そのへなっとしたミカゲの尻を、彩友香がバシッと叩く。
「ほら、なにやってるんだべ! 怖そうな外見なのになさけねーべ! それに朝ごはんもちゃんと食べてないし、だからパワーが出ないんだべ!」
朝ごはん。
塩むすびとお新香、それと豚汁の残りだったけど、おいしかった。ミカゲとタローは昨夜の不摂生のおかげで食欲がなく朝ごはんをパスしていたので、彩友香にむりやり手土産風のおにぎりとお新香を持たされている。
千波家のルールでは「残しちゃダメ」が決まりのようだった。
徒歩で30分ほどのんびりと歩いた、集落から外れた北の山の麓にそのからくり屋敷はあった。集落のどの家よりも大きくて、古いけど綺麗な建物であった。
「ここだべ――!!」
彩友香のテンションがうなぎのぼりである。
門が倉庫を兼ねているらしく、からくり屋敷の立派な門のところには、簡素な受付があった。
「あ、サユちゃんいらっしゃい。毎日よく通うねぇ」
「うん! 目的があるから!」
小柄なおばあちゃんが受付に座っていた。ふふふ、とわらった受付のおばあちゃんに、彩友香はジャージの襟元からゴールドに光るカードを取り出して見せる。
さながらその彩友香の様子は、会社の社員が社員証を受付に見せている感じであった。そしてなぜか見せている間、こっちを振り向きしっかりとドヤ顔をする彩友香。
「はい、年間パス確認したから、入っていいよ。そっちの人らも無料でいいわ」
本来なら入館料として500円取られるのだが、彩友香パワー……ゴールド年間パス効果により、俺たちの入館料が無料になった。
屋敷内に入る。
昨晩、シアンから説明を受けていた場所はここのはずだ。
俺が昨日のシアンとの会話を思い出していると、先に歩いていた彩友香が俺たちを振り返って言う。
「ここさ、秘密の部屋がもうひとつあるんだけど、どうやっても開かないんだよね。開かずの扉ってあたしは言ってるけど、村の誰も入ったことがない場所があるんだ」
しゅんとしながら彩友香は言い、そのあと急に張り切りだす。忙しいな。
「だから今日こそはっ! 諸君らにも手伝ってもらい、開かずの扉を開けることが目的であるべ! そしてそこに眠っているお宝を我が物とするのじゃー!」
「あ、ボクそれ知ってます! リリスたんの組織のボスですよね!」
うむ、とタローの発言に大仰に頷く彩友香。
「そ、そうだ! ボク『マジカル☆リリスたんトキメキDVDボックスセット』を持ってきているんですけど、あとで一緒に見ませんか?」
えっ! と彩友香は目を異常に輝かせている。が、そのあとブンブンと頭を振り、我に返る。
「その話はまだいい。まずは開かずの扉の解明をするんだべ!」
と彩友香隊長に引きずられるように、俺たちはからくり屋敷へと入った。
ミカゲは窓口のおばあちゃんからオロナミンDをもらっていて、
「コレじゃねえんだよおおおお!」
と残念がっていたけど。
中はかなり凝ったからくり屋敷であった。
刀を持ち上げると隠し部屋の扉が開いたり、忍者屋敷といえばコレ! という回転する壁などが昔の技術で作られていた。その仕組みは動かしても、きしむことはなく綺麗な状態で残されていて、とても楽しめる屋敷であった。
彩友香はすらすらと、その仕組みの全てを俺たちに見せてくれる。
「こっちに茶を置くとな、そこの小窓が開いて隠された戸棚が出て来るんだべ!」
彩友香の説明を聞きながらミカゲとタローはお腹が空いてきたのか、朝ごはんのおにぎりをもりもり食べていた。
そして、大はしゃぎの彩友香を改めてみると、やっぱりやたらと子供っぽい。からくり屋敷に夢中になるところとか、リリスたんに食いつくところとか。
「そういやさ、彩友香って歳、いくつなの?」
忍者っぽい小刀を彩友香が熱心に説明していたときに、俺は聞いた。
「握ったときの感じがフィットして……え? 歳?」
ぽかんと俺の顔を見る。
そして頬を桜色に染め、彩友香はボソッと言う。
「は、二十歳だけど……ま、まさかあたしのことをまだ未成年だと思ってたか!?」
頬を染めたまま、じろりと俺を睨む。
「い、いや…………すみません」
女子に年齢を聞いてはいけないことだったらしい。気をつけよう。
そんなことをやりながら俺たちは例の、開かずの扉の前へと来た。
「いよいよだな和哉」
「うん、もしかしたら彩友香が……忍成村の勇者かもしれない。ただその前に開かずの扉を開けないといけない」
扉は、なにか異様なオーラを放っているようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます