第23話 龍族便

「あ、はい。サインでいいだべか?」


 あっさりと彩友香が宅急便を受け取った。


「まいどあり~」


 エメラルドグリーンの配達員の兄ちゃんは、帽子を取りながらペコッと挨拶し、そのまま消えた。


「ええ! き、消えた!!」


 俺は腰を抜かすほど驚いたのだが、他のみんなはかなり落ち着いていた。

 ミカゲは飯をおかわりしに行っていて配達員を見ていないし、タローはステッキをワクワクしながらいじっていたので、正確には女子2人だけが落ち着いていた。


「だってあれは、龍族便ですもの」


 桔梗があっさりと言い、宛て名を指差す。

 そこには『千波彩友香 様』と書いてあり、送り主はドラジェさんであった。あ、そうかジェードさんの強化が終わったんだ。

 でもさ、お届けって本当に宅急便っぽいやつなのかよ! っていうか龍族便って普通にそんなのがあったのかよ!


 そんなところに俺がツッコミをいれている間に、彩友香は荷物を開けていた。


「うわあ……素敵だべ!」


 そこには黒光りする、忍者の武器がずらりと揃っていた。




「いやあ、鎮守神さまがまさかうちに来てくださるとは!」


 全員そろった晩酌タイム。

 ハリセンじいちゃんはめったに開けないお酒をミカゲと飲んでいて、かなり上機嫌であった。もう桔梗を見ても気絶はしない、が、お酌をするだけでやたらと恐縮しているので、そのうちミカゲと2人でぐいぐいやりだしたようだ。


「彩友香さまって素敵ですね。だってこんなに美味しいお料理をさらっと作ってくれるんですもん」


 桔梗が料理を運びながら、彩友香の腕前に感心していた。なぜなら彩友香は一人で夕食を切り盛りしていたからだった。

 あまりにも彩友香の負担が大きそうなので俺も手伝おうとしたのだが、


「男子禁制! 台所には入るべからず!」


 としっかり断られてしまった。


 そんな今日の夕食はイノブタの味噌漬けがメインで、いも系の天ぷらに山菜の出汁煮とたくさんのご飯にシンプルな味噌汁という感じの素朴感あふれる夕食であった。

 中でもハンター会長の持ってきてくれたじゃがいもの天ぷらが絶品で、お腹がパンパンになるほど食いすぎてしまった。だって、フライドポテトにサクサクの衣がついたものだもん、食べちゃうよね。



 次の日。

 朝はやっぱり早く起こされた俺は、彩友香に技と連携を試すような広い場所はないかと訪ねた。ミカゲは「どぶろくが効いたわ……」といって完全にグロッキーだし、タローは夜中までリリスたんを堪能していた様子でまだ寝ているし。


「うーん、去年休校した小学校の校庭かなー」


 お、いい感じの広さがある場所だ。


「じゃあそこにいって今日は忍術の練習をしようぜ」

「う、うん!」


 俺と彩友香、それと桔梗の3人で校庭に行くことにした。


「ところでさ、彩友香はじいちゃんの仕事を手伝わなくていいの?」

「大丈夫。前からほとんど仕事らしい仕事はなかったんだべ。それにお給料も出てないから、住まわせてもらってるのと料理つくるのが仕事みたいなもんだべ」


 あ、だから男子禁制とか言って彩友香1人で頑張っているのか。そう考えると、大学時代の女子より彩友香は苦労しているんだなぁ。


 やたらと褒めたくなった俺は、彩友香の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。ミカゲもこんな気持ちでシアンのこと、撫でてたのかな。

 まあ、彩友香が「やめろー!」とかいうのも、お約束だけど。


 そんな俺たちを桔梗はじっとりとした目で睨んでいた、と思ったらギュウと彩友香にしがみつき、


「彩友香さまはわたしのものですからっ! 離れてください! この野蛮人っ!」


 え、ええ――。



 そんな会話をしながら歩いていたら、あっという間に小学校へついた。

 とはいえ村は小さいところなので、歩いても5分程度だけど。


「さ、さて……! 忍術の練習って、いろんな技を開発するのか? 楽しみだべ!」

「あ、いやそうじゃなくて、まず効果が出る武器があるかどうかの確認と、桔梗の役割について確認したいんだよね」


 と、俺がやりたいことを彩友香に伝えると、一気に萎れる花のように彩友香の元気がなくなった。


「うう……、やっと忍術のことがわかってくれる人がいると思ったのに」


 そうか。彩友香は忍術大好きだったけど、みんなには理解されていなかったんだろう。だから俺の誘いにすぐ乗ったし、さっきまでテンションが高かったんだろう。

 ……しょうがない。


「新しい忍術も考えよう。もしかしたらすごく役に立つものが出来上がるかもしれないし」


 あかねんが自分の技をオリジナルに改造できたし、彩友香の場合はステータスに縛られないだけ、自由な発想でいろいろな技が生まれそうだ。


 その言葉に彩友香は「はいっ! がんばります!」と返事し、まずはダンゴムシから練習することにしたようだ。

 俺はその間、自分の魔法が使えるかどうか試してみる。


「アイスブラストっ!」


 校庭いっぱいに六花が舞う。やはり結界内ではきちんと自分の呪文が使えるようだった。ということはタローもいもざえもんを召喚できたり、リリスたんに変身できるということだった。


「す、すげ――!! でも寒いっ!」


 ダンゴムシから声が聞こえる。寒さでさらにぎゅっとダンゴってる彩友香の周りに透明な六角形の壁が出来上がっていく。


「あ、彩友香も忍術が成功してるっぽいよ」

「ほ、ほんとけ!?」


 彩友香が確認しようとしてダンゴ状態から顔を上げると、すうっと術が解けてしまった。これを確認するのは無理だろうな。


「うーん、ダンゴムシの術はいいとしてさ、他の術を試すのと武器の性能も見たいなぁ。手裏剣とか投げられる場所があるといいんだけど」


 と俺が何かないかと、体育倉庫室に行こうとしたそのとき。


「俺にまかせな……」


 そこには逆光で誰かは確認できなかったが、1人の男性が立っていた。

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