新章
第1話 カローナの迷い
ヤッホー!私イサベラ!可愛い防御魔法が得意だよ!
え?やって見せろって?
じゃあ見ててね『
ほら!見て!この可愛い子豚ちゃんみたいなしっぽ!・・・しっぽ?
・・・・・・。
「ぽぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ!」
いつもの教室、とんでもない悪夢から、乙女にあるまじき叫び声をあげながら目が覚めた。
相変わらず、夢の中では若干ぶりっ子なのが自分でももだえるほどきつい。
いつものイザベラなら、このまま夢の世界へ逃げ込み、そこで幸せに暮らしたかもしれない。
だがしかし、今は違う。
悪夢に落ち込んでいるだけだった以前のイサベラとはもう違うのだ!
可愛い防御魔法だって!あとは兎に角おしゃれで、なんかこうキラキラした『骨』さえあれば、うまくいくはずなのだ。
親友だっている!しかも二人も!
「イサベラ・・・。」
「イサベラさん・・・。」
そう!このエミリアとゴニアの二人だ。
眠気を誘う昼下がりの校舎。
その大親友のうちの一人は、滅多にない「崇高なカローナ先生の授業~♡」をイサベラの奇声で邪魔されたうえに、「寝ていた」という許しがたい不敬に対して、怒りのあまり眼輪筋をピクつかせている。
もう一人の大親友は、まだよだれさえぬぐえていないイサベラの醜態を、何とか見なかったことにしようと、顔を真っ赤にしながら必死で眼をそらしている。
「何かあったのかしら?イサベラ?」
壇上では、冷たく目を細めたカローナがイサベラに問い掛けた。
「あふっ!あの!悪い夢を見て・・・、びっくりしてしまって・・・。」
「(* ̄- ̄)ふ~ん、どんな夢かしら?」
「か、可愛い防御魔法を使う夢です!」
「ほう・・・、ちょうどここに、
何と!悪夢は正夢になりそうだ!
切り上げられた授業の後、カローナとアイリスの厳しい叱咤と、ゴニアの優しい励ましの中、イサベラは
特訓は長く続いた・・・。エミリアたちも帰り、イサベラの術の掛け声がうっすらと涙声に変わるころ、意外な訪問者によって練習は中断された。
教室の扉の前にその姿が見えたとき、イサベラはもちろんカローナでさえ緊張で身に力が入った。
「カローナ先生。」
教室の扉に女性が立っていた。
エミリアのきらびやかな金髪とはまた違う、陽光のような暖かな髪、控えめに輝く黄色いローブ。しかしその魔力は一介の術士のものではないことはすぐにわかる。
陽魔法の教師、回復魔法なら随一と言われる『
「魔法の指導中のところ失礼いたします。校長がお会いになりたいとのことです。」
カローナたちの緊張には微塵も反応せず、ソリスは淡々と要件を告げた。ソリスは陽魔法の教師と校長の秘書官を兼任している。
カローナは「ふう」と深いため息をついた。
王都に大事件を起こしたアイリスの件で、病床の校長はいつも以上に沈んでいると聞いている。校長はカローナを魔法学校に呼び入れることを反対を押し切ってまで決断するほどの、寛容と慈愛の人物だ。だからこそ、その悲しむ顔は出来れば見たくない。
しかし、そうはいっても会わないわけにもいかないし、引き伸ばすこともできない。校長はもう長いこと病床でふせっており、比較的に症状が穏やかになった時にしか面会はできない。すでに引退時期が調整されているという噂もある。
「イサベラ、今日の授業はここまでよ。先に部屋に戻っていてちょうだい。」
イサベラはカローナの沈鬱な空気を察しながら、「はい」と小さくうなずくと、ソリスにも小さく頭を下げてから駆けて行った。
「では・・・。」
イサベラが駆けていくのを見届けると、ソリスはカローナをうながしながら、廊下を歩き始めた。
魔法学校は意外と広く、校長の部屋までは遠い。放課後の校内は静かだったが、まだちらほらと学生たちがいる。
その学生たちもソリスとカローナに気が付くと、すれ違わぬように遠目から距離を取った。
普段のソリスは生徒たちに人望のある、癒しの術の使い手であり、話しているだけで癒されるという学生も多い。死霊術に対する信念は、嫌悪ではなく、その術の広がりと、使い手の暴走を懸念してのことだということも知られている。そのソリスが『
校内を歩く陽と月(死)。光と
歩きながら、その暖かい色のソリスの揺れる髪をカローナはじっと見つめた。
イサベラには「お友達大作戦」とか言っておきながら、自分はこの
アイリスのことがあってから、ちょっとしたことで気分が沈みがちになる。これでは名実ともに『陰気』な女になってしまう。今まではそうならないように、陽気にふるまうよう努力もしてきた。しかしソリスの前では・・・。
聖と癒をつかさどる陽魔法と、死をつかさどる死霊術の歴史は、正義と悪の物語がほとんどだ。死霊術が汚名返上の努力をしなければいけないことは確かであり、カローナもその覚悟はあるし、さほど苦ではない。
もっと若いころ、ソリスと初めて会って警戒心をぶつけられた時も「きっと乗り越えられる」と思っていた。
しかしそれはかなわなかった。
ソリスの兄は、戦争でカローナをかばって死んだ。ソリスはそれ以来、カローナの前では無表情だ。
ソリスの兄は
本当に、その戦死は惜しまれた。生まれながらにして回復魔法が体にかかり続けている状態という特異体質ゆえに、陽魔法属性だったにもかかわらず、その魔力は常に体内で消費されてしまうため、術はほとんど使えなかった。その代わりに東方の体術を磨き上げ、あらゆる攻撃を避け、いなし、耐えるその戦いぶりは「受けること竜の背鱗の如し」と謳われた。
『
極められた回復力と防御体術で、人を守り、国を守り、そしてカローナを守った。戦友として、お互いの好意を知るのに、そう時間はかからなかった。
カローナは、ヒュウガとひそかに愛し合っていたことも、
「(ヒュウガ・・・、ごめんなさい。まだ言えそうにない。)」
そして魔法学校校長のテレーズは、ソリスとヒュウガの実の母でもある。
ヒュウガを失わせた負い目、心に抱えたその死の秘密から、ソリスとテレーズの前では、とても陽気にふるまうことはできなかった。戦争が終わった後、カローナが王都を離れていたのにはいろいろな理由があるが、ヒュウガのこともあった。一朝一夕ではどうにもならない自身の気持ちに、カローナは空を仰いだ。
「(私が死霊術士でなかったら・・・。)」
カローナは首を振って、雑念を払った。
「(弱ってるなぁ・・・しっかりしないと。まいっちゃうわね本当に。)」
学校の中心部に近づくにつれ、テレーズのいる場所が見えてきた。
中央校舎の一角、王都を見渡すことのできる小さな塔に、王立魔法学校校長テレーズの部屋があり、その執務室のさらに奥の寝室にテレーズはふせっている。
「(よし!)」
校長とはいえ、弱っている人間に弱さは見せられない。必ず安心していただくのだ。
カローナは、今一度四肢に力を入れ、背筋を伸ばし、気を張った。
悩める花の死霊術士 にわとり老子 @niwatorirousi
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