第48話 復旧
俺たちが忍成村に滞在したのは、おおよそ2週間。
龍脈から戻り、からくり屋敷を出たところで待ち構えていたのは、紫さんだった。
「ねぇ、早く田舎村につれていってよ。もう待ちきれないわ」
紫さんはそのあと俺たちを招いて、からくり屋敷のばあちゃんのところで食事を出してくれた。そんな紫さんの腕前は恵奈ちゃんレベルで美味しい料理だった。疲れきった俺たちの胃を、美味い料理で癒やしてくれたのだ。
「そりゃやるときはキメるわよ。学生時代はレディースで番、張ってたしさぁ。……でもね、オンラインゲームだと可愛い女の子とかエルフを演じられるのよね。あの快感が辞められなくてでこんな歳になっちゃったけどさ、これから育三様の元に嫁ぐから結果良しよ!」
通りでヤンキーっぽいところが抜けきっていないのか。
そのとき、ミカゲが小さなメモ紙を紫さんに渡す。
「わりいな。まだ車が直ってねーからよ。先に行っててくれ。それ、育三ちゃんちの住所と電話番号な。一応俺から連絡しとっけど、途中で連絡をいれてくれ」
わ、わかりましたわっ! と、元気よく紫さんは去っていく。
アレはもう、今すぐ育三ちゃんちに押しかけるだろうな。
俺たちが紫さんの料理をごちそうになって、からくり屋敷から帰ってきた頃には忍成村の電話も復旧し、俺たちもやっと田舎村の人たちに連絡が取れた。
「え! もう忍成村の異変の原因を突き止めて治しちゃったの!? 鈴成くんは仕事が出来るなぁ。それでさ実はまた別のところからも依頼が来てるん……」
と大和田課長がなにやら話している最中に、電話を切ってやった。
少し休みぐらいくれよな。
青年団が戻ってきたことにより、閉まっていた整備工場が開いたので、そこでミカゲの車のパンクを直してもらった。
それにより、俺たちの帰る目処がついたのだった。
「よし、決めた!!」
彩友香はダダっと診察中の源蔵じいさんに駆け寄り、そしてお願いをする。
ちなみに患者はハンター会長で、腰を痛めて診察に来ていたらしい。
「じいちゃん! お願いがある! あたしも和ちんたちと一緒に田舎村に行く!」
その直後、ハンター会長からごきり、というすごい音と、若干遅れて会長の悲鳴が聞こえた。
「ば、ばか! 診察中に私事を話すな! ……あとで聞くわ、んなもん」
*
「そうか、明日帰るんじゃな? いろいろと世話になったが、まだなにも返しておらんのになぁ。ありがとうな」
乾杯しながら、源蔵じいさんが言う。
ついでに今日はハンター会長と玉三郎さんも同席して、ちょっとした飲み会になっていた。
「そう言えばホッホッホッって笑う方もハンター協会に入っていませんでした?」
「む、それは佐助じいさんだな」
ハンター会長が源蔵じいちゃんを小突く。
「……わしの父親じゃ。つまり彩友香のひいじいちゃんじゃな」
懐かしい目をして源蔵じいさんは話す。
「昼間は医者、そして影の稼業で忍者をやってたとか、好き勝手なことを言いおったじいちゃんだったなぁ。そういや勝ち気なところが彩友香とよう似とったわ」
「え、あたし佐助じいちゃんの顔、知らない」
結構長老っぽかったよ。おだやかそうだったし。
と俺は心の中で思う。
でも、2014カレンダーにはくどい顔で、体毛がもっさりな男性が載っていたのだった。あれぇ?
「忍法:毛遁の術、なんて冗談を言ってたからなぁ。面白いじいちゃんだったわ」
そしてしばらくみんなでわいわいと飲む。
今日の彩友香は飲むとすぐに酔ってしまうので、お酒を控えているようだった。
ハンター会長と玉三郎さんが帰って、源蔵じいさんと俺たちで再び飲み直す。俺も今日こそは記憶がなくならないよう、ちょびちょびお酒を舐めている程度だ。
「彩友香、ここに座りなさい」
片付けをあらかた終えた彩友香は、源蔵じいさんの前に黙って座る。
源蔵じいさんはぐいっとどぶろくを飲み干し、意を決して話す。
「よかろう。ずっとこの村に居ても勉強にはならないからな。それにもしもまたストッカーにあってもその者たちが護ってくれるんじゃろう? わしじゃもう彩友香のことは守れんからな」
そう言って、源蔵じいさんは俺の目を見る。
俺はその視線に対し、しっかりと頷いた。
……まぁ、この場合こうするしかないよね。正直、半分以上ノリだったけど。
「あ、ありがとう。じいちゃん」
そして彩友香は明日、出発するための準備をするのに、自分の部屋へと戻った。その彩友香に桔梗も「お手伝いしますっ!」とついていった。
そんな彩友香を見て、源蔵じいさんは「寂しくなるなぁ」とつぶやいていた。
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